〔国会事故調・菅直人前首相〕東京新聞・社説 国会事故調 「藪の中」で終わらすな
原発事故で官邸の対応が後手後手に回ったのはなぜか。国会の事故調査委員会で、菅直人前首相らの説明には納得がいかない。非常時に何があったか、「藪(やぶ)の中」で終わらせぬ真相解明が必要だ。
「総理に十分な説明ができない原子力安全・保安院が問題だ」と菅氏は強調した。原子炉への海水注入をめぐる混乱も、東京電力側の人物の問題だと批判した。一方、自分の言動については、反省の言葉はさっぱりない…。これが菅氏の姿勢だった。
だが、原発の炉心溶融(メルトダウン)についてはどうか。東電が事実を認めたのは二カ月も遅れた。過酷事故を示す最も重要な情報だ。枝野幸男前官房長官は「炉心が溶けていることは大前提だった」と述べた。
確かに水素爆発の翌日に、メルトダウンの可能性を記者会見で触れたが、「メルトダウンに至る状況が続いているわけではない」とも当時は語っていた。政権中枢は事実を把握しながら、あいまいな公表を続けてきたことにならないか。重大な背信行為である。
放射能の拡散予測システム(SPEEDI)についてもそうだ。担当者が試算をしたのに、長く公表されなかった。枝野氏は「公表しろと指示した」と言うが、なぜ実行されなかったのか。速やかに緊急事態宣言を出さなかった点も、菅氏は「支障はなかった」と言う。菅氏や枝野氏の発言は、どこか言い逃れに聞こえる。
そもそも東電や保安院などに「発表するなら同時に官邸にも報告してくれ」と官邸側が要請していた。非常事態の状況は刻一刻と変化するものだ。事前に官邸に報告することは、公表について官邸の了解を得ることと同義だ。むしろ、最新情報の発表のタイミングがその分、遅れることになる。
情報管理を重んじた官邸の判断は、被災者や一般国民にとっては情報が適切に届かない事態を招くわけだ。情報開示の問題は、厳しく指弾されるべきである。
東電が事故直後に職員の「全員撤退」を政府に打診した点は、言い分が全く食い違う。
菅氏や枝野氏が「打診があった」と言うのに、東電側は「事実はない」と主張する。撤退していれば、想像を超える爆発が起きた可能性もある。
民間事故調などと異なり、国会事故調は国政調査権を持つ。その強い権限をフルに活用して、六月中にまとめる報告に向け、徹底的に検証してほしい。
Posted by 大沼安史 at 01:14 午後 | Permalink