〔新刊案内PR〕 『諜報ビジネス最前線』(緑風出版) エイモン ジャヴァーズ著、 大沼安史訳
軍事級の諜報ハイテク、IT技術を駆使し、グローバル経済の舞台裏で暗躍する諜報企業!
以下は、 「第7章 戦術的行動評価」 の書き出しの部分的な抜粋です。
あなたの企業トップの業績発表に、耳を澄ましている諜報企業のエージェントたち…… 「TBA(戦術的行動評価)」があなたの会社を丸裸に!
彼らは何に注目し、聞き耳を立てているか?……
企業が秘匿したものが、企業のプレゼン、質疑応答の「言葉尻」から暴かれる……
第7章 戦術的行動評価
二〇〇五年八月二日のことだった。カリフォルニア州アラメダにある「ユーティースターコム(UTStarcom)」社の一室で、同社の経営陣が電話の周りに集まり、第二四半期の実績を投資家に伝える「収益(アーニング)コール」の開始を待っていた。同社の役員たちにとっては、いつも通りの、投資家との電話会議による経営報告の始まりだった。ウォールストリートの投資銀行に対し、「ユーティースターコム」の最高経営責任者(CEO)、ホン・リャン・ルーが、こんどもまた電話で説明することになっていた。財務諸表の数字を伝え、そつなく報告を終える予定だった。
縁なしのメガネ。そして、笑顔。髪を丁寧に撫で付けたルーCEOは、知的で能力の高いイメージを放っていた。ルーCEOは、こんな当たり障りのない言葉で電話報告を始めた。「私たちの報告を聞きに集まっていただき、ありがとうございます。おかげさまでQ2(第二四半期)は、当社にとって建設的な(コンストラクティブ)四半期となりました」
電話報告を始めたルーCEOが把握していないことが一つあった。電話のラインが数千マイル先の、ウォールストリートの投資銀行ではない別の場所にも繋がれていることを、ルーCEOは知らなかった。その別の場所には、CIA(中央情報局)で訓練を受けた尋問のエキスパートが聞き耳を立て、CEOの声の変化を聞き漏らすまいと神経を集中させていたのだ。「人間嘘発見器(ヒューマン・ライ・ディテクター)」のアナリストたちだった。CIAと密接に関係する諜報企業、「ビジネス・インテリジェンス・アドバイザー(BIA)」のエージェントたちだった。
ルーCEOが会社の財務の健全性について、すべて真実を語っているか、ルーCEOの電話の「声」で突き止めるためだった。彼らの結論は、「BIA」の顧客である、ある巨大ヘッジ・ファンドに伝えられることになっていた。ヘッジ・ファンドはその秘密報告も判断材料に使い、「ユーティースターコム」の株を売るか、買うか最終判断する。「BIA」の「人間嘘発見器」たちが「いい仕事」をしてくれれば、ヘッジ・ファンドとしては市場を出し抜くチャンスを手にすることも可能だった。「BIA」のアナリストたちが電話の「声」から引き出した「情報」は、数百万ドルの儲けさえも産み出すパワーを秘めていた。
……このルーCEOの答えの中に、「BIA」のアナリストたちは、一群の手がかりを見つけていた。何よりも問題なのは、ルーCEOの答えが、常に分かりやすくなかったことだった。ルーCEOは曖昧な言い回しのあちこちで、「限定的な言い方」をしていた。「……見通しです」「おそらく」「……ならざるを得ない」――がそれだった。CIA流の尋問テクニックから見て、ルーCEOのそうした言い回しは、第三四半期における弱含み予想を避ける戦術ととらえることもできる言い方だった。
……その中で「BIA」のアナリストらが特に着目したのが、マイケル・ゾフィーCFOの「収益認識」に関する回答の仕方だった。同CFOが答えを「条件付け」するため、「六月末の発表」に「言及」した点を問題視した報告だった。こうした「言及」を「BIA」では、「迂回声明(ディトゥール・ステートメント)」と呼んでいたのである。……
◇ 「訳者あとがき」は以下に。
→ http://onuma.cocolog-nifty.com/blog1/2011/10/post-94ea.html
Posted by 大沼安史 at 07:40 午後 | Permalink