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2011-02-22

〔いんさいど世界〕 カダフィの「地獄への逃避」 

 カダフィはトッラクの座席のようなところに座って、まるで他人事のように、こう言った。

 グレーの傘を、左手で差しながら。

 「トリポリにいる私の姿を見せたい。ヴェネズエラにいるのではない」

 「野良犬どもの(テレビ)チャンネルを信じてはならない」

 「(トリポリの)緑の広場にいる若者たちに言いたいことがある。彼らと夜遅くまで一緒にいたい」

 「しかし、雨が降って来た。神よ、ありがとう。これはよいことだ」

  ⇒ http://www.guardian.co.uk/world/video/2011/feb/22/muammar-gaddafi-tv-address-video?intcmp=239

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 降り始めた雨を、「ありがたい」と、カダフィは言った。

 恵みの雨。

 広場のデモ隊を濡らし、意気を殺いでくれる、とでも思ったのだろうか?

 それとも、雨を理由に、広場に行かずに済んで――若者たちと対話せずに済んで、ホッとしていたのだろうか?

 傘を差しながら、ぼそぼそと語る、リビアの独裁者の姿は、落ちぶれた老喜劇役者のように見えた。

 国営放送で流れた28秒間の国民へのメッセージは、老人の独り言のようだった。

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 カダフィがふりまいて来た、奔放かつエキセントリックな「リビアの指導者」のイメージを、突き崩したのは、「ウィキリークス」だった。

 ウィキリークスが暴露した「トリポリ大使館発の米国務省機密電」は、カダフィの実像を露にするものでもあった。 ⇒ http://www.guardian.co.uk/world/us-embassy-cables-documents/227491

 2009年9月の機密電は、こう記す。

 ・ ウクライナ人の看護婦と一緒でも旅行できない状態だ。

 ・ (高所恐怖症で)上の階にいるのを怖がる。 

 ・ 海の上を飛行機で飛ぶのが嫌だそうだ。競馬とフラメンコダンスが好き。

 ・ 女性警備隊にあまり依存しなくなったようだ。ニューヨークには一人、同伴させただけだった。
 (カダフィは、女性だけの警備隊をつくり、自分を警護させていた)

 ―― カダフィは、怖がる老人になっていたのだ。ウクライナ人女性を看護婦に置いておかねばならない年寄りになっていたのだ。

 独裁者が弱々しい老人になっていたことを、リビアの――とくに若者たちは、ネットを通じて知っていたのである。

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 中東報道のベテラン、英紙インディペンデントのロバート・フィスク氏は、30年以上前、トリポリでの軍事パレードで、初めてカダフィを見た時のことを書いていた。 ⇒ http://www.independent.co.uk/opinion/commentators/fisk/cruel-vainglorious-steeped-in-blood-and-now-surely-after-more-than-four-decades-of-terror-and-oppression-on-his-way-out-2221687.html

 延々、7時間も続いた軍事パレード。

 カダフィは黒のウエットスーツを身にまとったフロッグマンの部隊に対し、敬礼を送ったそうだ。

 フィン(ひれ)をつけての行進。

 ドタバタと音を立てて、歩いてゆくフロッグマンたち。

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 フィスク氏は、「残忍で、とびきり自惚れが強く、血の海に浸かりきったカダフィよ。40年以上に及ぶテロと弾圧の後、お前は権力の座を去ろうというのか?」という、22日付けの記事の中で、ベオグラードの非同盟諸国の国際会議に、ラクダ(ミルクを飲むために)を空輸した逸話など、カダフィのエキセントリックさ加減を振り返ったあと、つい数日前、実際にあったこととして、こんなエピソードを書いていた。

 カダフィはアラブ人の友人との4時間にも及ぶ話し合いの中で、「顔の皺を伸ばしてくれる、いい整形外科医はいないか?」と、なんと20分間も言い続けたというのだ。

 民衆のデモが起きている最中の、この言葉!

 高所恐怖症のこの老独裁者は、最早、地上の現実を直視する能力を――冷静な判断力をなくしていた……

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 2008年8月のトリポリ大使館発、米国務省機密電は、カダフィを、自己流哲学者で、自分の考えを人に聞かせたくてうずうずしているような男、と描き出していた。 ⇒ http://www.guardian.co.uk/world/us-embassy-cables-documents/167961?INTCMP=ILCNETTXT3487

 フィスク氏によれば、「妄想狂で幼児的なところある」カダフィは、かつて、なんと「地獄への逃避」という本を書いたことがあるという。

 「まるで、いまの状況を表すようなタイトル」の本を。

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 軍に武力弾圧を命じ、血の雨を降らせた自分の残忍さに気付かなず、「雨が降って来たから、緑の広場に行って、若者と対話するのは止めた」というカダフィ。

 「逃避先」は今や――ほかにはない。

 

 

Posted by 大沼安史 at 10:47 午後 1.いんさいど世界 |

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