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2015-11-26

〔夕陽村舎日記〕◆ 清貧の農の甘やかさと、それを裏切る、害獣どもの宴――のことなど 

 岡山の山間、吉備中央町の山里から山形市へ、後ろ髪を引かれる思いで引っ越し、2か月が過ぎた。

 今朝、新聞で、知った。

 安倍政権が25日に「TPP総合対策本部を開催」――。

 官邸のホーム・ページにアクセスしたら、こんな写真が掲載されていた。  

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          *

 一目見て、ここに「害獣」どもがいる、と思った。

 これは「害獣どもの宴」だと思った。

 そして(同時に)、吉備高原での最後の日々、わたしの目の前で繰り広げられた、80歳代のNさん夫婦による、あの息の合った、必死の刈りいれ作業を思い出した。

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 雨雲が迫っていた! 

 雨脚が接近していると知ったNさんの奥さんが、Nさんがひとりで刈り入れ機を動かしている、わたしの家の前の田んぼへ、「軽」を走らせて来た。

 Nさんに急を告げ、二人で必死になって刈り上げ作業を続けた。

 雨で稲穂を濡らしてはならない。

 トラックの荷台に、自動脱穀した籾が積み上がったところで、雨が来た。

 素早く、手早く、ブルーシートをかけて行くNさん夫婦。

 …………間に合った!

          *

 天敵は――田んぼの害獣は、イノシシである。

 Nさん夫婦は電気柵で、田んぼを守っていた。

 わたしはそうやって田んぼを守り、稲作をしている2人の姿を、田植えから刈取りまで(はじめて一部始終を)、目の当りした。

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 Nさんは言った。

 「イノシシにはかわいそうだけど、見つけたら殺さなければならない」

 その言葉を思い出し、「TPP反対」を公約しながら、票田の農業者たちを裏切り、涼しい顔でTPPに合意した安倍首相以下の害獣どもを即刻、駆除しなければならないと思った。

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 山形もまた米どころである。

 長井市で農業を営む菅野芳秀さんが「農業協同組合新聞」に、こう書いていた。

 ≪ 「ウソつかない。TPP断固反対。ブレない。」2012年12月の総選挙にこのポスターを貼りまわり、選挙戦を闘ったのは自民党だ。それで民主党に勝ち、今の政権が誕生したわけだけれど、その後は我々が見てのとおりだ。しかし、公約を違えようがどうしようが、国民を金やモノで釣ればなんとかなる。今でもそう思っているのだろう。≫

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 ≪TPPが通ればそれを前提にした法制度の修正が始まる。不平等そのものだ。
 それを主導するのが国境をこえて存在する多国籍巨大企業群。その下でアメリカ国民も日本国民もカナダもオーストラリアも...。99%の国民はその餌食としてしゃぶりつくされる。壊国の条約と言われるゆえんだ。農業も農民もその例外ではない。
 コストをかけずに大規模に展開する。遺伝子組み換えでも、成長ホルモンでもなんでもありで、目先の利益のためならば環境に無理をかけようが、食の安全を犠牲にしようがかまわない。世界市場で優位に立つのはこんな農業。持続的なあり方とは対極にある農業だ。≫

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 菅野さんはしかし、白旗を掲げているわけではない。負けてはいない。

 ≪ だが、TPPはまだ合意したわけではない。国会批准はこれからだ。当然、12か国の合意署名が揃ったわけでもない。肝心のアメリカだって議会を通過することが困難だと言われ出している。
 「大筋合意」とはしゃいでいるのは日本だけだ。さぁ、もうひと頑張りだ。ここでくじけていたのでは、後世に言い訳できない。とりあえず、一升ぶら下げて仲間の所に行こうじゃないか。≫

 一升瓶で酒を酌み交わし、「アベノTPP」をぶっこわす算段をしようとしているのだ。

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 そう、「TPPはもう決まったこと」などとバカなことを言っているのは、NHK以下、日本の御用マスゴミだけである。

 次の選挙で、安倍政権を「ゴミ出し」すればいいだけのことだ。

 Nさん夫婦も、こころの底でそう思っているのではないか。

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 わたしはいまあらためて、官邸のTPP対策会合の写真に写しだされた「害獣」どもの醜怪な顔つきと、雨雲が接近するなか、テキパキ、最後の刈りいれに集中するNさん夫婦の、必死でいて、どこか落ち着いた、あの2人の清潔な表情を思い出す。

 そして、Nさん夫婦の、平家の落人のような気品のある所作、ふるまい、話しぶりに、都会では失われた、郷愁のようなものさえ、感じる。

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 官邸に巣食うアベノ害獣どもの醜悪さと、Nさん夫婦の上品さを隔てるものは何か?

 ウソを平気で言う政治屋どもと、土に生きる山里の農民を隔てる違いとは何か?

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 いろいろ考えているうちに、わたしが不意に思い出したのは、内村鑑三や新渡戸稲造らを育てた札幌農学校のクラーク博士と同郷(マサシューセッツ)の同時代人、エマーソンの、あの有名な言葉である。

 エマーソンは、あなたの力の源泉は?――と問われて、こう答えたのだ。

  「シンプルな田舎暮らしの清貧。その甘やかさ(スイートネス)」であると。

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 もういちど、官邸会合の写真に目を凝らし、これら居直り強盗どもの表情を見たまえ。(週刊誌が「パンツ泥棒」と報じた大臣の顔は見えないが……)

 このどこに、清貧な甘やかさがある?

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 雨雲は激しい雨を、新しい切り株の上に降らし続けている。

 Nさん夫婦は山向こうの自宅へ引き揚げて、もういない。

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 わたしは雨の中、田んぼの向こうの「日の丸」山に、なぜか感謝の心を伝えずにはいられなかった。

 柏手を打って、ナモタカマガハラと祝詞と唱えた。

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 その日のことを――いまも、鮮やかに覚えている。

          *

 わたしは、山形に向け、吉備の山里を引っ越しで去る日に眺めた、切り株に生えそろった「ひこばえ」の緑も覚えている。

 田んぼの緑は、日本の農を斬り捨てようとする害獣どもには無縁な、世直しの――害獣退治の、あさみどり色である。

Posted by 大沼安史 at 08:19 午後 |