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2010-06-19

〔いんさいど世界〕 「米軍ヘリ虐殺ビデオ」をウィキリークスへ漏洩したとされる米陸軍情報アナリスト、ブラッドレイ・マニング氏(22歳)をめぐる「点と線」 誰がこの内部告発の「英雄」を嵌めたのか? フリー記者、グレン・グリーンワルド氏の調査報道レポートから浮かび上がった疑惑

 米国の独立ジャーナリスト、グレン・グリーンワルド(Glenn Greenwald )氏(43歳)は、故I・F・ストーンの不屈のジャーナリスト活動を記念して創設された「イッツィー賞」を受賞した、調査報道の第一人者である。
 憲法問題を専門とする法律家でもあるグリーンワルド氏は、ブッシュ政権の人権侵害を告発した記者としても知られる。
 ⇒ http://en.wikipedia.org/wiki/Glenn_Greenwald

 そのグリーンワルド氏が、ネット誌「サロン」に、「この奇妙で重大な、ブラッドレイ・マニング、アドリアン・ラモ、そしてウィキリークスをめぐる事件(The strange and consequential case of Bradley Manning, Adrian Lamo and WikiLeaks)」という題の調査報道レポートを掲げた。⇒ http://www.salon.com/news/opinion/glenn_greenwald/2010/06/18/wikileaks/index.html

 ブラッドレイ・マニング氏とは言うまでもなく、先ごろ「ウィキリークス」が公表し、全世界に衝撃波を広げた、「米軍アパッチヘリ撮影のイラク住民機関砲虐殺ビデオ」を漏洩したとされる、イラク駐留の米陸軍情報アナリスト(特科兵)である。

 グリーンワルド氏のレポートは、このブラッドレイ・マニング氏をめぐる「事件」の真相に迫ったものだ。

 事実を積み上げてゆく厳密さで書かれた氏のレポートを読んで、私(大沼)は「事件」の闇の深さを垣間見ると同時に、調査報道の力というものを膚で感じ、勇気付けられた。

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 弁護士でもあるグリーンワルド氏の記述は、結論を急がない、事実に即した綿密なレポートだが、それだけになおさら、疑惑の闇は深まる。

 氏のレポートが衝く問題の核心は、タイトルにもあるように、ブラッドレイ・マニング(以下、グリーンワルド氏以外、全て敬称略)とアドリアン・ラモ、そしてウィクリークスとの「関係」である。

 なかでも、ブラッドレイ・マニングと、(マニングとネットを通じて話し合い、マニングをFBIに通報するとともに、マニングが送って来たというバグダットの米大使館機密電報26万点をFBIに転送したという)アドリアン・ラモの「関係」が、どうにも腑に落ちない。

 アドリアン・ラモは、2004年にニューヨーク・タイムズのコンピュターシステムに侵入して摘発された元ハッカー。
(マニングとのネット・コミュニケーションを報じた「ワイアド」のケヴィン・ポールソンは、ラモのハッカー仲間で、ハッキングで有罪判決を受けたあと、米政府の協力者になった人物でもある)

 そんなラモと、ブラッドレイ・マニングが一体、どんなふうに「出会い」、コミュニケーションをするまでになったか?――この点が実に不透明なのだ。

 グリーンワルド氏の電話でのインタビューに対して、ラモが語ったところによると(録音テープあり)、①最初に暗号化された文書メールを送って来たのはブラッドレイ・マニング(解読ソフトが旧式のもので解読できなかった、とラモは主張)②そこでブラッドレイ・マニングに対し、AOLのIM(インスタント・メッセンジャー)チャットで話し合おう(チャットし合おう)と、ラモの側から提案した――というのが、そもそもの発端。

 だったはずなのに、ラモはYaHooニューズに対してはこの言明を覆し、ブラッドレイ・マニングの方から、いきなり(アウト・オブ・ブルー)、AOLのIMチャットでコンタクトを取って来た、となぜか主張。

 このように両者のコミュニケーションの「発端」からして実にあいまいであり、たとえ事実が①及び②のいずれかであったとしても、一面識もない2人がどうしてネットで出会い、交信するようになったか、まったくもって不明である――これがグリーンワルド氏の指摘である。

 おまけにグリーンワルド氏によると、ブラッドレイ・マニングがラモと交信を続けた数日間というは、ブラッドレイ・マニングが米当局かた取調べを受けていた最中のこと。

 ここからは、グリーンワルド氏のレポートにない、私(大沼)勝手な想像部分だが、ラモが誰かの差し金でブラッドレイ・マニングにネットを通じて接触、自分は「ジャーナリスト」であると信用させて、当局の取調べに危機感を覚えたブラッドレイ・マニングに手持ちの情報を全て吐き出させた――と考えるのが、ごく自然な推理の帰結だと思うが、いかがなものか?

 そしてラモは、都合の悪い部分を削除したメールでのやりとりを、「ワイアド」のポールソンに通報し、それが今月6日付けのあの「ワイアド」のスクープ報道につながった……。

 ここで、なぜラモはFBIへの通報に加え、「ワイアド」のポールソンへ情報を提供したか、という疑問が湧くが、この点についてグリーンワルド氏は、米当局が「ウィキリークス」の情報提供者逮捕を全世界に印象付ける――つまり、「ウィキリークス」へ内部告発しようものなら、たいへんなことになりますよ、と威嚇するためだったのではないか、と示唆している。

 同氏が指摘するように、その後の《米軍、「ウィキリークス」指導者を追跡》報道を見れば、そこに、威嚇して漏洩を防ごうとする米当局の意図を見ることは、たしかに容易なことである。

 以上をまとめて言ってしまえば、今回のブラッドレイ・マニングの逮捕劇は、元ハッカーを使ったおとり捜査と米当局の漏洩封じを狙ったもの、と言いきってよいものではないか?

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 なぜ、これほどまでに米当局は、「ウィキリークス」つぶしに狂奔しているのか?(「ウィキリークス」をつぶす考えは、「ウィキリークス」に漏洩した米陸軍反諜報センターの報告書で明言されている)

 この点について、グリーンワルド氏は、「ウィキリークス」に対しては政府の「コントロール」が効かない点を挙げている。

 同氏によれば、ニューヨーク・タイムズはブッシュ政権が米国市民に対し令状なしに盗聴を行っていること察知しながら、まる1年も寝かせ(社主、主幹がホワイトハウスに呼びつけられて、ブッシュ再選後に報道)、ワシントン・ポストは、「ウィキリークス」で公開された米軍ヘリ虐殺ビデオを2年前に入手しながら報道しなかった疑いがあるという。

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 閉塞したジャーナリズムを打開する希望は、調査報道と内部告発にあり!

 主流マスコミが御用マスコミと化す中で、グリーンワルド氏らのようなフリーのジャーナリストによる調査報道及び権力者のコントロールに屈しない「ウィキリークス」のような、まっとうな「ネット社会の木鐸」の存在は、世界のデモクラシーにとって死活的に価値を持つものになっている。

  それにしても何とも鮮やかな、グリーンワルド氏の斬り返しよ!
 

Posted by 大沼安史 at 05:14 午後 |

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