« 〔フクシマ・For the Record〕 IAEA 「フクシマ」 閣僚会議で 「日本外し」 | トップページ | 〔フクシマ・For the Record〕 5月3日 「SPEEDⅠ」隠蔽 明るみに »

2011-06-26

〔フクシマ・ノート〕 フクシマ抜きで踊った IAEAフクシマ会議

 史上空前の原発災害で被災者、難民の苦難が続き、現場作業員たちの苦闘が続く中、「会議」はまたもウィーンで踊った。

 20日から5日間の日程で開かれたIAEAの「フクシマ閣僚会議」――。「チェルノブイリ」をも超えかねない「ダイイチ」の事故から教訓を引き出し、具体策を打ち出すはずだったのに、されど進まず、会議は踊り、結局、何の成果も生み出さないまま、24日、幕を閉じた。

    #

 天野之弥IAEA事務局長は、引き攣った顔で、こう「閉会声明」を締め括った。 ⇒ http://www.iaea.org/newscenter/statements/2011/amsp2011n014.html

 議長さま、紳士淑女のみなさま
 みなさま方がこの閣僚会議を成功に導いてくださったことに、IAEAの業務への支援と皆さんのご指導に対し、もういちど感謝申し上げて締めくくりの言葉としたいと思います。
 
 Mr. President, Ladies and Gentlemen,
 I would like to conclude by thanking you once again for making this Ministerial Conference a success, for your support for the work of the IAEA and for your guidance.

 世界151ヵ国の代表団が勢ぞろいしたはずなのに、ガラガラの閉会式。
 苦しげな表情で「成功」したと語る天野事務局長のあいさつに、まばらな会場から、覚めた拍手が短く湧き上がった。

    #

 そんなIAEAのフクシマ閣僚会議を、日本のマスコミはどう伝えただろう。

 日本国民の世論形成に圧倒的な影響力を及ぼすNHKの報道ぶりを見ることにしよう。

 NHKは25日、IAEA閣僚会議の閉幕をこう伝えた。⇒ http://www3.nhk.or.jp/news/html/20110625/t10013758223000.html

 「ニュース」の見出しは、「原発の安全基準強化 進展なし」。そして、ニュース本文の出だしは、

 東京電力福島第一原子力発電所の事故を受けて、世界の原子力安全の強化について話し合う、IAEA=国際原子力機関の閣僚会議は24日閉会し、IAEAの機能強化に向けては一定の成果は得られたものの、原発の安全基準の強化など本質的な課題の解決に向けた議論はほとんど進みませんでした――。

 このNHKの報道からも分かるように、「ウィーン会議」は天野事務局長の言う「成功」とは程遠いものだったわけだ。

 「失敗」に終わった「天野ジャパン」のIAEAフクシマ閣僚会議! 

    #

 しかし、「成功」しなかった会議だったにもかかわらず、このNHKのニュース報道はなぜか、こう続ける。
 
 オーストリアのウィーンで開かれていた会議は、24日の最終日に3つの作業部会の議長から報告が行われ、IAEAの専門チームが各国の規制当局や原発について定期的に評価を行うことや、IAEAが無作為で各国の原発を選んで抜き打ち的に検査を行うことなど、会議の初日に天野事務局長が提案したIAEAの機能強化策がほぼそのまま盛り込まれた形となりました。

 つまり、天野事務局長が提案したIAEAの機能強化策はめでたくも、ほぼそのまま「議長報告」も盛り込まれることになりました――というわけである。

 ならば会議は無為に踊ることなく、天野事務局長が引き攣った表情で「自賛」した通り、「成功」したことになる。
 「成功」? 「失敗」?――いったい、どっち?

    #

 事の真相を知るには、天野事務局長が会議の初日に行なった提案の中身を振り返り、それがNHKの言う通り「ほぼそのまま」「議長報告(正式には「議長要約)」に盛り込まれたかどうか検証しなければならないが、その前に(そのためにも)、この「議長報告(要約)」に関して確認しておかねばならないことがひとつある。

 それは、各部会の議長報告(要約)の作成作業から、日本政府の代表が外されていたことである。(共同通信 ⇒ http://www.47news.jp/47topics/e/214437.php )
 
 今回のIAEA閣僚会議の主題は、言うまでもなく「フクシマ・ダイイチ」事故である。その当事国である日本政府代表を「報告(要約)」づくりから外す!……

 日本国内ばかりか国際社会に対しても情報(真相)を隠し続けた日本政府に対し、世界各国の不信感はそれほどまで高かったわけだ。

    #

 不信はしかし、「日本(本国)政府」だけに対するものではなかった。

 本ブログ既報( ⇒ http://onuma.cocolog-nifty.com/blog1/2011/06/post-ba45.html )の通り、「天野ジャパンIAEA」に対しても、閣僚会議が開かれる以前から、強烈な批判が出ていたのである。

 「フクシマ閣僚会議」開幕、半月近く前の6月8日、「天野IAEA」の屋台骨を揺るがす衝撃的な記事がウォールストリート・ジャーナル(WSJ)に掲載された。( ⇒ http://online.wsj.com/article/SB10001424052702304906004576371781243470772.html? )

 ここでは「IAEA 日本の危機をめぐり批判浴びる(IAEA Draws Fire Over Japan Crisis)」というタイトルの記事の、さわりの部分だけ再録しよう。

、・「フクシマ」をめぐる対応、および今度の「原発安全基準」づくりをめぐって、G8(カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、ロシア、英国、米国)のうちの「3ヵ国」の「政府高官が原発安全基準の策定議論からIAEAの天野之弥事務局長を外そうとしている」

 ・「これらの政府高官は特に、IAEAと日本の元外交官である天野事務局長が日本政府の核防災計画や事故発生後の対応について適切な追及を行なったかどうかを問題視している」

 ・「これら政府高官の一部は、2009年のIAEA事務局長選で天野氏を支持したが、現在では天野事務局長がいまだに日本政府の影響下にあるのではないかと危惧している」

 ―― ジャーナル紙の記事は「3ヵ国」の国名は挙げていないが、その中心に米国がいることは明らかなことだ。
 それは閣僚会議の場で天野事務局長の「提案」に対して、米政府が反対したことでも分かる。(これについては後述)

 つまり米政府はWSJ紙を通じて、日本政府とつるんだ「天野ジャパンIAEA」に対して三行半ともとれる警告のアドバルーンを高々と揚げていたわけだ。

    #

 こうした中で20日の開幕を迎えた「IAEAフクシマ閣僚会議」だったわけだが、天野之弥事務局長は会議の初日に(NHKによれば「議長報告」のなかに「ほぼそのまま盛り込まれる」ことになる)「提案」を行なう。

 どんな「提案」だったか?
 
 ① 加盟国が自然災害を想定した原発の安全性評価を1年~1年半で行った後、IAEAの国際的な専門家による相互評価「ピアレビュー」を加える
 ② IAEAの安全基準を1年以内に見直す
 ③ 各国規制機関を完全に独立させる
 ④ 世界的な緊急時への備えと対応システムを強化する
 ⑤ IAEAの情報収集・伝達能力を向上させる

 この5項目提案が「議長報告(要約)」でどんなふうに扱われるかを見る前に、ここでもまた一点、確認しておこう。

 それは、(WSJ紙によると)この「天野提案」が各国代表団を驚かを与えるものだったことだ。「5項目」提案が出て、出席者たちはビックリしたのだそうだ。
 WSJ紙はこう書いている。⇒ http://online.wsj.com/article/SB10001424052702304887904576397931563319102.html?KEYWORDS=IAEA

 「天野事務局長はIAEAの安全管理の任務を強化する5項目提案をして閣僚会議の各国代表を驚かせた」
 IAEA Director General Yukiya Amano surprised delegates at an high-level international nuclear conference with a five-point plan to strengthen the agency's safety mandate.

 「5項目」提案のうち、規制機関を独立させる③の提案は、先進国では日本以外、すでに実施している当たり前のことだから驚くにあたらないが、とくに①の「IAEAの国際的な専門家グループによる相互評価」は、独立した規制機関を持ち、自国の原発を査察している米国などに対して、IAEAが国際査察を実施するという「内政干渉」に等しいもので、各国代表を驚愕させるに十分なものだった。

 提案を受けた米政府の代表、ダニエル・ポーンマン・エネルギー省次官は、WSJ紙に対して早速、米国としては自国の規制機関(NRC=原子力規制委員会)が国内基準に則り、自国の原発を監督することが望ましいと考える、と表明。⑤のIAEAによる情報収集・伝達についても、米国はIAEA情報にのみ依拠したいとは思わない、と拒絶する構えを示した。

    #

 しかし、実を言うと「天野サプライズ」は「5項目提案」にとどまるものではなかった。WSJ紙によると、天野事務局長はこの「5項目」提案に加え、IAEAの機能強化のため、「新しい、革新的な方法で財源」で確保する構想も示し、各国の驚愕に輪をかけたという。
 〔その「財源」確保の具体的な内容は明らかにされていない。WANO(世界原子力発電事業者協会)あたりに査察などの経費を負担させる案かも?……〕

 それにしても、天野事務局長はどうしてこんな、鬼面人を驚かす「提案」を行なったのだろう? その疑問はさておき、これら「5項目の提案」が今回の「フクシマ閣僚会議」の合意事項である「議長報告(要約)」の中で、どんな扱いを受けたか見ることにしよう。NHKの言う通り、果たして「ほぼそのまま」盛り込まれか?

 これはIAEAが公表した「議長要約」を検討すれば、かんたんに分かることだ。「議長要約」は、たったの10頁。それも箇条書きだから。⇒ http://www-pub.iaea.org/MTCD/Meetings/PDFplus/2011/cn200/documentation/chairpersons-summaries.pdf

 とりあえず、IAEA国際査察団による相互評価を掲げた提案①について見ると、第一部会の「議長要約」にはこう書かれている。

 「9.IAEAが各国の安全評価を相互評価することで支援し、その結果を公表することができるかも知れないとの示唆もあった。これは各国の安全評価の公開性と信頼性を高めることができるものかも知れない」
 9. It was suggested that the IAEA could assist in carrying out peer reviews of national safety reviews, using the services of international expert teams and make the results publicly available. This could enhance the openness and credibility of national safety reviews.

 また、第三部会の「要約」には、こんなくだりが。

  「9.さらに、現在、加盟国によって行なわれているIAEAの安全評価は完全に自発的なものである。加盟国の一部から安全評価の要請が出ているが、全ての加盟国が要請しているものではない」
 9. In addition, the IAEA’s safety review services are currently being carried out in Member States on a purely voluntary basis. While safety review services are requested by some Member States, they have not been sought by all.

 ほかの提案もだいたい、こんな扱い。天野事務局長の「提案」を骨抜きにして、お義理で盛り込んだか、提案の中身を紹介して一蹴してしまったかのどちからである。

 最早、言うまでもなかろう。「天野提案」はNHKが報じたように、「ほぼそのまま盛り込まれた」わけでは決してなかったのだ。

  そして何より、この「議長要約」もさることながら、会議初日に採択された「フクシマ閣僚会議宣言(Declaration by the IAEA Ministerial Conference on Nuclear Safety in Vienna on 20 June 2011)」で早々と、独立した原子力安全専門家による、現行のIAEAの「枠組みの中」で行なわれることが、とりわけ有益だと強調し、新たな体制づくりに釘を刺していたことも忘れてはならない

 12. Underline the benefits of strengthened and high quality independent  international safety expert assessments, in particular within the established IAEA framework, through periodic reviews and evaluation missions assessing national regulatory frameworks, emergency preparedness and response and nuclear power plant operation in order to ensure continuous improvement of the safety of nuclear installations on the basis of internationally agreed rules and procedures;

 ⇒ http://www.iaea.org/Publications/Documents/Infcircs/2011/infcirc821.pdf

    #

 それでは、天野事務局長が指導性を発揮しようとして「失敗」に終わった今回の「フクシマ閣僚会議」を、国外の報道機関はどう報じているか。

 ここでは、米国の通信社「ブルームバーグ」による以下の報道を紹介しよう。
 ⇒ http://www.businessweek.com/news/2011-06-24/iaea-ends-fukushima-safety-summit-without-agreeing-new-rules.html?utm_source=twitterfeed&utm_medium=twitter

 記事のタイトルは、「IAEA、新しいルールを決められずフクシマ安全サミットを終える(IAEA Ends Fukushima Safety Summit Without Agreeing New Rules)」。

 書き出しはこうだ。

 「国連の原子力機関(IAEA)は本日、フクシマ・ダイイチの原子炉メルトダウン事故に関する会議を各国代表が新たな方策を打ち出すことなしに終えた時、国際的な原子力安全を強化するチャンスを失った」
  The United Nations atomic agency missed a chance to strengthen international nuclear safety today when delegates concluded a meeting on Japan’s Fukushima Dai-Ichi reactor meltdowns without implementing new policies.

 「ブルームバーグ」の記事は、会議が具体策を打ち出せなかった(打ち出さなかった)理由として、米政府が天野事務局長による、世界の全原発を(IAEAの国際査察団による相互評価で)点検する提案を拒絶したことなどを挙げた。

 「天野ジャパンIAEA」はつまり、同盟国であるはずの米国から見捨てられ、「提案」もろとも、あえなく討ち死にさせられたのである。

 天野事務局長としては、起死回生(?)の「5項目」提案をして、米国などに「変身ぶり」をアピールし、生き残りを図ろうとしたのだろうが、やはり無理だったわけだ。

 いくら天野氏が大見得を切ろうと、米国をはじめとする国際社会の、「フクシマ」を「人災」で起こしてしまった日本政府、および、日本政府とつるんだ天野氏に対する不信感は――あるいは怒りは、収まらなかったわけである。

 「ブルームバーグ」の記事には、今回の会議に「公共枠」で参加したノルウェーのNGO、「ベロナ」の核物理学者、ニルス・ボーマー氏の、「今回の閣僚会議でIAEAの未来もあやしくなって来た」とするコメントが紹介されているが、「フクシマ」をめぐる日本政府、及び「天野ジャパンIAEA」の対応に対する国際社会の不信・憤りは、それほどまで深く根付いたものになってしまっているのだ。

    #

 天野事務局長は「閉会声明」の冒頭で、こう語った。

 議長さま、紳士淑女のみなさま
 安全に関するIAEAの閣僚会議は主たる目標を達成いたしました。それは「ポスト・フクシマ」の原子力安全の枠組みを高める道を整備することでした。
 Mr. President, Ladies and Gentlemen,
 This IAEA Ministerial Conference on Nuclear Safety has achieved its main goal, which was to pave the way for an enhanced post-Fukushima global nuclear safety framework.

 「ポスト・フクシマ」――「フクシマ後」。

 天野事務局長は「フクシマ」の「後(ポスト)」の原子力の安全を高めることが、会議の主目標だと言ったが、それを達成したと自賛する「閉会声明」には、現在進行中の、空前の原発災害の被災者たち――「福島の紳士淑女のみなさん」と「子どもたち」に対する、謝罪や励ましの言葉はなかった。

 天野局長にしてみれば「会議は踊らず」「成功」のうちに終わったと言いたいのだろうが、日々、被曝を続ける、フクシマの人々にとって、生活再建の道のりは険しく遠い。

    #

 「フクシマ」抜きの「IAEAフクシマ閣僚会議」。
 「フクシマ」の現地に目もくれなかった、IAEAの「ウイーン会議」。

 IAEAの少なくとも原発担当部門は、世界的な「脱原発」の流れの中で「消滅の道」をたどらなければならない。 

Posted by 大沼安史 at 06:29 午後 |

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 〔フクシマ・ノート〕 フクシマ抜きで踊った IAEAフクシマ会議: