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2010-03-20

〔いんさいど世界〕 ニコラス・クリストフ記者 「希望」の3題噺

 僕はニューヨーク・タイムズのコラムニスト、ニコラス・クリストフ氏のファンである。

 なぜ、この人のコラムが好きかというと、それが「希望のコラム」であるからだ。
 戦争国家に堕し、社会崩壊が進む「アメリカ帝国」にあって、それでも「希望」を見失わず、ともし火を掲げるコラムであるからだ。

 昔、東京特派員をしたこともある、氏の最近のコラム、3篇を、簡単に紹介しよう。

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 【その1】 「赤信号」から始まった話

 それは「赤信号」に始まった。2006年、アトランタの交差点。
 作家であり実業家のケヴィン・サルウェンが車をとめると、同乗していたお嬢さんのハンナさん(当時、14歳)が、こう言った。

 「あの人、もっと安い車に乗っていたら、こっちの人、食べ物にありつけたかも……」

 ケヴィンさん一家の車の隣に停車した「あの人」の車は豪華なスポーツカー。路上で物乞いしていた「こっちの人」はホームレス。

 信号が変わって車が走り出してからも、ハンナさんの「不平等」に対する抗議が続いた。

 お母さんが、つい、大変なことを言ってしまった。「どうしたいの? じゃ、家でも売る?」

 お母さんは、家を売ったら、自分たちも宿無しになってしまうのよ、と警告したかったのだろうが、逆効果だった。

 ハンナさんは早速、そのアイデアに飛びつき、両親を説得し、家を売ってしまったのである。

 広い自宅を売って、その代金の半額で、小さな家を買って引越し、残る半額を基本財産に、利子収入を慈善団体に寄付する社会貢献を始めたのだ!

 ああ、なんてクレージーで、素敵なアメリカ人の家族!  
 
 1月24日付のコラム ⇒ http://www.nytimes.com/2010/01/24/opinion/24kristof.html?hp

 【その2】 世界で学ぶアメリカの若者たち

 アビゲイル・ファリクさんは、ハーバード大学ビジネススクールの学生だった2年前、「社会的事業」コンペに応募、優勝し、「グローバル市民の1年」(GCY=GLobal Citizen Year)というNPOを立ち上げた人だ。

 高校卒業者を海外に1年間、派遣し、ボランティア活動を通して、「グローバル市民」に育ってもらのが目的。

 彼女自身、16歳の夏に、ニカラグアの村でボランティア活動した経験の持ち主。

 そう、レーガンが悪魔のように言い立てたニカラグアの民衆とともに生活した体験が、GCY設立の原動力となった。

 いま、GCYの一期生が、グアテマラやセネガルで活動中だそうだ。英語を、コンピューターを、ドラマなどを教えているが、学ぶことも多いことだろう。

 日本では、アメリカ以上に、大学受験、大学進学で、10代の終わりの若者たちから余裕と夢が奪われているが、高校卒業後、こうした海外経験を積むことは、人生の針路を考える土台になり得るものではないか。

 ところで、クリストフ氏自身も、「旅をゲットしよう」プログラムを主宰し毎年、アメリカの学生を1人、海外に派遣している。ことし、選ばれたのは、カンサスの大学生、ミッチ君。アフリカに行って、現地での活動をブログで報告することになっている。

 3月11日付 ⇒ http://www.nytimes.com/2010/03/11/opinion/11kristof.html
   GCY公式HP ⇒ http://globalcitizenyear.org/about/

 【その3】 パーティーしちゃって世界を変えよう!
 
  2004年、アフリカはウガンダの首都、カンパラでのことだった。「平和部隊」のベテラン、アメリカ人女性、トルキン・ウエイクフィールドさんが、遊びに来たお嬢さんと、スラムの通りを歩いてときだった。

 泥家の前の道端で、ウガンダの女性(名前はミリー・アケナさん)が手製のアクセサリーを売っていた。

 紙でできたビーズの「ジェエリー」だった。「ネックレス」を数個、買い求めた。1個75セント。

 ごみに捨てられた紙くずのアクセサリーだった。しかし、その色合いの、そのデザインの素晴らしいこと!

 それを身に着けたトルキンさんとお嬢さんに、「素敵ね」の声が集まった。「ごみくずからできたジュエリーなの」と言うと、称賛の声はますます高まった。

 「あっ、これだ」と閃いたトルキンさん、スラムに出かけてミリーさんを探し、彼女とその知り合いの「アーチスト」から、ネックレスを225個以上も買い求めた。

 こうして、トルキンさんが始めたのが、「ビーズフォーライフ」という、ウガンダのスラムと、アメリカをつなぐ、社会的企業。
 貧困撲滅と公正貿易(フェアトレード)を旨とするが、お気に入りのアクセサリーを身につけ、いそいそ出かけける、楽しいパーティーの乗りで参加できる、グローバル格差是正ためのプロジェクトである。

 「ビーズフォーライフ」のHP( ⇒  http://www.beadforlife.org/indexA.html)を覗いたら、婚約プレゼントで彼女に1個、買ってあげたとのろける男性の「声」が紹介されていた。

 日本にも、お店、できたらいいな。

 3月13日付 ⇒ http://www.nytimes.com/2010/03/14/opinion/14kristof.html

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 ニューヨーク・タイムズの電子版有料化が来年から始まる。日本の新聞も、いずれ電子版の有料化に踏み切ることになるだろう。

 僕はクリストフ氏のコラムを読みたいから――アメリカの「希望」を知りたいから、有料化されてもアクセスし続けるつもりだ。

 電子版有料化(新聞生き残り)の成否は、そこに「読みたい記事」があるかどうか、読みたい記事を書く記者がいるかどうかにかかっている。

 日本にもクリストフ氏のような「希望のコラムニスト」が現れてほしいものだ。 

Posted by 大沼安史 at 08:49 午後 1.いんさいど世界 |

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