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2012-05-31

〔フクシマ・ノート〕 「セシウム街道をゆく」

 米スタンフォード大学フーヴァー研究所の 西鋭夫(としお)教授(国際関係論・現代日本論)は、自他ともに認めるリアル・ラスト・サムライ……根っからの熱血愛国者である。
 → http://www.facebook.com/pages/%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%83%89%E5%A4%A7%E5%AD%A6%E6%95%99%E6%8E%88-%E8%A5%BF%E9%8B%AD%E5%A4%AB-%E5%A4%9C%E6%98%8E%E3%81%91%E5%89%8D%E6%97%A5%E7%B1%B3%E3%82%A2%E3%82%B8%E3%82%A2%E6%97%A5%E8%A8%98/356158121080686?sk=info

 その西鋭夫教授が、4月6日付けで、フーヴァー研の「フーヴァー・ダイジェスト」に発表した、「フクシマ」に関する英語の文章を、ニューヨーク在住の元国連アドバイザー、松村昭雄さんの英語ブログで知り、さっそく目を通した。
 → http://akiomatsumura.com/2012/05/on-the-cesium-road.html

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 タイトルは On the Cesium Road――つまり、「セシウムの道の途上にて」。

 もっと日本語らしく訳せば、「セシウム街道をゆく」。

 どこか司馬遼太郎さん的な、雰囲気を感じさせる題だ。

 その「セシウム街道」には――西教授が書いた文章には、いったい何があるのか?

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 その「街道沿い」にあるもの――それは……一言でいえば、気迫のこもった、怒り、だ。
 
 今朝がた、教授の文を一読しての感想はこうだ。

 打ち込むような、裂帛の気合が、英語になって、そこに、連続して、あった。

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 祖国・日本の……日本政府や東電による、フクシマをめぐる「眩く輝く、極めつけのゴマカシ(the most glaring shenanigans )」の数々を、まさに一刀のもとに両断する、怒れるサムライの、気迫のこもった文章が、そこには、あった。

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 では、何が、この上なく、ふざけたインチキなのか?

 西教授はたとえば、「(事故原因を究明するはずの)日本の官僚機構は塹壕に立て篭もり、何の新しい発見もないまま。まるで不断の被曝を糧としているかのように、肥え太っている」と書いている。

 事故の真相を隠し、「放射能・焼け太り」を続ける、われらの霞が関!

 それどころか、復興のために、「消費税の引き上げ」を口にする野田政権!

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 対する、教授の「返す刀」は痛烈である。

 たとえば――、

 「戦後日本は‘奇跡’の経済復興を成し遂げたが、そこに消費税はなかったではないか」――と。

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 教授はもちろん、「セシウム街道」の惨状についても、はっきり、こう記述してもいる。
 
 「逃げるしかなかった人の多くは絶望の中で死んだ。自殺した人もいた。世界で最も寿命が長いと言われていた、緑したたる、この日本列島の中で打ち捨てられて」
 Many of those who had no choice but to relocate died of despair. Some committed suicide, abandoned on the lush green archipelago where residents are expected to live longer than anywhere else in the world.

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 そんな「セシウム街道」の悲惨を目の当たりにして、西教授は、こう自問自答する。

 日本政府はわれわれに嘘をついているのか?――と。Is the Japanese government lying to us?

 答えは――イエス。

 日本政府を嘘つきというのは礼儀にかなったことでないかも知れない。しかし、3・11以来、高レベルの放射性ダスト(粉塵)や蒸気の呼吸を余儀なくさせらた人々に対し、礼節をいったい誰が求めることできようか?!

 日本人の長寿の秘密と言われる緑茶を、死の灰まみれにしたのは、いったいどこのどいつだ!――と。

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 首相補佐官がノコノコ、テレビに出て来て、東電が官邸に2ヵ月間、情報を隠し続けていた、そのことにショックを受けた――と語ったことがあった。

 その姿を見て、「わたしたち」もまた「ショックを受けた」。

 「(日本の政権当事者の)無能と(東電の)傲慢さに!」

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 西教授は、そんな日本の戦後権力を、「奇怪な生きもの」と呼んでいる。

 ヒロシマ・ナガサキを経験していながら、戦後日本は、放射能に免疫があると思い込んだ「奇怪な生きもの」に変身してしまった、と。

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 そして、そんな「奇怪な生きもの」どもが、なお、人々に盲従と盲信を迫り続ける、この国。

 しかし、この国の「われわれは、環太平洋の火の環(リング・オブ・ファイア=地震帯)の中の、この美しい日本列島において、(フクイチがもたらした)《核の冬》に直面していることを、すでに知っている。本格的な《核の冬》の訪れを目にするだけ、長生きできないかも知れないことを、ちゃんと知っている」――と西教授は言う。

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 そんな事態になってしまった今、「放射能と官僚制の囚人( prisoners of both radiation and bureaucracy)」として、これまであり続けて来た「われわれ」日本人が、今後、なすべきことは何か?

 最早、答えは明らか、問答は無用――口に出すまでもあるまいが、少なくとも、今、われわれがなすべきは、
 
 (これは西教授の言葉ではないが)「セシウム街道」を引き起こした「奇怪な生きもの」どもを退治して、《核の冬》に立ち向かうことではないか!

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 リアル・ラスト・サムライ、西鋭夫教授は、「セシウム街道をゆく」の結びを、「街道」に生きる人々の姿と、「街道」の向こうに広がる風景を、まるで小説家のような筆で、こんなふうに簡潔に描いている。

 「(街道に生きる)われわれは、この恐ろしい現実のさなかになっても、なおも平然として暮らし続けている。しかし、その一方で、安全で安い、永遠にクリーンなエネルギーのゴマカシは、引き潮のように、全て洗い流された」

 We can remain calm even in the midst of a horrible reality. Meanwhile, the falsehood of safe, cheap, and forever clean energy is swept away like the receding sea.

 フクイチという放射能の津波は原子力の安全神話を流し去ったが、あとに残された「われわれ」はフクシマという過酷な現実に耐え、生きていかねばならない。

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 「セシウム街道をゆく」――。

 私たちは、教授の気合をわがものとし、「奇怪な生きもの」どもを退治しながら、今や運命となったこの道を、なんとしても歩き続けなければならない。

 歩き続けて、生きのびる。

 わたしたちの前にあるのは、「セシウム街道」の、きびしい冬の道である。

Posted by 大沼安史 at 10:29 午前 |

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