〔あじさいコラム〕◆ たぶん君は、アメリカのトモダチも失った!?
4月29日、ワシントンの米連邦議会上下両院合同会議で、安倍首相は「希望の同盟へ」と題するスピーチを英語で行なった。
演説の最後は、こう始まった。
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まだ高校生だったとき、ラジオから流れてきたキャロル・キングの曲に、私は心を揺さぶられました。
「落ち込んだ時、困った時、……目を閉じて、私を思って。私は行く。あなたのもとに。たとえそれが、あなたにとっていちばん暗い、そんな夜でも、明るくするために」。
2011年3月11日、日本に、いちばん暗い夜がきました。日本の東北地方を、地震と津波、原発の事故が襲ったのです。
そして、そのときでした。米軍は、未曾有の規模で救難作戦を展開してくれました。本当にたくさんの米国人の皆さんが、東北の子供たちに、支援の手を差し伸べてくれました。
私たちには、トモダチがいました。……
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高校生の安倍首相が心を揺さぶられた、キャロル・キングの歌とは、
You've Got a Friend
である。
首相が高校1年生の3学期、1971年1月末のリリース。
首相より5年ほど年上のわたし(たちの世代)にとっても、懐メロでもある。
邦題は『君の友だち』。
ユーチューブにも収録されている。
ご存じでない方は、どんな歌か、聴いていただきたい。
(英語・日本語歌詞字幕付き)⇒ https://www.youtube.com/watch?v=I9vaEBS3l1w
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この歌を引き合いに、安倍首相は、3・11後のトモダチ作戦で日本を助けてくれた米国の感謝の意を表したのだ。
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安倍首相がこの歌のどんなところに心を揺さぶられたかは知らないが、「1971年の日本」は――そして同じく、「1971年のアメリカ」は、ベトナム戦争が荒れ狂い、若者の反乱が弾圧され、蹴散らされた、冬の時代の最中にあった。
そういう時代の、若者同士の連帯を、キャロル・キングさんは歌ったのである。
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訪米した安倍首相をボストンの自宅に招いたジョン・ケリー米国務長官は、米海軍の中尉としてベトナム戦争に従軍、3度負傷した人だ。
ベトナムから生還した彼は、他の退役軍人ととともに、ワシントンの連邦議会へ、勲章とリボンを投げつけた。
反戦の意思表示。
高校生の安倍首相が、キャロル・キングの You've Got a Friend に心を揺さぶられたという、同じ1971年4月23日のことである。
ウィキ ⇒ http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%B1%E3%83%AA%E3%83%BC
そして――そのジョン・ケリーの支援に、国家に対する裏切り者と中傷された民主党の新進政治家、ジョン・ケリーの支援に立ちあががった人気女性歌手こそ…………キャロル・キングだった。
ウィキ ⇒ http://en.wikipedia.org/wiki/Carole_King
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キャロル・キングの You've Got a Friend がヒットする前年、1970年5月4日、米オハイオ州のケント州立大学で、ベトナム戦争に反対する学生デモに対して、州兵の部隊が発砲、学生4人が射殺される虐殺事件が起きた。
5月4日――そう(ことしの)昨日は、虐殺事件の45周年の記念日。
安倍首相が高校生のころ、アメリカでは戦争に反対する大学生たちが州兵という軍隊の銃撃で、若い命を散らしていたのだ。
首相は、この事件を覚えていることだろうか?
ニール・ヤングは虐殺に抗議し、怒りをこめて、『オハイオ』を歌った。
このユーチューブの音楽ビデオを見るがいい。
⇒ https://www.youtube.com/watch?v=UxdqEjocEQQ
挿入された現場写真を!
血を流して倒れた男子学生に駆けよる女子学生の姿を!
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そういう時代の歌を、安倍首相は演説の締めに使った。
演説を聞いたケリー長官は――あるいは議席を埋めた上下両院の議員たちの多くも、半世紀近く前の、ベトナム戦争という悪夢の時代を思い起こしたことだろう。
米軍とともに世界のいかなる場所でも戦争しますと尾っぽをふる、日本の首相から、こんどはこっちから You've Got a Friend だと、下手な英語で演壇からまくし立てられ、あの南ベトナムのかいらい政権の腐敗と末路を思い出した議員も多かったことだろう。
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安倍首相は好きかは知らぬが、キャロル・キングの歌のなかで、(わたしが)いちばん好きなのは、あのパンチのきいた I Feel The Earth Move だ。
⇒ https://www.youtube.com/watch?v=wbQ4m-NqeF8
♪ 地面が揺れて、空が落ちてきた わたし、コントロールを失った……
今、こうして聴き返すと、まるで、3・11と、その後のフクイチ放射能汚染を予告しているようにも思える。
米国の議員たちも、安部首相のトモダチ演説を聞きながら、この歌のことを思い出していたのではないか?
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議会演説で、人類の安全保障上の最大の問題となった「フクシマ」のフの字も言わない日本の首相を、米議会の人たちは、心の底で、どう思ったことだろう。
この男は信用できる、と思った議員は何人いたろう。
この男こそ、真の友人、と思った人は、何人いたか。
Posted by 大沼安史 at 10:32 午後 | Permalink