〔ニューヨーク・タイムズ・マガジン〕◎ 暮らせる賃金(living wage)は鬱になるを防ぎ、安眠をもたらし、ダイエットにもつながり、ストレスをとってくれる。それどころか、結果的に、10代での妊娠さえ回避できる……◇ 「最低賃金15ドル(への引き上げ)は、よりましな生活をもたらしただけではなかった。それは人びとの人生を救った」◇ 米国では自治体が最低賃金を決めている。シスコ近くのエメリーヴィルでは、ことし7月から時給15ドルを「16ドル(1769円)」に引き上げ!★ 日本も見習うべきだ!
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〔★は大沼〕 ◎ ニューヨーク・タイムズ・マガジン The FUTURE of WORK The $15 Minimum Wage Doesn’t Just Improve Lives. It Saves Them. (マシュー・ディズモンド・米プリンストン大学社会学教授)
(2019/02/21)⇒ https://www.nytimes.com/interactive/2019/02/21/magazine/minimum-wage-saving-lives.html?action=click&module=Discovery&pgtype=Homepage
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◇ マシュー・ディズモンド教授の記事のポイントのいくつかを、以下、箇条書きで。
・ サンフランシスコ近郊、バークリーとオークランドに挟まれた、エメリーヴィル市(人口12000人)。
グァテナマラから労働ビザで入国し、母親と2人のきょうだいとともに暮すフリオさんの2014年時点での働きぶりは、以下のようだった。
夜10時から翌朝6時までマックで。2時間、休みシャワーを浴びて派遣会社に8時に出勤、午後4時まで、派遣先で働く。1日16時間労働。週休なしの働きづめ。
フリオさんは当時、24歳だった。弟(8歳)が、フリオさんに言ったそうだ。
「お金をためて、兄ちゃんに一緒に遊んでもらうんだ。1時間、いくらなの?」。そう聞いてフリオさんは泣いたのだそうだ。
一部屋に4人。弟と遊んでもやれない暮らしだった。
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・ そのころ(2014年)、隣のオークランド市が住民投票で、最低賃金を9ドルから12.25ドルに引き上げた。その動きに呼応し、当時の女性市長、ルース・アトキンさんが、「暮せる賃金」の実現を市議会にはたらきかけ始めた。フリオをさんも、ルース市長のイニシアチブに応え、「15ドルへの闘い」キャンペーンに参加した。
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・ 市議たちもキャンペーンに共鳴し、2015年5月、エメリーヴィル市議会は、2019年までに市内の最低賃金を時給16ドルまで引き上げる決定を行なった。
2018年7月から15ドル、2019年7月から……あと半年足らずで16ドルになる。この16ドルは全米トップクラスのものだ。
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・ 現在、時給15ドルで働くフリオさんは、よく眠れるようになり、公園でウオーキングをするまでになった。
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・ 2017年のジョージア工科大チームの研究論文によると、最低賃金を1ドル引き上げることで、育児怠慢/放棄を
なんと10%、減らすことができる。家の電燈が点き、冷蔵庫のスイッチを入れることができる。
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・ 別の調査では、もし最低賃金が15ドルであったなら、2012年までの4年間に、ニューヨークの若死にを最大5500人、減らすことができたとの試算が出ている。
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・ 「貧困は安上がりに改善されるものではないが、それはしかし、比較的小さな収入増に対して労働者がどれだけパワフルに反応するものなのか、認識することを妨げるものではない」
Poverty will never be ameliorated on the cheap. But this truth should not prevent us from acknowledging how powerfully workers respond to relatively small income boosts.
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・ ピッツバーグの病院で働くアレキサンドリアさんは、2018年1月の週給が増額されているのに気付いた。12.32ドルが15.50ドルになっていたのだ。早速、スーパーに行って、食べたことのない果物や野菜を食べた。健康が増進した。給料の増額は会計ミスとわかり、過払いということで減額され、仕事を増やさざるを得なかった。
現在、彼女(時給14.42ドル)は病院での労組を結成しようとするグループに参加している。
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・ 「暮らせる賃金」を一時的に手にしたことで、アレキサンドリアさんはブロッコリーの味を分かっただけでなく、「低賃金は人間の基本的尊厳に対する侮辱である( Low wages are an affront to basic dignity.)」ことに気づいた。
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・ 米国ではフリオさんのような幸運な労働者だけではない。2016年の連邦政府・最低賃金は7・25ドル(802円)。それ以下の低賃金しか得られていない人が220万人もいるそうだ。
日本でも、エメリーヴィル市にならって、時給16ドルレベル(1769円)、あるいはそれ以上の――「暮していける最低賃金」制度化が望まれるところだ。
デズモンド教授のいうように、こどもたちが、それで、一番救われる。それは日本社会の未来が維持されることでもある。
Posted by 大沼安史 at 12:25 午後 | Permalink