〔いんさいど世界〕 捕鯨戦争 日本政府 国内情報統制に勝利するも国外では完敗 「シー・シェパード」側 好機と見て「殺人未遂」国際キャンペーンへ
南極海で日本の調査捕鯨監視船、第2昭南丸が反捕鯨団体「シー・シェパード」の抗議船、「アディ・ギル」号に舳先から衝突した事件が、「日本」という国のアイデンティティー問題としても発展、深化しかねない風向きだ。
日本政府は一部メディアの「支援」の下、記者クラブ発表・大本営報道を通じ、「シー・シェパード」側の「無法」ぶりに焦点を当てる国内世論操作には成功しつつあるようだが、世界的には新たな「日本叩き」を招きかねない危うい情勢にある。
「シー・シェパード」側はすでにオランダで、今回の衝突事件を「海賊行為」として提訴しているが、オーストラリアのABC放送が伝えたところでは、「殺人未遂」罪で、世界各地の裁判所に提訴する構えも見せている。
⇒ http://www.abc.net.au/news/stories/2010/01/10/2788935.htm
なにしろ、「シー・シェパード」側には、衝突の一部始終を実写した証拠のビデオがあるから、彼らしては、絶好のチャンスとばかりに勢いづいているのだろう。
「洋上でほとんど停止していた小型抗議船に襲いかかる日本の捕鯨監視船!」……この世界的に共有されてしまった、この強烈な視覚的なイメージ(それも鯨の視点から見たような……!)は、もはや消せない。
それにしても、監視船・第2昭南丸のあの「操船」は、「調査捕鯨」の実施機関である財団法人・日本鯨類研究所(略称=鯨研。この研究所の理事長は水産庁次長をした元高級官僚だ。天下り先か?)の指示によるものなのか、確認する必要がある。
小型の抗議船に舳先を向けて突進するなど――それも海上交通ルールで回避義務のある右舷に相手船を見て突っ込むなど、第2昭南丸の船長の「独断」で行われたものとは考えにくい。
この操船の問題は今後、オランダの裁判などで追及されることになろうが、「シー・シェパード」側の執拗な「妨害」活動に対し、鯨研側が今回、先手を打って封じ込める対決姿勢を強めていたことは確かなようだ。
これは日本ではまったく報じられていないことだが、豪紙・エイジ紙の報道によると、鯨研はニュージーランドのPR会社を通じ、オーストラリアで捜索機をチャーターし、「シー・シェパード」抗議船の動きを捕捉していた。
鯨研 空から偵察活動 ⇒ http://www.theage.com.au/environment/japanese-whalers-in-spy-flights-20100105-lsco.html
つまり、いち早く抗議船を捕捉して監視船を向かわせる――鯨研が今回採った「前進防衛(フォーワード・ディフェンス)」作戦が、今回の「体当たり防衛攻撃」の背景に潜んでいるような気がするが、いかがなものか?
PR(世論対策)でいえば、事故後の鯨研側の対応も、押され放題の負け戦だった。
水産庁は曳航途中で放棄された「アディ・ギル」号から「油のようなものが流れている」(環境汚染だ!)、ボーガンの矢のようなものを発見・回収した(殺傷能力を持った武器だ!)と「発表」し、得点を稼いだ気になったようだが、「シー・シェパード」側に「嘘つきが! 自分でまいた油だろう」「矢? 俺たちの仲間にロビン・フッドがいるってことかい?」と、軽く一蹴されてしまった。
「油」による環境汚染について言えば、日本の捕鯨船団は、2007年に母船の「日新丸」が火災を起こし、燃料流出騒ぎを引き起こしたことを、オーストラリアやニュージーランドの人々は忘れてはいない。⇒ http://onuma.cocolog-nifty.com/blog1/2007/02/post_1fbb.html
また、「矢」について言えば、その殺傷能力は、捕鯨で使っている「銛(もり)」の比ではない。
「シー・シェパード」側は、オーストラリア出身のハリウッド女優、イザベル・ルーカスを使って反捕鯨CMを制作、ミサイルのような銛のそばに、彼女がすくんで立つ姿で捕鯨の残酷さをテレビで宣伝する作戦でいるが、そこで映し出された巨大な銛に比べれば、ボーガンの「矢」などオモチャのようなものでしかないのだ。女優キャンペーン ⇒ http://www.dailytelegraph.com.au/news/isabel-lucas-acts-to-end-whale-slaughter/story-e6freuy9-1225817468529
鯨研側は今回、スポークスマンとして、英語のネイティブらしき外国人男性を起用し、外国メディアに対応させたが、これも外国のブログの反応を見る限り、逆効果に終わった。「通訳」なしでストレートに主張したせいか、名指しの反論を浴びるなど反発を招いた。
このように総じて「前進防衛」の攻撃的な構えが裏目に出てしまったが、ことの重大さを国民に伝えない、日本政府(及び、政府にコントロールされたマスコミ)の姿勢は問題である。
そもそも、オーストラリアの現政権は日本の南極海での大規模捕鯨を法的措置でもって止めさせると選挙公約した政権の座に就いてものだが、今回の事件でも、たとえばピーター・ガレット環境相が8日の時点で、こう言明している。
「日本がことし6月まで捕鯨の続行を放棄しなければ、豪政府は国際法廷に訴え出る」と。⇒ http://www.news.com.au/couriermail/story/0,,26567266-953,00.html
こういう重大な豪政府の方針を、日本の当局はなぜ、隠すのか?
もう一つ、豪紙オーストラリアンの報道で実例を挙げれば、オーストラリアの東京大使館は8日、日本政府に対し、日本の監視船に対して、海上安全規則を守るよう、ハイレベルのアピールを行っている。回避義務を怠った第2昭南丸に対する、オーストラリア政府としての正式の抗議の意思表示だが、日本のマスコミはこれもまったく無視した。
水産庁の「発表」にしがみついてばかりいるから、こういうことになる。「調査捕鯨」を「調査報道」しない日本のマスコミ……これはもう冗談では済まされないことだ。
「調査捕鯨」の是非はさておき、われわれ日本人が決して忘れてはならないことがある。それは、あの「真珠湾」をしでかしたことで、歴史的な負のイメージ遺産、負のアイデンティティーを背負ってしまったことである。不意打ちをくらわす卑怯者=日本のイメージ。それがあの「第2昭南丸」の強襲イメージにダブって、受け取られかねないことだ。
今回の事件で個人的にショックだったのは、あるアメリカの反戦・平和サイトの記事に対する投稿の中に、「3発目の原爆、日本に食らわせてやろうじゃないか」との書き込みがあったことだ。
もちろん、それをたしなめる書き込みもあって少しはほっとしたが、こうした「反日ルサンチマン」が、歴史の底流にあることは忘れてはならないことだ。
今、日本政府のなすべきは――日本のマスコミが行うべきは、事件の真相、事実の究明であるだろう。
海上自衛隊のイージス艦漁船撃沈事故と同じように、なぜ、あのような「事故」が起きたのか、できれば豪、ニュージーランド両国政府と合同で真相を究明し、責任の所在を明らかにすることである。
本格的な「捕鯨戦争」入りを目論む「シー・シェパード」の思う壺にはまり、「捕鯨反日」の火に自ら油を注いではならない。
Posted by 大沼安史 at 05:38 午後 1.いんさいど世界 | Permalink
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