〔フクシマ・ノート〕 大地を秤にかけた罪
日本政府によって矮小化されていた「フクシマ」の事故の、ほんとうの深刻さがまたも浮き彫りになった。
こんどは「汚染牛肉」問題で。
1キロあたり610ベクレルの死の灰の汚染牛肉。
日本の緑茶なら「国内問題」として封じ込めることも(あるいは)できようが、「ビーフ」となれば、そうもいかない。
ステーキ。カルビ。ハンバーガー。
Beef Scare ―「牛肉恐怖」。そんな表現さえ、世界を飛び交っている。
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日本政府(保安院)が「フクシマ」からの放射性物質の放出量を77万テラ・ベクレルだった、と修正(?)発表したのは、6月6日のことだった。
4月に、今回の事故を国際原子力事故評価尺度(INES)で史上最悪のレベル7と暫定評価した時は、37万テラベクレル。それが一気に2倍以上に膨らんだ。
77万テラ・ベクレル。それでも「チェルノブイリ」の「520万テラ・ベクレル」と比べ、「約7分の1」の放出量に過ぎない。と。
「チェルノブイリ」の「7分の1」……ほんとうだろうか?
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本ブログ既報の通り、「フクシマ」が「チェルノブイリ」の「7分の1」どころか、「チェルノブイリ」を軽く超え、過去に世界で起きた原発事故のすべてを合わせた以上の核燃料損傷が起きた疑いが、権威ある米国の科学者団体、「憂慮する科学者たち」の原発問題ディクレターのデイビッド・ライマン博士から提起された。⇒ http://onuma.cocolog-nifty.com/blog1/2011/07/post-79d9.html
ロクバウム博士は6月15日、マサチューセッツ州での公開シンポジウムで、こう指摘した。
「フクシマでは、過去に起きた全ての原子炉事故を合わせた以上の核燃料が損傷したとみられる」
“It appears that more fuel has been damaged at Fukushima than in all previous reactor accidents combined.”
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「過去に起きた全ての原子炉事故」を合わせたものを上回る「フクシマ」!
この「過去に起きた全ての原子炉事故」の具体的な中身についてロクバウム博士は公開シンポで、「チェルノブイリ、スリーマイル、フェルミ(炉の事故。エリー湖岸。すでに閉鎖)、サン・ローラン(セント・ローレント原発。フランス。ウラニウム溶融事故)とか、すべての事故炉を合わせた以上のものをフクシマは達成」と補足説明したが、これはロクバウム博士が作成した以下のスライドを見ると、一目瞭然である。(この点は中垣たか子氏からご教示いただいた)
http://www.ucsusa.org/assets/documents/nuclear_power/Fukushima-Tragedy.pdf (この最後、39枚目のスライド)
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スライドは秤のイラストで、左側に
1957年 Winsdcale
1961年 SL-1 Sodium Reactor Experimento
1966年 Fermi1
1979年 Three Mine Island
1986年 チェルノブイリ
が乗り、
右側に「フクシマ」が乗っている。
右側に――に、「フクシマ」の側に大きく傾いた秤。
スライドについた説明文に、こうあった。
The amount of fuel damaged in the Unit 1-3 reactor cores and the Unit 1-4 spent fuel pools at Fukushima Dai-ichi may be greater than the amount of fuek damaged in ALL past reactor accidents combined.
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この2つのスライドが作成されたのは4月のことだ。
ロクバウム博士は、この時点では may be greater than (大きいかも知れない)という表現だったが、6月15日時点では It appears(見える)と踏み込んでいる。
「フクシマ」は、そう「見える」。これは断定に近い、恐るべき宣託である。
「フクシマ」はチェルノブイリの「7分の1」(ただし「放出量」)どころか、それだけで(核燃料の損傷量としては)、「チェノブイリ」を含む過去の原子炉事故の一切合財を超えている……
「フクシマ」とはこれほどまでに重大な事故なのだ。
政府発表とマスコミの大本営報道で私たちの意識に刷り込まれた「フクシマ」は、これほどまでに矮小化されたものなのだ。
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政府が発表し、私たちが聞かされている「77万テラ・ベクレル」にしても、その天文学的な抽象的な数字を、具体的な尺度に置き換えてみれば、そのとんでもない深刻さが分かる。
これは御用学者や政府閣僚・官僚、東電幹部らを刑事告発した広瀬隆さんが(7月)15日の記者会見で強調したことだが、⇒(21分過ぎから) http://www.ustream.tv/recorded/16005458
・「77万テラ・ベクレル」を「1キュリー=370億ベクレル換算」して、福島県の面積(13781平方キロ)で割って得られる「1平方キロあたり1510キュリー」は、チェルノブイリの最も危険な立入禁止地帯の基準である「同=40キュリー」の35倍もの大変な数値。
・かりに「フクシマ」からの放射性物質の9割が海または福島県外に流れたとしても(福島県内の汚染はなお「同=151キュリー」だから)、チェルノブイリの最危険地帯の3.5倍もの汚染をしている計算
――だ。
これは途方もない「死の灰」汚染といわねばならない。
遠く離れた場所の稲わらに「死の灰」は降り積もり、それを食べた肉牛が「汚染」されるのも当然のことだ。
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しかし、「瑞穂の国」の私たちとして、心配なのは、「ビーフ」より「銀シャリ」だ。
実りの秋はたぶん、汚染新米が見つかる「放射能米」恐怖の季節になるだろう。
政府の「安全です」を信じ、田植えをしたコメどころの産米が「死の灰」にまみれていることが分かる……
考えたくもないことが起きる。
ほかにももっと考えたくないことが起きる。
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「フクシマ」の真相はなお明らかにさるべきことだが、「フクシマ」のほんとうの恐ろしさが現れるのはこれからである。
この国のけがれなき大地を――人の命を秤にかけ、原子力村の利益を優先して来た「フクシマ」の甚大なるツケが、いよいよ回って来る。
過去の原発事故の一切合財よりも重い巨大な「フクシマ」のツケが、この国にのしかかる。
「フクシマ」を引き越した人々の罪は、「過去の原発事故の一切合財」の罪よりも大きい。
それはおそらく、人類史上、最大・最悪の罪の部類に含まれることになろう。
Posted by 大沼安史 at 11:30 午前 | Permalink