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2010-08-07

〔コラム 机の上の空〕 ヒロシマの少女 命のこだま

 6日の夜、女性史研究家でもある堀場清子さんの詩集を読んだ。

 堀場さんは戦時中、広島の祖父の家に東京から縁故疎開し、広島県立第一高女に転校した。

 8月6日の朝、堀場さんは、閃光に続き、広島上空に湧きかえる五色の雲を見た。呼び出してを受けて、病院へ手伝いに行った。そこで、被爆者たちのむごたらしい姿を見た。

 15歳の少女、堀場清子さんが見て、聞いた、夏のヒロシマ。

 * * *

   すべての人に伝えたい/(中略)/山脈をはるかにこえて 毒茸のように/純白のパラシュートが流れていった/その空がどんなに青かったかを/(中略)/〈一九四五年八月六日〉/人類の汚点の日(中略)

   青かった空のただなかに/むかし語りの来迎図のような/紅と紫が渦巻きのぼり/呪いのばらの巨大な一輪がみごとにひらいた(中略)

   二日目 蒼黄色の膿がながれた/三日目 生きながらウジがこぼれおちた(中略)

   ひと夏を死体の煙でやしなわれた/その空がどんなに青かったか……(後略)
    ――「その空が……」より

 * * * 
     
 15歳の少女は、被爆した少女を見た。彼女たちの声を聞いた。

   ―― 窓格子に額をうちつけて/少女が嗚咽にほそい方をふるわせたとき/〝悲しみ〟が 水のようにほとばしってあたりを/ひえびえと浸したとき

   私はみた/薬局の棚にぎっしきならんだ薬壜が/死魚のように眼をみひらいていたのを/なにものかの意志のような その冷たいかがやき/を
    ――「少女」より

   ――救護所の片隅に 全裸の少女がいた/いく昼夜をうちすてられ/わずかなすき間に かごそい足を重ねて/少女よ/ふいに投込まれた薄明の宇宙をただよって(後略)
    ――「焔」より

  「重傷者がひしめく病院の待合室」で、少女の襲い手がのびて、堀場さんのモンペの裾をつかんだ。

   〈……おこして〉/視力のたえる眼をみはって うごかないわたしを/みあげ/哀しいいまわの力をこめる(中略)

   〈おこして…………おこして〉/かぼそい声が皮膚ににじむ/空あおみ 草のにおいのむれてくる季節ごとに
    ――「影」より

 * * * 

 「ヒロシマ」では無数の少女たちが死んだのだ。原爆が炸裂した8月6日の朝に始まった地獄。
 「ヒロシマ」は「8月6日」だけではない。「8月6日以降」が「ヒロシマ」なのだ。

 被爆による負傷で、後遺症で、無数の少女が殺されたのだ。

 だから、2歳で被爆した、あの「原爆の子」、佐々木禎子さんが、千羽鶴を折って折って折り続けながら、12歳で死なねばならなかったのだ。

 アメリカの言いなりになって、原爆被害の恐るべきの実相を隠蔽しようとし、後遺症で苦しむ人々を棄民して来た、われらが日本の政治権力!

 「ヒロシマ」はだから、「1945年」に限らない、「8月6日」に限らない、私たち日本の「今」に続く、「今現在」の悲劇である。

 * * * 

 堀部清子さんは、米メリーランド大学「プランゲ文庫」の所蔵文書にあたり、占領軍による検閲を通じた世論統制の実態を暴きだした研究者でもある。

 毎日新聞のインタビューでこう語っている。

 ――原子爆弾が米軍によって落とされたとき、日本の支配者は原爆被害の詳細を知っていたし、陸軍省をはじめ各大学の医学部を中心に調査団が続々と広島入りしています。その報告は当然受けたでしょう。被爆の実態がいかにむごたらしいか、ほぼ正確につかんでいたと思います。しかし広島と長崎に原爆が落とされた時点で、支配者の最大の関心事は、いかにして国体を保持して降伏するか、天皇を戦争犯罪から免れさせるかであって、被爆者の救済は末の末だったと思います。

 ――原爆症で亡くなる人が後を絶たないのに、プレスコード(新聞統制基準)によって被害の実相が隠蔽されたのですから、被爆者はアメリカと日本の権力によって二度殺されたと私は思っています。結果として被爆者援護が遅れたのは言うまでもありません。もっともこうしたことは被爆者に限りません。先日もシベリア抑留者への援護が遅れていると報じられていました。水俣病も同様です。支配者の体質は、少しも変わっていないと思います。
 
 堀場清子さん 毎日新聞インタビュー ⇒ http://mainichi.jp/select/wadai/heiwa/talk/news/20100726ddf012070009000c.html

 * * * 

 まったくもって、堀場さんの言うとおりである。

 アメリカと日本に2度、殺された被爆者たち!

 もしかりに私たちが、今に続く「ヒロシマ」を忘れてしまったら、被爆者たちは――あの「ヒロシマの少女」たちは、3度、殺されてしまうことになる。

 * * * 

  八月はきこえる月だ/朽ち果てた生命のこだまらが/ひときわ高くよせてくる月だ(中略)

  無限に裂けた爪痕を/祈りのようにみつめる月だ
    ――「八 月」より

 堀場清子さんの詩集を読みながら、 ヒロシマの少女たちの命のこだまが、ひときわ高く、聞こえて来る気がした。

 忘れまい、と思った。     

 〈注〉
  文中の「佐々木禎子さん」については Wiki ⇒ http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BD%90%E3%80%85%E6%9C%A8%E7%A6%8E%E5%AD%90

Posted by 大沼安史 at 08:41 午前 3.コラム机の上の空 |

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