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2010-03-09

〔コラム 机の上の空〕  「白鯨」に盲いて

 ロスで「アカデミー賞」の授賞式が行われた。
 女優たちがあでやかなドレスで現れ、男たちはタキシードで銀幕の騎士を気取る、ハリウッド、自画自賛の映画祭。
 今年の授賞作リストを眺め、その評判を聞いて、ヘソを曲げた。

           ★ ★ 

 監督賞や脚本賞など「6冠」に輝いたのは、「ハート・ロッカー」という、イラク駐留・爆弾処理班の米兵「ジェームズ」を主人公にした映画だ。

 作家の沢木耕太郎さんはその映画評論「銀の街から」(朝日新聞)に、こう書いていた。

 「……どこにどんな爆弾が仕掛けられているかわからない。……いつ銃弾が飛んでくるかわからないのだ。その中を、防護服を着たジェームズは、まるで西部劇のガンマンのように平然と歩いていく。いったい、彼はなぜそのように『勇敢』であり続けられるのか。それは一種の『狂気』ではないのか」

 沢木さんによれば、映画は「……冒頭に掲げられた『戦争は麻薬である』というエピグラフ風の言葉に呼応するようなかたちで終わる」そうだが、その結末がどんなに感動的なものであろうと――どんなに涙を誘うものであろうと――あるいはまた、それが「戦争の無意味さ」をいかに「訴えかける」ものであとうと、「イラク戦争の悲惨」と「等身大」で重なり合うものではないはずだ。

 「現実」にはあり得ない「ヒーロー」を、「イラク」というこの世の地獄を舞台に創造し、スクリーンに幻影を投射したところで、「アメリカ軍事帝国」による歴史的な犯罪行為を消すことはできない。

 この映画が拍手喝采を浴びたとしたら、それはアメリカ人のジョン・ウエイン的な「度胸と勇気」の発現の場を、勇敢にもあえて「イラク」に設定し、おそらくはそれに見合っただけの痛烈なアイロニーを効かせて、エンターテイメントであることを暗黙の前提に、「超越的」あるいは「クール」に(ダスティー・ホフマン的に?)描き出したからだろう。

 これをたとえば、米海兵隊に掃討・破壊されたイラクのファルージャの市民が観たら、何と思うか?

           ★ ★ 

 太地町のイルカ漁を盗撮した「ザ・コーブ」の長編ドキュメンタリー映画賞受賞にも納得のいかない思いがした。

 太地町の捕鯨・イルカ漁は、ネイティブな伝統的な漁である。農水省の役人の天下り先が大規模船団を組んで出撃している「南氷洋・クジラ工船・大規模(「調査」)捕鯨」とはまったく性格を異にする。

 カナダなど世界の先住民らに認められている、沿岸捕鯨と同種のものである――それを盗撮したようなもの……。

 イラクで「100万人」もの民間人の命を奪っているアメリカにとっては、イルカより人間の命の方が軽いのか?

 8日付のニューヨーク・タイムズ紙(電子版)によれば、「コーブ」の制作スタッフたちが「アカデミー賞」の選考会を前に、サンタモニカの「すしレストラン」を標的に、鯨肉(クジラ握り、1個60ドル)を摘発する作戦を決行、呼応した連邦政府のエージェントらが家宅捜索し、店のメルセデスの中から鯨肉を押収する捕り物劇があった。
 海洋哺乳類保護法違反。最大懲役1年、2万ドルの罰金が課せられる。
  ⇒  http://www.nytimes.com/2010/03/09/us/09sushi.html?hp

 この押収された鯨肉、万が一「南氷洋産」(調査捕鯨の調査済み鯨肉)だなんてわかると、大変なことになってしまうが、それよりも気になるのは、アメリカの食文化の中で市民権を得、「kujira」のグルメを楽しむアメリカ人さえいるにもかかわらず、まるで「オスカー」の「前景気」をあおるように、すしレストランに急襲をかけた連中の、「食文化」に敬意を払わない、傲慢な態度である。

 日本の「マック」に肉食を忌み嫌う一団が現れ、牛を殺すなといってハンバーガーを投げ捨て、冷蔵庫のビーフを押収、陸上哺乳類保護法違反(?)だといってヤンキー店長を警察に突き出したら、アメリカ人はどう思うか?

           ★ ★ 

 この「コーブ」に「賞」をさらわれた「長編ドキュメンタリー」候補作で、僕がとても残念な作品がひとつある。
 それは、あの「ペンタゴン文書」をすっぱ抜き、「ベトナム戦争」の正体を暴露した、ダニエル・エルズバーグ博士を描いた、「世界で最も危険な男」である。
  ⇒ http://carpetbagger.blogs.nytimes.com/2010/02/08/from-the-pentagon-papers-to-the-oscars/?scp=19&sq=%EF%BC%A3%EF%BD%8F%EF%BD%96%EF%BD%85&st=cse

    http://movies.nytimes.com/2009/09/16/movies/16dangerous.html?

 エルズバーグ博士は、米国防総省(ペンタゴン)の中枢で働き、いかに米国の軍事権力が国民をだましているか、白日の下に曝した、「世界で最も勇敢な男」の一人――ペンタゴンにとっては「最も危険な男」。

 その命がけの告発を描いた、歴史的なドキュメントが、「すし屋」を襲うような輩の盗撮作品に負けるだなんて!

           ★ ★ 

 アメリカの作家・ジャーナリスト、ジェームズ・キャロル氏が書き、僕が訳出したガルブレイス賞受賞作、『戦争の家 ペンタゴン』(緑風出版)――エルズバーグ博士の闘いも描かれている――は、米国の軍事権力、軍産複合体の頂点に君臨する国防総省=ペンタゴンの「惨憺たる勃興」(アイゼンハワー退任演説)の姿を描き切ったものだが、ペンタゴン=五角の「戦争の家(House of War)」を、ある印象的なメタファーで譬えている。

 メルヴィルの小説に出て来る、あの巨大な「白鯨」――あの「白鯨」こそ、アメリカ軍事権力の化身ともいうべき、強大な「ペンタゴン」である、と。

 「ベトナム」でのたうち、「イラク」で、「アフガン」で猛威をふるう、凶暴な「白鯨」に目を塞ぎ、その「軍事力の世界投射」という現実から目をそらしながら、スクリーンに幻影を投射し続け、民衆の視線をあらぬ方向に誘導するハリウッドは、エリア・カザンのハリウッドではなく、ロナルド・レーガンのハリウッドでしかない。

 「白鯨」にのみこまれて、「傷」(ハート)を内向させ、銀幕の幻影に気をまぎらせてはならない。

 The Hurt Locker トレイラー ⇒ http://movies.nytimes.com/movie/408490/The-Hurt-Locker/trailers

Posted by 大沼安史 at 10:06 午後 3.コラム机の上の空 |

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