〔新刊案内〕 『諜報ビジネス最前線』 (緑風出版) エイモン・ジャヴァーズ著、 大沼安史訳
「諜報企業」をご存じでしょうか? 諜報機関ではなく、諜報企業……。
グローバル化した経済の闇にまぎれて、諜報活動を続ける企業体――それが「諜報企業」。
各国の諜報機関のエージェントたちが「冷戦」後、新たな活動の場を「市場」に求めて、どっと民間に下って「暗躍」を開始しているのです。
本書はアメリカの経済ジャーナリストがその世界的な実態を解明したドキュメント。
企業防衛にあたる方々(総務部、法務部)には、とくに必読のレポートと思われます。あるいは、「業績」を発表する責任者にとっては、とくに……(「相手」は「戦術的行動評価」をしかけてくるので)。
(この「戦術的行動評価」は、記者会見に参加するジャーナリスト、あるいは事件の取り調べにあたる捜査員・検察官にとって、非常に役立つものと思われます!)。
海外ではこうした諜報企業のエージェントが環境団体にもぐりこむなど、市民運動に対する脅威にもなっています。
日本での活動も、水面下で相当、進行していると思われます。要警戒です。
なにしろ、諜報機関レベルの諜報テクニックが売り物なわけですから。
ネット攻撃など、サイバー戦争のままごとのようなものですから、片手間、朝飯前なのでしょう。
46判・464ページ、2940円
以下(続きに「訳者あとがき」を掲げましたので、お読みになってください。
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訳者 あとがき
「諜報企業のエージェント」、あるいは「企業スパイ」――どちらも企業活動のためのスパイ活動全般を指す言葉だ。このうち「企業スパイ」の方は一昔前まで使われていた呼称で、私たち日本人にも割合と馴染みのある言葉だ。競争相手の企業の秘密を密かにキャッチする「企業スパイ」――。
そんな「企業スパイ」には「私立探偵」のイメージが重なる。路地裏に潜んで、辛抱強くターゲットのマークを続ける、ちょっと野暮ったい「私立探偵」の姿が目に浮かぶ。足元に散らばるのは煙草の吸殻……。
「企業スパイ」というと私たちは、どうしてもこんな、やや時代がかったイメージを抱きがちだが、闇の奥に潜む、彼らの本当の姿を、私たちは知らない。
今も「探偵」、あるいは「私立探偵」は、たしかに存在する。しかし、それとは別に――街角の「探偵事務所」とは別に、「諜報企業」なるものが今や、いつの間にか続々と生まれ、一大産業を形成し、各社が世界を股にかけて活躍する時代になっている……。このことも私たちは知らない。
経済のグローバル化の中で「企業スパイ」活動もまた飛躍的な変身を遂げ、「諜報企業」が各国政府諜報機関あがりの筋金入りの「エージェント」らを使って、組織的なオペレーションを繰り広げるまでになっているのだ。
そしてワシントンやロンドンなど世界のビジネス・センターが、私たちの知らない間に「諜報産業」の拠点・市場になっているのだ。そんな「諜報産業」各社のエージェントたちが、これまた私たちの知らないところで密かな諜報活動を続け、互いにしのぎを削る段階に達している。
「諜報企業のエージェント」――。その活動の実態はしかし、さらに深い闇の底に潜んでいて、私たちには皆目、見当が付かない。「路地裏の探偵さん」ならイメージも湧こうが、世界的な「諜報企業」による「諜報オペレーション」となると、一体どんな人物が、何のために、どこで何をやっているものなのか想像すらできない。
秘密のヴェールに包まれた、「諜報企業のエージェント」らによる、現代世界の産業化した「諜報オペレーション活動」。その全貌を世界で初めて明らかにしたのが、米国の調査報道ジャーナリスト、エイモン・ジャヴァーズ (Eamon Javers) による本書、原題・Broker,Trader,Lawyer,Spy)』(二〇一〇年、ハーパー・コリンズ刊)である。
それでは現代おける産業化した諜報オペレーション活動とは、いかなるものか?
本書で詳しくレポートされた事例を紹介するような野暮なことはしないで、代わりに最近「ウィキリークス」による「米国務省機密電」暴露で明らかになったケースを見ることしよう。調査報道活動で有名な英紙ガーディアンが二〇一〇年十二月九日付で報じた事例である。(ネット閲覧可 ⇒
http://www.guardian.co.uk/business/2010/dec/09/wikileaks-cables-pfizer-nigeria?INTCMP=SRCH )
舞台はアフリカのナイジェリア。二〇〇九年四月九日、首都・アブジャのアメリカ大使館で、米国の製薬会社 の現地駐在マネジャーと大使館員との間で会議が開かれた。
その会議での製薬会社マネジャーの発言を、大使館の経済担当参事官がワシンントンの国務省宛の機密電で報告した。
機密電によると、製薬会社のマネジャーは会議の席で、こう言ったそうだ。
「調査員(インヴェスティゲーター)」を雇って、ナイジェリアの司法長官の汚職を調べさせている、と。
なぜアメリアカの製薬会社が「調査員」を雇って、ナイジェリア政府の司法のトップの汚職の証拠を押さえようとしていたのか?
その背景には、この製薬会社がナイジェリアで抗生物質の副作用で訴えられ、ナイジェリアの地方当局と、七千五百万ドルを支払うことで暫定的な和解・合意していたことがある。
ナイジェリアの司法長官の汚職の尻尾をつかめば、それを材料に取引し、裁判そのものを取り下げさせることができる(賠償金を支払わずに済む)かも知れない……。それがこの製薬会社の現地駐在マネジャーが「調査員」を雇った理由だった。
では、ここで言う「調査員(インヴェスティゲーター)」とは一体、何者なのか?
大使館の秘密報告にはただ「調査員」たち、とあるだけで何の説明もないが、恐らくジャヴェーズ氏が本書で暴き出した「諜報企業のエージェント」たちのことである。
ナイジェリアという一国の司法長官を相手に、汚職・不正の証拠を抉り出す……これは相当、大規模な仕掛けをつくらなければ、不可能に近いことである。地元の私立探偵に頼んできることではない。
アメリカの製薬会社が雇った「調査員」とは何者なのか?
本書の読者であれば、もうお分かりのはずだが、間違いなく、ワシントンあたりの「諜報企業」のエージェント・チームである。電話の盗聴はもちろんメールの傍受など「諜報のテクノロジーとテクニック」を駆使して調査にあたる「諜報エージェント」がナイジェリアに乗り込み、現地人を使いながら一大オペレーションを繰り広げたはずである。
製薬会社に雇われ動いたこの「調査員」、すなわち「諜報企業のエージェント」こそ、本書の著者のジャヴェーズ氏がスポットライトを浴びせた、現代における民間諜報戦のプレーヤーたちなのだ。
(ガーディアン紙の記事には、この「調査員」による調査活動が成果を挙げたかどうかは残念ながら出ていない)
もうひとつ、本書には出ていない「諜報企業」による活動ぶりの事例を、同じガーディアン紙の報道で見ることにしよう。
これは二〇一一年二月十四日付の記事。(ネット閲覧可 ⇒
http://www.guardian.co.uk/environment/2011/feb/14/energy-firms-activists-intelligence-gathering )
舞台は英国北部――。スコットランドの石炭火力発電所に反対する環境団体の内部に、電力会社や石炭会社に雇われた「ビジネス・リクス管理会社」が「浸透」し、メールを収集するなど諜報活動をしていたことが同紙の調査報道で明るみに出たのだ。
ジャヴェーズ氏による本書ではドイツの諜報企業による環境団体への諜報活動の実態が明らかにされているが、現代における企業諜報活動は、一方で市民運動・環境運動などをターゲットとするところまで来ているのだ。
ではなぜ、現代世界において企業諜報活動がビジネスとして成立しているのか?
これは著者のジャヴェーズ氏が本書で明らかにしたことだが、それは基本的に経済のグローバル化に伴い、企業活動がますます大規模化してビジネス・チャンスが大きく膨らみ、その分、収益確証・リスク管理のための企業諜報活動に対する需要が高まっているからだ。
そして、その需要に追いつく供給の素地が現代世界には用意されている。CIAなど各国の政府諜報機関が民間諜報業界の人材供給源となっているのだ。
旧ソ連のKBGのエージェントたちも「冷戦」後、民間に下り、中にはなんと、かつての仇敵の本拠・ワシントンで諜報企業を立ち上げ、米国企業のために動いている者さえいる。
本書は主に欧米の諜報企業にスポットを当てたものだが、経済がこれほどまでグローバル化している以上、その活動が日本にも及んでいるのは間違いない。実際、本書に実名で登場するあるワシントンのコンサル企業の場合、東京に日本法人を「店開き」しているのだ。
企業間のビジネス戦争が国境を超えたものになっている今、日本の企業にも、相手の諜報活動に「カウンター・インテリジェンス(対抗諜報活動)」で立ち向かわざるを得ない場面が今後ますます増えるものと見られる。
その意味で日本人である訳者の私としては、本書を日本企業の法務担当者ら企業防衛にかかわる皆さんにも是非とも読んでいただきたいと思う。
本書を読んで背筋の寒くならない日本の企業関係者は、そう多くはいないはずだ。別荘の前に蛸壺を掘って監視するなど、現代の企業諜報のエージェントたちの活動実態を知れば、日本の企業の企業防衛の構えも変わろうというものだ。
さて本書の著者、エイモン・ジャヴァーズ氏だが、「ビジネス・ウィーク」誌に拠って調査報道を続けたあと、二〇一〇年七月、CNBCテレビに移籍し、ワシントン特派員としてレポートを続けている人だ。
二〇〇六年にはノースウェスタン大学メディル・ジャーナリズム大学院から、調査報道賞を受賞している。ロビイストのジャック・エイブラモフが政治コラムストに賄賂を贈り、自分の顧客を持ち上げる記事を書かせていたことを暴露しての受賞だった。
本書はジャヴァーズ氏が「ビジネス・ウィーク」誌に書いた調査報道レポートをもとに構成されているが、こうした調査報道をできる人だからこそ、諜報企業の秘密の壁を突き破ることができたのだろう。
私も元新聞記者、こういうものの取材がどれほど困難なものか承知しているつもりである。その驚きが本書の翻訳につながった動機のひとつである。
東北大震災などの事情も重なり、翻訳作業は遅れに遅れ、版元の「緑風出版」の高須次郎氏にはまたまた迷惑をおかけした。
しかし大変な震災に遭いながらようやく、訳稿を仕上げることができたことは、訳者にとって大きな喜びである。
Posted by 大沼安史 at 12:10 午後 | Permalink

















