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2009-10-15

〔コラム 机の上の空〕 「イワン爺さん」の本が届いた!

 郵便受けに今朝、熊本県八代市の版元(八代人文社)から、小さな、トルストイの本が一冊、届いた。
 5年前、熊本の山奥の、もう宮崎県境に近い水上村で、「晴耕雨訳」の、91歳の生涯を終えられた、トルストイの従者、北御門二郎さんが遺された『イワンの馬鹿 三つの寓話 子供のためのお話』。

 この本を――北御門さん訳の「イワンの馬鹿」を、読んでみたいと思い、取り寄せたのだった。〔 ⇒http://www.kitamikado.com/book.html 八代人文社にはファクスで申込むとよい〕

 本の「帯」に、こう書いてあった。

  もしも「イワンの馬鹿」を全世界の学校で、教科書に採用したら、人類は忽ちあの馬鹿げた戦争の呪いから解放されるでしょう。多くの方にこの作品に触れて頂けたら幸いです。

                  *

 私は、北御門二郎さんと澤地久枝さんの対談をまとめた、『トルストイの涙』を読んで以来の、北御門さんのファンだ。

 この小さな本の「解題」に、こうあった。

  でも残念ながら、日本の文部省が『イワンの馬鹿』を教科書として認める日は決して来ないと思う。真に善き書と文部省とは、常に不倶戴天の敵だから。

 同感……とどのつまりはそういうことなんだな、と納得した。

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 トルストイに従うか、トルストイを笑うか……僕はここに、決定的な、歴史の分岐点があると考える一人だ。そして、その別れ道は、私たちの心の中で――そして、国のたどる運命の中で、常に目の前に、重大な選択を迫るものとして現れ続ける、と考える一人だ。

 北御門二郎さんは、戦前の軍国日本で、トルストイに従った。それこそ命がけで兵役拒否を貫かれた。そして戦後、山村で農作業のかたわら、トルストイの翻訳を続けた。

 文部省は、トルストイを笑い、憎んだ。軍国教育に狂奔し、子どもたちの心の中から、トルストイの平和主義のような思想を根絶する作業に専念した。そして、あれだけ、日本の子どもたちを死なせた(人を殺させた)。そして戦後も教科書検閲などを通して、「平和」を、「歴史」を小馬鹿にする態度をとり続けて来た。
 
 幸徳秋水もトルストイに従って「謀殺」された。トルストイがヤースナヤ・ポリャーナで開いたような学校を日本でも育てようとした大正自由教育も、子どもを大切にしたから、その後の、ナチスばりの、文部省の統制教育によって息の根を止められた。

 こと教育の面に限って日本の近・現代史を振り返ると、文部省はさまざま分岐点で勝ち抜き(国家教育の存続、逆コース……)、戦後もゾンビのごとく生きのびて、今日に至っているのである。

 「9条」を無視し、トルストイの平和の教育を殺し続けて来た文部省……あの、お優しい北御門二郎さんが、「不倶戴天の敵」というキツイ言葉でお怒りになったのは、当然のことだ。

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 トルストイを起点とした、自由と平和の教育(学校)の物語を書きたいと、かねがね思い続けて来た。僕の力にあまる仕事だが、残された人生の時間を使って、なんとか書き上げたいと願っている。

 トルストイの自由学校に始まる流れを、ヨーロッパに追いかける一方(ヤースナヤ・ポリャーナと、バロセロナのフェレルの学校を中心に)、日本の大正自由教育を追い、最後はアメリカに飛んで、サドベリー・バレー校のデモクラティックな教育に、その結晶化された姿を見る――これが今の構想だ。

 そんな仕事の準備を最近始めたのだが、昨日たまたま、僕にとっては「運命」としか言えないことが起きて(知って)驚いた。

 アメリカのボストン近郊にある、サドベリー・バレー校は、トルストイの学校を意識して1960年代に開校した学校だが、19世紀にトルストイと交流があった、アメリカの平和主義者、エイディン・バルウが開いた「ホープデール」というコミュニティーが、なんと、サドベリー校のすぐ側に――それも、ほとんど隣合わせに、今も存続することが分かったのだ。

 暮れかかる別れ道を、トルストイに向かって歩き始めた僕にとっては、勇気付けられる、宝物のような、新たな知識!

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 考えて見れば、八代から届いた、北御門二郎さんのトルストイの本は、あのロシアの、「緑の杖」の大地から、はるばる届いた本なのだ。

 その本に、愛犬と戯れる北御門さんのお写真があって、そこに自分を「イワン爺さん」と紹介する、すこしお道化た説明が添えられていた。

 僕ごときが人間の格という点で北御門さんにかなうはずもないが、僕もまた、何を隠そう、小ズルサ、小利口さを(なるべく、としかいえないけど……)拒否し、笑われながら、馬鹿な選択をし続けて来た一人である。

 アホで間抜けで、物笑いの種になって来た僕ではあるが、トルストイの平和思想と、サドベリー校の創始者、ダニエル・グリーンバーグ博士の教育思想を繋げる物語を書き上げることで、いつか自分を、北御門さんにならって「イワン爺さん」と呼べる日が来ることを願っている。  
  

Posted by 大沼安史 at 07:19 午後 3.コラム机の上の空 |

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