「ウィキリークスをめぐって吹き荒れる嵐は、あらゆるメディアの、真実を暴く権利を擁護する必要性をさらに強めるものだ」―― アサンジさん、豪紙に寄稿:「真実のメッセンジャーを撃ってはならない」(全文)
ウィキリークスの編集長、ジュリアン・アサンジさんが母国、オーストラリアの新聞、「ジ・オーストラリアン」に、以下のアピールを寄稿した。
⇒ http://www.theaustralian.com.au/in-depth/wikileaks/dont-shoot-messenger-for-revealing-uncomfortable-truths/story-fn775xjq-1225967241332
全文を拙訳で紹介する。
☆
「不都合な真実を告げるメッセンジャーを撃ってはならない( Don't shoot messenger for revealing uncomfortable truths)」――「ウィキリークスは保護に価こそすれ威嚇や攻撃に曝されるものではない(WIKILEAKS deserves protection, not threats and attacks)」
1958年、アドレードの新聞、「ザ・ニューズ」紙のオーナーで編集人でもあった、若き日のルパート・マードック〔訳注・現在のメディア帝国を築き上げた、あのルパート・マードックのことです〕は、こう書きました。「秘密と真実の競争では、真実が常に勝利を収めるように見える("In the race between secrecy and truth, it seems inevitable that truth will always win.")」
このルパート・マードックの考えはおそらく、彼の父親、キース・マードック〔ジェーナリスト、キース・マードック伯爵〕が〔第一次世界大戦中〕暴露した、オーストラリア軍がガリポリの海岸で、無能な英軍司令官による、必要のない犠牲を強いられた事実を暴露したことから生れたように思われます。
〔訳注・「ガリポリの戦い」(1915年2月~16年1月) オスマン・トルコの占領を目指す英軍がオーストラリア、ニュージーランド軍とともにガリポリ半島に上陸しようとした作戦。トルコ軍を甘く見た英軍司令官により、多数の犠牲者が出た。Wiki ⇒ http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AC%E3%83%AA%E3%83%9D%E3%83%AA%E3%81%AE%E6%88%A6%E3%81%84
〕
英国はキース・マードックの報道を沈黙させようと努めました。しかし、彼は沈黙しようとしませんでした。彼の努力によって、惨憺たるガリポリ上陸作戦は中止されたのです。
それから一世紀近くが経ちました。いまウィキリークスは、これまた恐れることなく、公開されねばならない事実の公表を続けています。
私はオーストラリアのクイーンズランド州の田舎で育ちました。町の人々は自分の考えを率直に語っていたものです。人々は、大きな政府をというものを、用心して監視しないと腐敗しかねないものと考えていました。先に「フィッツジェラルド調査委員会」によって明るみに引き出された、クイーンズランド政府の汚職の暗黒の日々は、政治家がメディアに猿轡(さるぐつわ)を嵌(は)め、真実の報道を封じたとき、何が起きるかを証明するものです。
(訳注・昨年、州政府の首相が収賄で逮捕された「クリーンズラン政府汚職」については ⇒ http://www.abc.net.au/news/stories/2009/07/31/2641879.htm )
これらことは、今なお、私の中に教訓として留まっています。ウィキリークスは、こうした価値を中心に創設されました。このオーストラリアで懐胎した〔ウィキリークスという〕アイデアとは、真実を報じる新しい方法としてインターネットのテクノロジーを使おうというものでした。
ウィキリークスは、新しいタイプのジャーナリズムの呼び名を生み出しました。それが「科学的ジャーナリズム(scientific journalism)」です。私たちはほかのメディアの出先と、ともに「ニュース」を報じる活動しています。しかし、私たちは、それが真実であること証明しようともしています。「科学的ジャーナリズム」は皆さんに、「ニュース」を読んでもらい、次にオンラインでクリックして「ニュース」が依拠するオリジナルな記録を見てもらいます。そうやって皆さんご自身で判断することができるわけです。この「ニュース」は、ほんとうなのか? ジャーナリストは正しく報じているか?――と。
デモクラシーの社会には強いメディアが必要です。ウィキリークスは、そうしたメディアの一部を構成するものです。こうしたメディアは政府が正直であり続ける手助けをするものです。ウィキリークスはこれまで、イラクやアフガニスタンでの戦争をめぐる、いくつかの疑いのない真実を暴露して来ました。企業汚職についてもいくつか、スクープして来ました。
人々は私〔アサンジ氏〕のことを「反戦活動家」と呼んでいます。しかし、正式な記録として残しておきたいことですが、私はそうではありません。国家は時に、戦争しなければならないことがあります。正義の戦争というものがあります。しかし、戦争について政府が人々に対して嘘をつき、人々に命を捧げさせ、嘘にもとづいて税金を支払うよう求めることくらい間違ったことはありません。もし、ある戦争を正当化したいのであれば、真実を告げなければなりません。民衆はそれでもって戦争を支持するかどうか決めることでしょう。
もしも皆さんがウィキリークスがこれまで報じた、アフガンやイラク戦争の記録や米国大使館の機密電のひとつでもお読みになったことがあるなら、これらの真実を、あらゆるメディアが自由に報じることができているということが、いかに大事なことか、考えていただきたい。
ウィキリークスだけが米大使館機密電を報じているわけではありません。英国のガーディアンも、ニューヨーク・タイムズも、スペインのエル・パイスも、ドイツのシュピーゲルも、同じ機密電を編集して公表しているのです。
しかし、ウィキリークスだけが、これらの連携するメディア・グループのコーディネーターとして、米政府とその侍者たちからの、最も悪意ある攻撃と非難を受けています。私は裏切り者として告発されています。私はアメリカの国民ではなく、オーストラリア人なのに――。アメリカでは、米軍の特殊部隊によって私を「除去」せよという、とんでもない呼びかけさえ行われています。サラ・ポーリンは、私が「ビンラディンのように狩られなければならない」と言いました。米連邦議会上院に上程された共和党の法案は、私を「超国家の脅威」と宣言し、除去するよう求めています。カナダの首相顧問の一人は、全国放送のテレビで、私が暗殺されなければならないと述べています。あるアメリカのブロッガーは、オーストラリアに住んでいる私の20歳になる息子を、私を捕まえるために誘拐し危害を加えるよう呼びかけています。
オーストラリアの皆さんには、こうした感情的な反応に対し、誇りというものを知らず、恥ずかしげもなく迎合している〔オーストラリアの〕ジュリア・ギラード首相とその政府の姿をしっかり見ていただきたい。オーストラリア政府の当局者たちは、私のパスポートを無効なものにしたり、ウィキリークスのサポーターたちをスパイし、威嚇するよう求めるアメリカの意のままになり切っているように思われます。オーストラリアの法務大臣は、オーストラリアの市民に罪をかぶせ、米国へ身柄を取ろうとするアメリカの捜査活動を支援するため、何でもしています。
ギラード首相もヒラリー・クリントン国務長官も、他のメディカ機関については、一言も批判していません。ガーディアンも、ニューヨーク・タイムズも、シュピーゲルも、伝統のある大メディアであるからです。それに対して、ウィキリークスはまだ若く、小さな存在でしかありません。
いま、私たちは負け犬(underdogs)です。ギラード政権は、自分たちの外交・政治的な取引情報も含まれる情報の暴露を望まず、〔真実を告げる〕メッセンジャーを撃とうとしているのです。
オーストラリア政府から、私や他のウィキリークスのメンバーに対する、数々の暴力的な威嚇に対して、何かひとつでも対策がとられたでしょうか? オーストラリアの首相は、自国の市民たちをそうした威嚇から守るはずだ、とお思いになっている方もいるかも知れませんが、しかし、いま、ここにあるのは、〔私たちに対する〕まったくもって正当化され得ない、不法な主張だけです。首相たるもの、特に法務大臣は、尊厳をもって自らの職務にあたり、争いに巻き込まれないよう求められています。そうすれば大丈夫、二人の面目は保たれることでしょう。さもなくば、名誉は失われることでしょう。
ウィキリークスがアメリカの機関による人権侵害を暴露する度、オーストラリアの政治家たちは、米国務省と一緒になって、間違っているに違いないコーラスの声を張り上げます。「おかげで人命が危険に曝される! 国家安全保障が危うい! 軍隊を窮地に追い込んでいる!」。そして、ウィキリークスが公表した真実には何の重要性もない、と言うのです。ふたつとも、事実に反することです。でも、そのどちらかは正しいのでは、ですって
いや、どちらも正しくありません。ウィキリークスはこれまで4年の公表歴を持っています。この間、私たちは〔関係する〕すべての政府に変化を及ぼして来ましたが、たった一人の人間にも、誰一人として危害が加えられていません。しかし、アメリカはオーストラリア政府の黙認の下、直近の数ヵ月をとってみても、数千人を殺害しているのです。
ゲーツ米国防長官自身、米議会への書簡の中で、開示されたアフガン戦争の機密文書によって、重要な情報源や方法はひとつも妨害されていない、ことを認めています。ペンタゴン(米国防総省)も、ウィキリークスの報道がアフガニスンでの人的被害に結びついていないと言明しています。カブールのNATO軍司令部も、CNNに対して、保護が必要と思われる人は1人もいない、と言っています。オーストラリアの国防省も、同じことを言っています。私たちが公表したことで、一人のオーストラリア兵も、情報源も危害を加えられいません。
しかし、だからといって、私たちの公表が重要でないかといえば、そうでは決してありません。米国の機密電は以下の驚くべき事実を明らかにしています。
► 米政府は国際条約に反して、自国の外交官に対し、国連の当局者や人権団体の人々の、DNAや指紋、虹彩、クレジット口座番号、インターネットのパスワード、ID写真など、個人の人体標本や情報を盗むよう指示しています。オーストラリアの国連外交官も、たぶんターゲットにされているのではないでしょうか。
► サウジのアブドラ国王はアメリカにイランを攻撃するよう求めています。
► ヨルダンとバーレーン政府の当局者は、イランの核プログラムを、どんな手段を使ってでも阻止するよう求めています。
► 英国のイラク戦争に対する調査活動は、「アメリカの利害」を守るよう仕組まれました。
► スウェーデンのNATOの隠れ加盟国であり、米国との諜報情報の共有は議会からも隔離されています。
► 米政府は各国に対してグアンタナモから出所した人々を受け入れよに厳しい要求を突きつけています。バラク・オバマは、スロベニアがグアンタナモの拘束者を引き受ければ、という条件つきで、同国の大統領との会見に同意しました。オーストラリアの太平洋の隣国、キリバリは、拘束者の受け入れの見返りに、数百万ドルの提供の申し出を受けました。
米連邦最高裁はあの歴史的な「ペンタゴン文書」をめぐる裁判の判決で、こう言いました。「自由で制約されない報道(free and unrestrained press)のみが、政府の側のゴマカシ(deception in government)を暴露することができる」と。
今、ウィキリークスをめぐって吹き荒れる嵐は、あらゆるメディアの、真実を暴く権利を擁護する必要性をさらに強めるものです(The swirling storm around WikiLeaks today reinforces the need to defend the right of all media to reveal the truth.)。
Posted by 大沼安史 at 12:29 午後 | Permalink
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