〔東京新聞〕社説 電力料金 家計にツケを回すのか/★ ◇ 家計をやり繰りする主婦でなくても、ばかにするなと言いたくなる。
家庭向け電力は全販売量の38%なのに電力会社の利益は69%に上る。企業向けは62%を占めるのに利益は31%にすぎない。企業に安く、家庭は高く。黙っていては家計へのツケ回しが続いてしまう。
この数字は経済産業省が集計した二〇〇六~一〇年度の全国十電力会社の平均値だ。初の全国レベルの公表という。東電にいたっては家庭からの利益が91%。もうけは取れるところから取る。家庭狙い撃ち同然であり、多くの人々が驚いただろう。
取れるところから取るとは、値切りを要求してくる相手はそれなりに低価格で、黙っている家庭などは高い価格で-ということだ。
企業向けなどの大口料金は既に自由化されており、徐々に新規参入の発電事業者との競争が促され、利用量が多い東電管内の上位十位の料金は一キロワット時当たり平均十一円八十銭まで下がってきた。
家庭向けの一キロワット時平均二十三円三十四銭と比べると半額だ。家計をやり繰りする主婦でなくても、ばかにするなと言いたくなる。
家庭向けの割高料金を続けられるのは、電力会社が総括原価方式で守られていることが第一の理由だ。総括原価方式とは小口向け料金制度であり、燃料費や人件費などに一定の利益を上乗せして料金が決まる。経産省に認可されれば利益が確実にころがりこんでくるので、電力会社はコスト削減を怠り家庭に割高料金を強いてきた。
第二の理由は小口は自由化されていないので、電力会社がそれぞれの営業区域で独占的に販売し、家庭は電力販売先を自由に選べないことだ。言い値で買わされる窮屈な環境に置かれている。
さらに原燃料費調整制度も見逃せない。火力発電用の液化天然ガスなどを世界最高値で輸入している日本の電力業界は、上がった分を料金に上乗せできるので、ツケが消費者にそっくり回される。
過保護としか言いようのないこれらの仕組みは、すべて政府のお墨付きを得て整えられた。電力業界にとどまらず、政府も「共犯」のそしりを免れないだろう。
今月、学者らで構成する電力システム改革専門委員会が家庭用も含めた電力小売りを全面的に自由化することで一致した。これを受け、経産省は実現に向けた準備を進めるというが、これで安心してはいけない。
沈黙せず、パブリック・コメントなどを通じて政府を動かさないと「取れるところから取る」のあしき構造が温存されかねない。
Posted by 大沼安史 at 02:10 午後 | Permalink