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2010-04-18

〔コラム 机の上の空〕 高城高が帰って来た!

 日曜の夕べ。ベランダに出て洗濯物を取り込もうとしたら、まだ湿っていた。風はすこしあったのに……。晴れてはいたが、湿度は高かったようだ。

 午後、今日は日曜日だからと自分に言いきかせ、机の上に積んどいた本を手にとり、1人掛けのソファで読み始めた。

 仙台の出版社、「荒蝦夷」(あらえみし)から数年前に出た、高城高(こうじょうこう)氏の「X橋付近」(ハードボイルド傑作選)。

 冒頭に収められた表題作、「X橋付近」を読んで、感心した。大学生が書いたものとは、とても思えない文章。江戸川乱歩が称賛したのも当然である。

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 仙台の「X(エックス)橋」――昔、(国鉄)仙台駅の北側にあった。線路をまたぐ橋自体より、いかがわしい一帯を指す代名詞だった。

 昔の暗いケバケバしさは、今はきれいさっぱり、区画整理されて消え、「X橋」の名を憶えている人もだんだん少なくなっている。

 「X橋付近」が雑誌の「増刊宝石」に出たのは、昭和30年(1955年)のこと。作者、高城高氏は東北大学文学部英文科の学生だった。

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 高城高――乳井(にゅうい)洋一さんのペンネームである。
 乳井さんは、僕が北海道新聞の社会部の記者だったころ、職場の上司だった人だ。社会部のデスク。
 僕は今から30年ほど前、札幌で、乳井デスクの下で働いていたのだ。

 昔、推理小説を書いていた人だとは僕も聞いて知っていたが、自分からは一言もおっしゃらなかった。

 飄々としていて口数の少ない人……というのが、僕の第一印象だったが、実は違っていた。ある時、その「話言葉づかい」の見事さに驚いたことがあった。

 これから始めようという、「学校社会」なる年間教育企画の打ち合わせの席で、乳井さんが担当デスクとして企画の趣旨説明をした時のこと。

 乳井さんはアメーバのたとえで、「教育界」=「学校社会」の実体を語ってみせた。心の中で、僕は思わず、拍手していた……。

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 新聞社で乳井さんと一緒に仕事をしたは、その時だけ。僕はその後、新聞社を中途退社して、それっきりになってしまったが、乳井さんは現役を終えたあと、推理小説作家としての長い沈黙を終え、「高城高」として復活。昨年には、その復帰第一作、「函館水上警察」(東京創元社)を出し、「2009年、このミス」のランク入りを果たした。

 この30数年ぶりの新作は、明治の函館を舞台にした推理小説。短編を連作でつないだもので、ほかに、若き日の森鴎外と英国の外交官、アーナスト・サトウが函館の丘の上で話を交わす「坂の上の対話」という佳品が収録されている。

 先月、この最新作を読んだ僕は、作家・高城高の出発点となった「X橋付近」の頁を今日、ようやく開き、今しがた、話の筋を辿り終えたのだった。

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 この「X橋付近」で、僕が社会部記者だった頃、ふと思ったミステリーが解けた。どうしてこの人は、推理小説を書いていたことを一言の言わないのだろう?……という疑問が解けた。

 本の付録の池上冬樹さんによる解説と、ご本人のあとがきで、外勤の新聞記者と作家の「二足のわらじ」を履くことが、どれだけ難しかったか(新聞社の社内の雰囲気において)触れてらしたのだ。

 「社を辞めて書け」「記者としての筆が荒れるぞ」……

 僕も同じ新聞社に25年もいたから、乳井さんが作家としての活動を停止せざるを得なかった、あの独特の空気を、いまなお膚で感じることができる。

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 乳井さんはしかし、売れっ子の作家としての活動は休止したが、執筆活動は継続されていた。アイヌの文化のことや、ベーリング海峡が地続きだった頃のことを調べ上げ、本を出されてもいる。

 創作は中止していたが、知的な蓄積作業は着実に続けられていたのである……そのことは、「函館水上警察」を一読すれば、よくわかる。

 乳井さんはことしで75歳。「X橋付近」には、仙台の現地跡で撮影された写真も載っていたが、社会部のデスクの頃と、そんなに変わらない、若々しいお姿。

 推理小説作家、高城高――こと、乳井洋一さんの完全復活を喜ぶ。 

Posted by 大沼安史 at 07:18 午後 3.コラム机の上の空 |

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