« 空から歌が聴こえる What Kind of Fool Am I | トップページ | 空から歌が聴こえる Play it as it lays »

2011-02-15

〔コラム 机の上の空〕 「エジプトの若い世代は数百万倍も賢い」

 カイロ入りして取材を続ける、英インディペンデント紙のロバート・フィスク記者は言うまでもなく、中東報道の第一人者だ。
 フィスク記者が「タイムズ」の記者として中東に赴任したのは、1976年のこと。

 レバノンの停戦交渉取材でカイロ入りし、レストランで生野菜を食べて、腹痛と発熱に苦しんだ。

 起き出して、街を歩いたら、バス停で倒れた。そのまま5時間、昏倒していた。

 カイロはもうこりごり。「タイムズ」あての辞表もしたためた。

 その時、辞めていたら、「中東問題の第一人者」は生まれず、今回の「カイロ報道」も生まれなかった。
 ⇒ http://www.independent.co.uk/opinion/commentators/fisk/robert-fisk-full-circle-on-tahrir-square-as-history-comes-in-gulps-2212531.html

 ####

 そのフィスク記者(65歳)が、エジプト・ジャーナリズム界の大御所ともいうべき、不屈の記者、モハメド・ヘイケル氏(87歳)の自宅を訪ね、インタビューした。

⇒  http://www.independent.co.uk/news/world/africa/mohamed-heikal-i-was-sure-my-country-would-explode-but-the-young-are-wiser-than-us-2215070.html

 サダトに投獄され、ムバラクに釈放され、そのムバラクを批判し続け、エジプトの国内メディアから、これまで30年間も追放されていた。
 その間、精力的な執筆活動を続け、中東の現代史のさまざまな事件を、英語の本にまとめて来た。

 ムバラク体制はやがて「爆発」して崩壊する――ヘイケル氏は、こう言い続けて来た。

 それに賛同できないフィスク氏は、シニカルに反応し続けて来た。

 ヘイケル氏は、インタビューに訪れたフィスク氏に、こう聞いたそうだ。

 「まだ、自分が正しいと思うかね?」

 フィスク氏は言った。「いや、私は間違っていました」

 ####

 インタビューでヘイケル氏は言った。

 「私は完璧に信じていた。体制は爆発するだろうと」

 「今回のことで私が驚かされたのは、それが数百万人の運動だったということだ」

 「私は自分の目で確かめられるとは信じていなかった。民衆の立ち上がりを見ることが出来るとは信じていなかった」

 ####

 フィスク氏のインタビューに対するヘイケル氏の答えで、僕が凄いなと思ったのは、エジプトの若い世代に対する氏の発言である。

 「カオスになるかも知れないと心配していた。しかし、エジプトに新しい世代が生まれていた。私たちよるも数百万倍も賢い世代が登場した。彼らは穏健に、知的に行動した」

 そしてヘイケル氏は、こう続けた。

 「(カオスによる)真空は起きなかった。爆発は起きなかった」と……。

 つまり、ヘイケル氏は、自分の予言は当たらなかったと言ったのだ。

 いい意味で、当たらなかったと。

 ムバラク体制は崩壊したが、エジプト社会の「爆発」は――大混乱は起きなかったと。  

 ####

 若い世代による数百万倍も賢い革命――それが今回の「エジプト革命」だとヘイケル氏は言ったのだ。

 「システムは変わらなければならない。そして人々は自分たちの求めるものを、(今回の決起で)知らしめた」

 「世界も最も近代的なテクノロジーが、今回の決起に使われた」

 「人々は何か違ったものを求めている」

 ヘイケル氏の言わんとするところを、僕なりに解釈すればこうなる。

 今回の「エジプト革命」は、これまでパターンを超えた、何か違ったものである、と。

 ####

 僕はこのヘイケル氏の見立てに共感を覚える。

 「革命」というものが、「爆発」から、「コミュニケーション連帯」による「解体構築」へ様変わりしたのではないか、と言いたい気さえする。

 ####

 ヘイケル氏の「人々は何か違ったものを求めている」という指摘を聞いてインタビューを終えたフィスク氏を、ヘイケル氏はエレベーターのところまで見送ってくれたそうだ。

 その時、フィスク氏は、ヘイケル氏にもう一度、こう言ったそうだ。

 「あなたの言っていることは、正しい」

 2人のベテラン・ジャーナリストの再会は、「エジプト革命」に対する見方の一致の確認で終わった。

 ####

 僕がカイロにいた20年前、ヘイケル氏はたしか、カイロ市内中心部のナイル河畔の橋のたもとにある、白いマンション(アパルトマン)に住んでいた。

 フィスク氏との会見は、タハリール広場からそう離れていない、あのアパルトマンで行われたのだろうか?

 フィスク氏に「もっと若かったら、あの若者たちと広場で一緒にいたのに」と語ったヘイケル氏。

 これまでとは何か違った「エジプト革命」の行方を見守り、それをぜひ本に書いてもらいたいものだ。

 来るべきその本は、「爆発」の連続だった、エジプト及び中東の近現代史を振り返り、それとは違った未来を指し示すものになるはずである。

 ☆

 ヘイケル氏 Wiki
  ⇒ http://en.wikipedia.org/wiki/Mohamed_Hassanein_Heikal 

Posted by 大沼安史 at 08:59 午後 3.コラム机の上の空 |

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/136311/50881195

この記事へのトラックバック一覧です: 〔コラム 机の上の空〕 「エジプトの若い世代は数百万倍も賢い」: