〔コラム 机の上の空〕 「9条の会」の大江健三郎氏に問う 「1960年の安保闘争」を「最大の危機」とした「朝日」に対し、あなたは批判もせず、これからもコラムを書き続けるおつもりですか?
朝日新聞の船橋洋一・主筆が2月4日朝刊のコラム、「日本@世界」で、「新たな同盟像をどう描く」との見出しで、社説記事を書いていた。
驚くべきことが書かれていた。
「日米同盟は、戦争の敗者と勝者と2度を戦わないことを誓い、『信頼と和解』を築いた同盟である。言葉と文化を異にする両国が、その後ここまで信頼関係を深めたという点で、それは現代の奇跡といってよい」
な、なんと、現代の奇跡! その「日米同盟」の影で、言葉(漢字)をともにする日中両国が、戦後ここまで「信頼と和解」を築かなかったのは、これ、まさに歴史における異常な汚点、といってもいいのに――と思わず、言い返したくもなるくだりである。
船橋氏の「朝日」主筆としてのコラムには、こんな箇所もあった。「日米同盟」の再定義するにあたって、「互恵原則」というものを、こう考えたい、とする船橋氏の指摘である。
船橋氏によれば、「互恵原則」とは、「共通の脅威と課題」に対応するための「共同の義務」だという。
「互恵」という言葉に、どうして「共通の脅威」が出てこなければならないのか?
ちなみ、わが尊敬する国語学者、大野晋氏による「国語辞典」では、「互恵」とは「国家間で、特別の便宜や利益をあたえたり受けたりすること」とある。そのどこにも「共通の脅威」の影はない。
しかし、ともあれ「朝日」の主筆、船橋氏の主張は明快である。「半世紀に及ぶ(日米)同盟史には危機も漂流もあった。最大の危機は1960年の安保条約改定をめぐる安保反対闘争だったろう」と言うのだから。
船橋氏にとって、あるいは船橋氏を主筆する「朝日」にとって、今や「60年安保闘争」は、日米同盟の最大の「危機」でしかないのだ。安保闘争を、最大の危機としてしかとらえられない、朝日の主筆!
まあ、「朝日」が今、そういう立場をとろうというのだから、それはそれで結構、こちらとしては読まなきゃ(購読しなければ)いいだけのこと――ということにもなるが、「朝日」を愛読して来た私としては、この船橋氏(この方も私は、これまで尊敬申し上げて来た!)の主筆としての主張に対し、「夕陽妄語」の加藤周一氏がもしご存命でありせば、どんな反応をされたか、考え込まざるを得ない。
これは私の想像ではあるが、加藤氏が健在であれば、容赦のない徹底的な批判を、船橋氏に加えたのではないか?
しかし、加藤周一氏はもちろん、すでに鬼籍にお入りになられた方だから、意見をお聞きしたいと思っても、最早、いかんともしがたい。
そこで私は、ここで何としても――是非とも、お聞きしたいのだが――加藤周一氏と一緒に「9条の会」を立ち上げた、同じように朝日新聞にコラムを持つ、大江健三郎氏に、朝日の主筆の「社説」に対する意見を、ぜひとも、おうかがいしたい、と思うのだ。
大江さん、あなたは、船橋氏及び「朝日」の立場に対して、どんな態度を表明されるのですか?
あなたは、「60年安保」に対する人々の抵抗を「奇跡の日米同盟」の「最大の危機」としてしかとらえない「朝日」に対し、批判もせず、 今後とも執筆をなされるおつもりですか?
ここでぜひとも、あなたのご考えをお聞かせ願いたい。
それこそが、あなたがふだん、口を酸っぱくしていっておられる「知識人の責任」というものではないですか。
大江氏よ、「60年安保」とは何だったか、船橋氏に言っておあげなさい!
樺美智子さんを殺したものこそ、奇跡の「日米同盟」だった、と言っておあげなさい!
大江さん、お願いします。「9条」の名において、ぜひとも、船橋氏に反論を加えていただきたい!
お願いします!
Posted by 大沼安史 at 08:08 午後 3.コラム机の上の空 | Permalink
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