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2011-01-05

〔コラム 机の上の空〕 ガザの一家の物語

 イスラエル軍のガザ侵攻が始まったのは、今から2年前、2009年1月3日のことだ。

 1週間、イスラエルの空爆が続いたあと、地上部隊が来た。

 1月4日夜、ガザ地区のアワジャさん一家が住む家を、イスラエル軍が襲った。

 父親と母親が撃たれ、負傷した。息子の一人、イブラヒーム君は撃たれて死んだ。

 アワジャ一家の「その時」「それから」「今」を記録した、アメリカの女性監督、ジェン・マクロウさんが撮ったドキュメント映画、「ガザの一家族(One Family in Gaza)」を観た。
 ⇒ http://www.commondreams.org/further/2011/01/04-2

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 家の外に、イスラエルの兵士たちがいるのを、最初に気付いたのは、長女(当時、12歳)だった。母親を起こした。窓から覗くと、兵士たちと戦車が見えた。

 母親は蝋燭を点した。この家には、人が住んでいると、知らせるためだった。

 父親が起きて来て、怯えるんじゃない、と言った。

 イスラエル軍の攻撃で、屋根が崩れ始めた。

 一家が家を出た時、屋根が落ちた。

 庭のオリーブ木の下で身を寄せ合う一家の前を、イスラエル軍の戦車が過ぎて行った。

 翌朝、午前7時。

 最後の戦車が2台、通過したあと、家に戻ると、瓦礫の山に変わっていた。

 イブラヒーム君が母親に言った。

 「いつも屋根に登りたいと言ってたけど、落ちているよ」

 一家は声を上げて笑った。

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 銃弾が瓦礫の壁を貫通して来た。

 イブラヒーム君が撃たれた。

 父親が抱きかかえ、逃げようとした。

 通りに出たところで、またも射撃が始まった。父親が銃弾を受けて倒れ、イブラヒーム君も地上に転がった。

 助けようとした母親も腰を撃たれ、倒れた。

 父親はイブラヒーム君に声をかけた。「息子よ、愛しているよ」
 息子が答えた。「ごめんね、悪いことして」

 父親が言った。「叱ったのは、愛しているからだよ」

 地上に倒れた父親と息子のやりとりを、母親は朦朧とした意識の中で、たしかに聞いた。

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 イスラエル兵が歩いて近づいて来た。

 「助けに来てくれた」と、父親は言った。

 イビラヒーム君がイスラエル兵を振り向いた。

 銃弾が眼から頭蓋を突き抜けた。

 イブラヒーム君の体が浮いた。母親は息子の死を悟った。

 負傷した父親は死んだふりをしていた。動きたくとも動けなかった。

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 イブラヒーム君を撃ったイスラエル兵が、母親と小さな子どもたちに銃口を向けた。

 銃口から煙が上がっていた。

 母親は両手を前に出して、「撃たないで」と言った。

 イスラエル兵は笑った。笑いながら、母親を凝視し続けた。

 不思議(マジカル)な笑いだった。

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 2日目の夜、10時ごろのことだった。

 またも、激しい銃撃が始まった。

 イスラエル兵らが、イブラヒーム君の遺体を撃っていた。

 射撃はずっと続いた。

 イブラヒーム君の右半身は蜂の巣になった。

 父親は言った。「射撃訓練をしていた」

 母親はハンカチを口の中に入れ、指を噛んで耐え、声を出さなかった。

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 父親は近くのベドウィンのところへ這って救いを求めに行った。

 残された母子に対し、イスラエルの戦車は4両ごとに砲塔を向け、撃って来た。砲弾は一家を飛び越えて破裂した。

 朝が来た。

 母親は朝の風に、イブラヒーム君の髪の毛がそよいでいるのを見た。

 一瞬、生きている、と思った。

 父親が戻って来た、

 一家は傷つきながら、瓦礫の下に隠れて4日間、過ごした。樽の水も底を突き、母親のお乳も出なくなった。父親は脱出を決意した。ベドウィンの女たちが通りかかった。イブラヒーム君の遺体をロバの馬車に乗せ、病院に向かった。

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 テントでの生活が始まった。野犬や蛇に悩まされる生活。

 父親は、子どもたちが変わってしまったと言った。飢えは消すことができても、恐怖だけは消せないと。

 平和と非暴力の中で、子どもたちを育てたいと言った。

 父親は庭でミントやバジルを育て始めた。

 母親の夢の中で、その庭にイブラヒーム君が出て来た。

 だから、庭の世話をするんだ、と父親は言った。

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 父親は言った。もう一度、「家」で暮らしたいとの願いを込めて言った。

 「家」なくして完全なものはあり得ない――と。

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 父親はイブラヒーム君のポスターを作った。

 武器を手にポーズをとる図柄をすすめられたが、断った。

 笑顔のイブラヒーム君と、星と、星を見上げる子どもたちの図柄だった。

 イブラヒーム君が亡くなった場所に、一家は小さな岩を積み上げた。

 イブラヒーム君の墓標のようにも、アワジャーさん一家の、立ち上がるべき新しい家の礎石のようにも見えた。

 その近くに立つ1本のオリーブの木を、母親は「イブラヒームのオリーブ」と呼んだ。

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 イスラエルをどう思うか聞かれ、父親は言った。

 イスラエルの人にもこんな思いはさせたくない、と言った。

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 アワジャーさん一家は新年を、テントの中で迎えたのだろうか?

 崩れ落ちた屋根が再び立ち上がる日の、一日も早く来ることを祈る。

  ☆ 

 この記録映画についての詳細は、以下のサイトを参照 ⇒ http://www.donkeysaddle.org/ 

 

Posted by 大沼安史 at 11:31 午後 3.コラム机の上の空 |

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