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2010-12-08

〔 コラム 机の上の空〕 笑いの弾ける紅茶の淹れ方――あるいは夜の正しき、平和の作法

 ニューヨークのアッパー・イーストサイドのアパートメント、「ダコタ・ハウス」の台所――。

 そこでの「ある夜」の思い出を、オノ・ヨーコさんが、ニューヨーク・タイムズへの寄稿の中で、「現在形」で書いていた。⇒ http://www.nytimes.com/2010/12/08/opinion/08ono.html?_r=1&hp

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 「ジョンと私は夜中に、ダコタのキッチンにいます。3匹のネコ――サーシャとミチャ、チャロの3匹は、私たち2人の紅茶を淹れるジョンを見上げています(JOHN and I are in our Dakota kitchen in the middle of the night. Three cats — Sasha, Micha and Charo — are looking up at John, who is making tea for us two. )」

 真夜中の静寂の中で、ジョンが淹れた紅茶を2人で飲む平和――。

 はじめはヨーコさんが淹れていた夜の紅茶だが、「ヨーコ、あのね、最初にティーバッグをポットに入れてから、お湯を注ぐもんだよ」とジョンに注意されて以来、紅茶を淹れるのは、ジョン・レノンさんの役回りになっていた。

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 その夜のことだった。紅茶を一緒にすすりながら、ジョンがこう言った。「今日の午後にね、伯母に確かめたんだけど、やっぱりお湯が先なんだそうだ。最初はティーバック、と聞かされていたはずなんだけど、最初はお湯で次にティーバックが正しい淹れ方だそうだ」

 「じゃぁ、これまでずうーっと、私たち、間違っていたわけ?」

 「そう……」

 そう言って大笑いした2人。

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 1980年のある夜の出来事――。そう、ジョン・レノンさんが暗殺された年の、ある夜の出来事――。「2人ともこれが共同生活の最後の年になるなんて知らなかった」夜の、紅茶の淹れ方をめぐる、2人だけの大笑い。

 ジョン・レノンさんが暗殺された12月8日に、ヨーコさんが思い出すのは、紅茶を飲みながら弾けた、この深夜の大笑いだそうだ。

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 「紅茶を淹れる人」という題の寄稿を、ヨーコさんはこんなふうに結んでいた。

 「10代の若い世代は、もう待ってましたと、すぐに笑い転げる、といいます。でも、私の目には今、多くのティーネイジャーたちが悲しそうで、お互い、憎み合っているように見えます。ジョンと私は、その夜、ティーネイジャーに戻っていたわけではありません。でも、私が思い出すのは、私たちが、2人で笑い合ったカップルであった、ということです」

 ヨーコさんは、今の若者たちの間から、笑いが消えたことを悲しんでいるのだ。

 紅茶の淹れ方をめぐって弾ける、夜の静寂の中の笑いはどこへ消えたのか?

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 でも、まさか、1980年のその夜、ヨーコさんとジョンさんは、啜った紅茶を一緒に噴き出したわけではないだろう。2人の幸せな大笑いに、3匹のネコたちもきっと和んだことだろう。

 そして、(これは間違いなく)2人の紅茶カップからは、湯気が立っていたはずだ……。

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 このシンプルで、心迫るエッセイに、余計なものを付け加えるつもりはない。が、ひとつだけ言わせてもらえれば、あの敵意あふれる「茶会」の皆さんも――そしてあの、サラ・ポーリンさんも、この文章を読んで(「お茶」の話だから、読まないはずがない!)きっと心安らかになったはずだ。
 いや――(ここは「現在形」で言わねばならない……)きっと心安らかになっているはずだ。

 誰かと一緒に心の中で――いや、自宅の家のキッチンの中で、自分の紅茶の淹れ方を間違いに気付き(あるいは自分の正しさを確かめ)、紅茶を飲みながら、きっと安心している違いない。

 ♪♪♪♪

 正しくあることへのこだわり。

 僕も今晩、夜遅くに、正しい作法で紅茶を淹れ、レノンさんの音楽を聴きながら、平和な心に浸ることにしよう。

Posted by 大沼安史 at 05:05 午後 3.コラム机の上の空 |

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