〔いんさいど世界〕 死してなお、歴史を生みだし続ける歴史家、ハワード・ジン氏
ことし1月、87歳で亡くなった米国の歴史家、ハワード・ジン氏に関するFBI(連邦捜査局)のファイルが公開された。
⇒ http://foia.fbi.gov/foiaindex/zinn_howard.htm
http://rawstory.com/rs/2010/0730/fbi-admits-probing-zinn-criticizing-bureau/
http://www.progressive.org/wx073110.html
共産党員ではないかと疑われ、否定すると、こんどは情報提供者になれ、と迫られたり、捜査員5人がかりで後をつけられたり、ボストン大学の教職から追われそうになったり、「妹」と名乗る女性があらわれ、FBIに「情報」を売り込んだり……。
243頁に及ぶFBIファイルは、アメリカの権力がジン氏をどれほど危険視していたかを示す、それ自体、一級の歴史資料である。
ハワード・ジン氏は言うまでもなく、権力者の「正史」とは異なる、非抑圧者(先住民、黒人、無名の大衆ら民衆)の視点で『アメリカ人民の歴史(A People's History of the United States)』(邦訳、『民衆のアメリカ史』明石書店)を書いた歴史家だ。
今回、FBIが公開したファイルは、ラジカルな平和運動家でもあったジン氏を、アメリカの権力がどう見ていたかを如実に示すものだが、ジン氏という、ひとりのまっとうな歴史家に狙いをつけ、マークしたことで、その記録は逆に、アメリカ権力者の実態を映し出す、歴史的な証拠物件になった。
死してなお、曇りのない鏡に、アメリカ権力が如何なるものか映し出して見せたジン氏!
元ニューヨーク・タイムズ記者、クリス・ヘッジ氏が、このジン氏のFBIファイルをめぐるコラムの中で、こんな体験談を披露していた。
ヘッジ氏は刑務所に出向き、若い囚人たちとともに、ジン氏の『アメリカ人民の歴史』を読む勉強会を続け来たそうだ。
その結果、何が起きたか?
ジン氏の歴史家としての仕事は、若い囚人たちの「目を開く」に十分なパワーを秘めていた、とヘッジ氏は書いている。 ⇒ http://www.truthdig.com/report/item/why_the_feds_fear_thinkers_like_howard_zinn_20100801/
死してなお、若い囚人たちに、アメリカの歴史を、現実を開示し、希望の在り処を指し示したハワード・ジン氏!
ジン氏が残した歴史書の輝きと、FBIファイルの薄汚さを比べれば、未来がどちらの側にあるのか、最早言うまでもない。
ジン氏の「アメリカ史」は、アメリカ社会の負の部分の集約点である刑務所の若者たちをも再生する、パワフルな、新たな歴史を生み出す力を秘めている。