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2011-01-09

〔いんさいど世界〕 アリゾナの22歳、最後のメッセージ

 米アリゾナ州ツーソンのスーパーで自動小銃を乱射し、地元選出の女性連邦下院議員らを殺傷したジャレッド・ロフナー容疑者(22歳)が、当日の午前5時頃、ユーチューブにアップした「僕が最後に思うこと(My Final Thoughts:Jared Lee Loughner!)を見た。⇒ http://www.youtube.com/watch?v=nHoaZaLbqB4&feature=player_embedded

 22歳の若者は、なぜギフォーズ下院議員の対話集会で自動小銃を乱射しなければならなかったか?

 オバマの国民健康保険法案に賛成したことで、サラ・ペイリンらに「銃眼の照準」を合わせらられ、抹殺を呼びかけられていた、このギフォーズ議員を、この若者はなぜ殺そうとしたのか?――それを解く鍵は、やはり、この最後のメッセージにあるのだろう。

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 3分47秒に及ぶ「最後のメッセージ」は、不思議な言葉で始まる。

 「アメリカで夢見る人間は5%に足らない!」

 次に出て来るのは、やたら数字が並んだ不可解な画面だ。
 (この22歳は、自分が生きる「現在」を歴史的に相対化=無化したがっているようだ。自分を、単なる「今」を生きている者に過ぎないと必死になって思おうとしているように見える……)

 「BCEの年は始まることができない。かくしてADEの年も始まることができない」

 キリスト前の紀元(BCE)も、キリスト後の紀元(ADE)も、ともに始まってもいないと言い切る、この歴史を超越(否定)する構えは、いったい何処から出て来たのか?
(この若者の、歴史とも途切れた、絶対的な孤独よ!)

 しかし、この若者はこれに続いて、自分が否定したはずの「キリスト後(ADE)」を、僕らの中で永遠のものだと言う。「だから、ADEに終わりはない」と。

 この若者にとって、今を生きるとは、歴史のない歴史を永遠に生きることなのだ。その虚無の永遠を!

 そういう歴史意識を告白したあと、この22歳はなぜか(自分がなし得なかった)希望を語るのだ。

 もしも僕が8歳の子に新しい文字(アツファベット)を教えることができれば、その子は古い文字に代わる、新しき文字を綴り、発音することができるだろう――と。

 それも、たったの20分で!(殺戮の時間をたぶん、この若者は20分と想定していたのだ!)

 そしてこの若者はこう言う。

 精神的に力のあるものは皆(Every human who's mentally capable)は常に、「新しい通貨」の発行者になることができる、と。

 (殺戮の決行5時間前に、この若者は、「新しい通貨(マネー)」に言及している、これはいったい、どうしたわけか? 私〔大沼〕は、かつてアリゾナ州ツーソン在住のトーマス・グレコ氏の地域通貨論を訳して出版したことがある。犯行現場のツーソンもまた、地域=コミュニティー通貨運動が盛んなところだ。この若者は、自滅的=自殺的行為の直前に「新しい通貨」に言及していた! これは何を意味することなのか!?)

 自分が発行する新しい第2、第3の通貨の発行!

 (私は人々が自分で発行する「コミュニティー通貨」に、私たちの未来がかかっている、と思っている人間だが、このアリゾナの22歳もまた、たぶんそう思っていた……これは驚きである)

 アリゾナの22歳は、「自分の通貨を創造し、流通させるのだ」と言ったあと、連邦政府に君たちの文法構造(グラマー・ストラクチャー)のコントロールを許してはならない、と主張する。

 そして22歳は、自分で自分の「言語」を創造せよ、と、ユーチューブの視聴者であるアメリカ人(および、われわれ)に迫るのだ。第2、第3の言語を創造せよ、と。

 ここまでが、この5時間後に殺戮者となる若者が、どうしても言い残しておきたかったことであろう。

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 メッセージは一転して、「人は誰しも眠りが必要だ。ジャレッド・ロフナーは人間である。だから、ジャレッド・ロフナーにも眠りが必要だ」と、自分の眠り=死の必要性を語り始める。

 そう、彼の自動小銃の乱射は、彼の自殺行為であるのだ。
 何かを破壊した上での……(あのアキバの加藤被告と同じ心理状態である)

 ジャレッド・ロフナーは殺戮を「眠り」の中で決行しようとする。
 自分は夢遊者(スリープウォーカー)であると言って。

 目覚ましのベルを切って、起き上がった夢遊者であると、自分を規定する、午前5時の22歳よ!

 そしてこの22歳は自分を「意識はありながら夢見ている、まだ眠っている」男だと主張する。

 そして、いきなり(彼にとってはおそらく自然の成り行きとして)「テロリストは」――と書く。

 そして、テロリストを定義づけるのだ。テロル、テロリズムを「政治的な武器」として動員する男だと。

 そうなのだ、このアリゾナの22歳は、自分を政治的なテロリストとして(になるために)、自分に自動小銃の引き金を引かせたのだ。

 しかし、彼はそうテロリストを定義しているにも拘わらず、自分をテロリストと呼ぶことを「人身攻撃」だと言って非難する。

 僕はたしかにテロスリトだが、君たちにテロリスト呼ばわりされるいわれはない、ということか?

 ここから、おそらくは彼の犯行の直接的な動機となった、彼の経験が綴られる。

 アリゾナのフェニックスの米軍ルリクルートセンター(MEPS)で、入隊試験の前に、ポケットサイズの「ミニ聖書」を手渡されたというのだ。
 (ふん、何が聖書なものか!――ということか? ……この22歳は、この米軍入隊試験をパスしなかったそうだ……)
 
 そう記したあと、この22歳は突如、米国市民の大多数は合衆国憲法を読んだこともない、と言い始める。

 読めば分かる。連邦政府の法律など受け容れる必要のないものだと言い始める!

 「聖書」からイッキに、「連邦政府の統治の否定」へ突っ走る、このアリゾナの22歳!

 その批判は、すぐさま「茶会」的な色彩を帯びる。資産家や政府の役員が奪取しなければ、アメリカの土地も法律も、今なお(独立戦争の)革命家の手にあったはずだと。

 「結論として」と、この22歳は言う。

 「僕は、今の連邦政府を信じていない」と。「政府は、文法をコントロールすることで、マインドコントロールた洗脳を行っているから」と。

 そして、(これまた唐突に)「僕は金や銀に裏付けられていない通貨による借金を支払うつもりはない」「僕は神を信じない」と。(この22歳は借金の返済に苦しんでいたのかも知れない……)

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 ジャレッド・ロフナー、22歳がユーチューブの最後のメッセージの最後に乗せた一文は、こうである。

 What's goverment if words don't have meaning?

  もしコトバが意味を持たないなら、「政府」って何なんだ?

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 新しいコトバの文法、新しい経済をつくる通貨――その実現の不可能性の悪夢を正夢と信じ、ジャレッド・ロフナーよ、君は自分と世界の破壊に踏み出したのか?

 マッチョのサンシャイン・ステート、アリゾナの地で、あの「茶会」のコトバに踊らされ、君は他者の存在を認めず、歴史を、政治を、神を、そして自分を葬り去ろうとしただけではなかったか?

 コトバを、これだけ綴ることができる君が、アメリカ人であることの孤独な自己愛、政府を構成できないエゴイズムの罠に引きずり込まれ、こんな悲劇を引き起こしたことは返す返す残念なことだ。

 君の苦しみは分かる。それはアメリカ人の苦しみだから、その苦しさは理解できる。

 でも君は、こう自問すべきだったのだ。

 もしコトバが意味を持つなら、僕は僕の人生を生きることができるはずだ、と!

 君のADE(個人紀元)は、ADE22年であり、この先が、――君の23年が、24年が……50年が、60年があったはずである。 

    

Posted by 大沼安史 at 09:34 午後 1.いんさいど世界 |

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