〔コラム 机の上の空〕 アフガン déjà vú
「戦争」を続けながらノーベル「平和」賞を受け取る、「戦争=平和」大統領、オバマの「増派&撤退」演説から一夜明けた、アフガン、パキスタンの現地では、アメリカの大使館が、カット&ラン(錨の綱を切って、逃げ出す)ではないと、両国政府に対する説明に追われているそうだ。
⇒ http://www.nytimes.com/2009/12/03/world/asia/03pstan.html?ref=global-home
アメリカは逃げ出しはしないから、大丈夫、安心しろ――と「不安」の沈静化に躍起なわけだ。
しかし、いったんオバマの口から「撤退」が出た以上、最早、逆戻りはできない。
「2011年7月」からの米軍の撤退開始――。この流れは基本的に変わらない、とみるべきだろう。
オバマ政権は恐らく、アフガンでは勝てない(アフガンでも負ける)と、最終的に判断を下したのだ……。当然のことである。
で、この撤退開始のタイムスケジュールだが、前例であるソ連軍のアフガン撤退を考えると、これくらいかかるのは止むを得ない(もちろん、そんな時間をかけないで、「即撤退」できるなら、それに越したことはないが……)。
ゴルバチョフが第27回ソ連共産党で「アフガン撤退」の方針を示したのは、1986年2月。
アフガン駐留ソ連軍の撤退が本格化したのは、その年の12月で、撤退が完了したのは、1989年2月だった。
(ソ連撤退20周年 ⇒ http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/world/america/222717/ )
ゴルバチョフの方針表明から3年経ったあとの「アフガン完全撤退」だった。
それにしても、歴史は繰り返す、とはよく言ったものだ。「ソ連帝国」のあとに、「アメリカ帝国」が今、同じ轍を踏もうとしているのだから。
いつか来た道、アフガニスタン!
英紙インディペンデントの中東報道の権威、ロバート・フィスク記者が、オバマの「アフガン増派戦略」を批判する――というより、厳しくたしなめる――記事を書いていた。⇒ http://www.independent.co.uk/opinion/commentators/fisk/robert-fisk-this-strategy-has-been-tried-before-ndash-without-success-1833133.html
フィスク記者は、ソ連軍事占領下のアフガンで取材した経験もある、ベテラン記者。
電子版記事の見出しは、「その戦略、前にも(ソ連によって)試みられたことがある――失敗に終わったけれど」。オバマはソ連の二の舞をしようとしている、と警告する内容のものだった。
1980年の春のこと。フィスク記者はカブールの北、チャリカール近くで、ソ連軍「第105空挺師団」の兵士の一人と遭遇した。腕を負傷し、血がにじみ出ていた。まだ10代の、若いロシア人兵士だった。路肩爆弾が炸裂し、乗っていた輸送車両が爆破された。負傷した兵士は、丘の上を旋回するヘリに向かって手を振り、救助を求めた。
まるで、デジャヴー(既視感)。それも幻ではなく、現実の……。
「空挺師団」「路肩爆弾」「若い兵士」……
「ソ連帝国」の過ちを、その通り、繰り返す「アメリカ軍事帝国」。
フィスク記者によれば、ソ連軍は増派(サージ)を開始し、都市部を守る作戦に出た。(米軍がやろうとしているのはコレだ!)
ソ連は現地のアフガン部隊の育成にとりかかった。ソ連軍司令官の命令を聞くのは、その6割だけだった。(米軍がやろうとしているのはコレだ!)
すべては、デジャヴー。
どんづまりにおいて待ち構える、「敗北=撤退」。
フィスク記者の記事は、同じ失敗を繰り返すな、というアメリカへのメッセージだが、この歴戦のジャーナリストは、自国=イギリスの失敗からの目を逸らさない。
1842年、第1次アングロ・アフガニスタン戦争における英軍の撤退、カブール破壊という前例にも、しっかり目を向けているのだ。
( 第一次アングロ・アフガン戦争 ⇒ http://www.onwar.com/aced/data/alpha/afguk1839.htm )
歴史は、アフガニスタンでは三度、繰り返されることになる。英国、ソ連に続き、こんどはアメリカが、アフガンで壁に突き当たり、撤退を余儀なくされる。
アフガンとはつまり、3つの軍事帝国――「大英」「ソ連」「アメリカ」の墓場であるのだ。
オバマは「アフガン化」――つまり、アフガン政府軍にバトンタッチして米軍を撤退させる方針だが、ベトナム戦争における「ベトナム化」と同様、失敗に帰すことは、これまた目に見えたデジャヴーである。
歴史は、アフガンにおいても、そして米国の過去の経験の中でも、すでに繰り返されており、答えはもう、ハッキリ出ている。いまさら、四の五の言っている場合ではない。
「アフガン撤退」に本気で取り組むんだ、オバマ!
君は、ジョンソンや、ニクソンの政治的な末路を、すでに視ているではないか!
オバマよ、君は現在に過去を重ねて「既視」するだけではなく、過去にとらわれない未来を見据え、平和への新たな道に視線を向けよ!
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本日の「一曲」は、Farewell to Whiskey
Posted by 大沼安史 at 07:58 午後 3.コラム机の上の空 | Permalink