« 2009年12月 | トップページ | 2010年9月 »

2010-08-11

〔いんさいど世界〕 英国で教育改革法(アカデミー法)が可決・成立 優秀校を「アカデミー」(独立校)と認定 教師・父母らによる「フリースクール」新設の道も スウェーデンをモデルに 保守党主導で連立政権が公教育を改革 

  英国で、保守党が主導する「公教育改革」が始まろうとしている。「公教育の独占を打ち破る」とされる今回の「改革」は、7月26日に英議会で可決・成立した「アカデミー法」に基づくもので、

 ①「アカデミー(独立校)」の新たな新設プログラム と
 ②「フリースクール(教師・父母らによる新設独立校)」プログラム の

 2つを柱にしている。
 ⇒ http://www.guardian.co.uk/education/2010/jul/27/mps-pass-academies-bill

 《アカデミー》 保守党が進めようとする「アカデミー」の新設プログラムは、労働党のブレア政権が推進していた「アカデミー」とは、以下の点で異なる。

 ブレア政権の「アカデミー」は教育崩壊が著しい貧困地域を主な対象とし、スポンサー(大学、企業など)の応援を得た公立学校が、独自の教育プログラム(カリキュラム)を持つ、独立校としての地位を獲得し、活動を開始するものだが、今回、保守党主導の連立政権の、マイケル・ゴーヴ教育相(保守党)が進めようとしている「アカデミー」は、英政府(OFSTED=教育基準局)が「優秀校」と認めた公立校には、スポンサーの有無にかかわらず独立校のステータスを与えるというもの。

 ことし2010年9月――つまり来月の新学期から始める、という慌しさで、現在、申請を募っている。

 また、労働党政権の「アカデミー」は、地元自治体との「協議」の上、申請する仕組みだったが、保守党の新「アカデミー」は、「適切なグループとの協議」を求めるだけで、地元自治体との協議義務を求めていない。

 自治体との事前協議が外されたのは、これが「アカデミー」申請の足かせになっている(と、保守党が主張している)ためだ。

 「アカデミー」に認定された公立校は、
 ①地元の当局のコントロールから離脱する
 ②政府から直接、学校のファンド(運営資金)の交付を受ける
 ③交付されたファンドの使途を自由に決める
 ④「広く、バランスのとれた」独自のカリキュラムを決める
 ⑤フェアな基準に基づき、独自に入学者を決める
 ⑥教師・スタッフの雇用条件を決める

 ――ことができる。

 《フリースクール》 一方、来年、2011年の9月の新学期からスタートする「フリースクール」は、教師や父母らが立ち上げる新しいタイプの公立校で、認可されれば、上記の「アカデミー」のステータスを持つ。

 新政権はこのためのスタートアップ・ファンドとして5000万ポンド(67億5000万円)を用意するとしている。
 また、この財源について新連立政権は、他の公教育予算を削って充当するものではない、としている。

 この「フリースクール」もすでに申請受付が始まっており、その半数は教師グループによるものだという。

 シュタイナー学校やモッテソーリ学校のほか、宗教学校、あるいは無神論の学校の、「フリースクール」認可申請もあるという。

 なお、保守党と連立を組んだ自由民主党は(選挙戦中は、保守党マニフェストを批判していた!)、「フリースクール」の設置に同意するにあたり、保守党から、既存の公立学校にもカリキュラムの自由を認める、との合意を取り付けている。

 《スウェーデン・モデル》 保守党は、総選挙で自党の教育改革マニフェスト「フリースクールはスウェーデン・モデルだ」と言って、有権者(父母)に売り込んだ。

 スウェーデンでは、とくに中道右派の政権下、1993年以降、「独立‘自由’学校(independent ‘free’school)」制度が導入され、今では公立学校の10%にあたる千校以上が開校している。(現在は野党の立場の旧政権党、社会民主労働党は、制度には賛成しているものの、今後の新設については「凍結」するよう求めている)

 この「独立‘自由’学校」に子どもを通わせる家庭には「教育バウチャー」が支給され、各「独立‘自由’学校」は家庭からこれを受け取って、学校を運営する仕組みだ。

 「教育バウチャー(クーポン)」は、公教育における生徒1人あたりの経費と同額。 
 
 また「独立‘自由’学校」は、「営利」も容認されている。つまり、教育企業による学校経営も認められているわけだ。

 60社ほどあるこうした教育企業の中で、最大のものは、Kunskapsskolan(「知識学校」の意味)で、中等学校22校、高等中等学校10校を運営している。

 英紙インディペンデントが紹介していた、首都ストックホルムにあるKunskapsskolan 高等中等学校の場合、生徒数は580人。普通の高等中等学校の3分の1の規模だ。

 同紙は生徒のひとり、ロビン君(17歳)の学校生活ぶりを紹介しているが、ロビン君は1日ワンレッスン受けるだけ。あとは自宅で勉強したり、マイペースで学んでいる。
 「(前に通学していた)古いシステムに僕は縛りつけられていた。僕は家で勉強するのが好きだ。(ここでは)自分で立てた課題に責任を持つことができる」と、ロビン君。

 しかし、このKunskapsskolan は、徹底した「フリースクール(自由学校)」ではない。ロビン君もまた、毎週、チューターの面接を受け、次週の課題を設定したりしている。

 (Kunskapsskolan のWikiによれば、35段階の「ステップ」のほか、「自分って何?」といった「コース」が設けられている)

 英国の保守党は、この「スウェーデン・モデル」をモデルに、父母らが申請した「フリースクール」に対し、教育企業との「パートナーシップ」を認めることにしており、公教育の民営化に新たなチャンネルが開かれることになる。
 (英国の公教育の民営化は、部分的ながら、もうすでに始まっている。たとえば米国の教育企業、エジソン社は、ロンドン北部のチューリン・グローブ校の運営を請け負っている)

 ロンドン西部では現在、作家・ジャーナリストのトビー・ヤング氏を中心に、父母400人が集まって、「ウエスト・ロンドン・フリースクール」の開設準備を進めているが、適当な教育企業と組んで運営する予定だ。
 素人がやるより、プロに任せた方がいいというのが、その理由。組んだ教育企業がダメなら別の企業に乗り換えればいい、と考えている……。 

 こうした「スウェーデン・モデル」とともに、英保守党が「手本」としたのが、米国の「チャータースクール」だ。労働党のブレア政権もチャータースクールを念頭に、「シティー・アカデミー(その後、ただの「アカデミー」に改称)」を立ち上げたが、これは発祥の地、米ミネソタ州にあるチャータースクール1号校の名前を拝借したものだ)

 《保守党 教育改革への批判》 今回の保守党主導の「教育改革」に対する批判はさまざまだ。
 
 その中で特に重要と思われる指摘を紹介すると、ブレアの「アカデミー」が貧困地域の公教育の「再生」を狙ったものであったのに対し、今回の保守党の「アカデミー」は、教育に関心が高いミドルクラス(中流層)に的を絞ったものではないか、との見方が出ていることが、まず挙げられる。

 次に、先にも指摘したことだが、地元自治体との「協議」を外し、「アカデデミー」を政府が直接ファイナンスすることによる、教育分権の否定と中央集権化の推進に対する批判。

 そして三つ目が、これまた繰り返しになるが、教育企業への公教育の「売り渡し批判」である。

 さらに、新政権が「アカデミー」の入学者決定を方式を、「申し込み順」といった「公平な」ものでない、その学校に独自のものであっても構わない(たとえば成績、テストでの選考)と考えていることを示す内部文書がプレスに漏れたことで、公教育にふさわしくない、エリート校をつくるものではないか、との見方も出ている。

 そして最後に、「改革」の外側に取り残された、公教育「本体」部分の改革ビジョンの欠落――。

 先に指摘した通り、保守党と組んだ自民党は既存公立学校にも「カリキュラムの自由」を認める合意を取り付け(さらに、貧困家庭にキャッシュを支給する支援策も、保守党に約束させているが)ているが、その具体策が何も示されていないのは問題である。

 グローヴ教育相の派手な宣伝にもかかわらず、「アカデミー」「フリースクール」の申請数が実は、公表数より一桁少ない、それぞれ153、62校にとどまっていることが暴露されるなど、保守党がキャンペーンで描く「夢」と「現実」の落差は大きい。

 9月にスタートする「アカデミー」はどんな「顔ぶれ」になるのか――懸念されているように、全国テスト高得点校だけが「優秀校」として認可されるのか――、審査の結果と今後の行方を見守る必要がある。

BBC ⇒ http://www.bbc.co.uk/news/10161371

      http://www.bbc.co.uk/news/10350661

ガーディアン ⇒       http://www.guardian.co.uk/education/2010/jul/19/michael-gove-schools-academies-plan

      http://www.guardian.co.uk/politics/2010/jul/21/swedish-style-free-schools-social-divide

        http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2010/jul/21/michael-gove-free-schools

インディペンデント ⇒
    http://www.independent.co.uk/news/education/education-news/tories-swedish-schools-plan-will-not-work-1902992.html

    http://www.independent.co.uk/news/education/education-news/government-publishes-free-school-application-forms-2003950.html

    http://www.independent.co.uk/news/education/education-news/free-school-conservatives-eye-the-swedish-model-1042734.html

  http://www.independent.co.uk/news/education/education-news/youre-not-going-far-enough-swedish-expert-tells-cameron-1042733.html

Kunskapsskolan ⇒ http://www.kunskapsskolan.se/foretaget/inenglish.4.1d32e45f86b8ae04c7fff213.html
  Wiki http://en.wikipedia.org/wiki/Kunskapsskolan

Posted by 大沼安史 at 03:51 午後 いんさいど世界 | | トラックバック (0)