〔コラム 夢の一枝〕 「わたしはあの子を医者にしてあげたい」 アンジェリーナ・ジョリーの涙
女優、アンジェリーナ・ジョリーさんは、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の親善大使である。
その彼女が9月末、ニューヨークで開かれたクリントン前大統領主催のシンポジウム、「紛争及び紛争後の状況における教育」セッションに参加し、イラク難民の子どもたちに対する教育支援の必要性を訴えた。
ジョリーさんは8月、イラク難民が流入するシリアを訪問し、難民たちと面会して来た。
ダマスカスでのことらしいが、こんなことがあった。
路上に、火傷を負ったイラク人の若者がいて、乞食をしていた。イラクで拷問を受け、ゴミと一緒に焼かれ、シリアに逃げて来た。
そして、その若者に、年下の友だちがいた。
10歳の少年。同じく戦乱のイラクから逃れて来た男の子だ。
男の子は街頭でテッシュを売って暮らしていた。テッシュ売りのかたわら男の子は、火傷した若者の包帯を取り替えたり、看病をしていた。
それを見たジョリーさんは、その子に聞いた。「医者になるつもり、ある?」と。
その子は答えた。
「いや、ぼくは医者にはなれない」と。
「どうして?」と、ジョリーさんが聞くと、少年は言った。「ぼくはテッシュを売らなくちゃならないから」
そのやりとりを紹介して、ジョリーさんはこう語った。
「その子はすでに医者でした。親身になって、看病していたから。テッシュ売りで稼いだ金を遊びに使わずに看病していた。ティッシュを売らなくちゃならないとその子が言ったとき、わたしはその子を医者にしたいと思った」
そう語るジョリーさんの目に涙が溢れた。
女優の作り涙ではなかった。6年前から、UNHCRの親善大使を続け、難民の支援を続ける、ひとりの女性、ひとりの母親の涙に見えた。
日本の医学生にも、見てもらいたい涙だった。
ぼくも、もらい涙を、ふた粒ほど、彼女から頂戴した。
ハードなスケジュールで疲れた彼女の顔が、涙目を通して、慈母のように神々しく見えた。
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http://video.clintonglobalinitiative.org/health_cast/player_cgi2007_nointro.cfm?id=3502