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2009-10-10

〔コラム 机の上の空〕 「悲しみを見た男」ゴア・ヴィダル的「オバマ大統領に捧ぐ」

 オバマ大統領がノーベル平和賞に輝いた! そう、輝いた!
 ノーベル平和賞を受賞!

 ノルウェーの選考委員会の人々は、どんな思いで授賞を決めたのだろう。
 「核のない世界を」と言い、旧東欧へのミサイル防衛システム配備計画を撤回したからか?

 それとも、アフ・パク戦争(アフガニスタン・パキスタン戦争)で、米軍部・保守派に「米軍増派」を迫られ、「ノー」と言えなくて追い詰められているオバマに対し、「救いの手」を――決断の「口実」を差し出したつもりだろうか? 平和賞を差し上げます。アフガンから撤退しなさい……。
 
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 「オバマにノーベル平和賞」と聞いて、アメリカの作家、ゴア・ヴィダルの、ロンドンでの痛烈なオバマ批判を思い出した。(7日付、インディペンデント紙)

 ゴア・ヴィダル、84歳。現代アメリカを代表する最長老の作家。ハリウッド映画の脚本も書き、ケネディとも親交のあった、華麗なる経歴の持ち主。「反戦」の立場を貫いて来た、「左派の作家」。

 ロンドンのホテルのバーで、スコッチを飲みながらの、インディペンデント紙記者との会見だった。車椅子に座って。

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 ゴア・ヴィダルもまた、オバマが当選した時、人並みに楽観的気分に浸ったのだそうだ。が、それも、今や昔――。

 「無能な男だ。大統領に再選されないだろう。久しぶりに知的な大統領が出たと思ったのに、あの男はダメだ、戦おうとしない。押しつぶされている。誰だってそうかも……。アメリカは狂人の家だから」

 「みんなに好かれたがっている。自分がしなくきゃならないことは、理屈を述べること――それが全てだと思っている。しかし、〔敵の〕共和党は政党じゃない。ヒトラー・ユーゲントのような考え方の連中だ。憎しみでいっぱいなんだ。話し合いなど、できるわけ、ないじゃないか。やるだけ無駄だ。ああいうやつらを扱うには、ビビらせるしかない。オバマはしかし、デリケートすぎる……」

 「オバマはケネディより、倍も知的だ。でもケネディは世の中の現実を知っていた。海軍にいて、魚雷艇を沈められた。しかし、あのガキ(キッド=オバマのこと)は、一発の怒りの銃声も聞いたことがない。軍の将軍どもにハラワタ抜かれている。ウソをつかれて信じている……」

 そんなふうにオバマ批判を続けたあと、一呼吸おいて、「でも朗報がある」と、老作家は言った。
 「アフガニスタンはアメリカ帝国の終着駅になるだろう。それを見ることだけが楽しみだ」
 そういうなり、グラスのスコッチの残りを、ゆっくり飲み干したそうだ。
 
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 ゴア・ヴィダルは、ジョージ・ブッシュがイラク戦争を始めた時、アメリカの世論がイケイケドンドンになっている中で、「あいつは史上最悪の不人気の中でホワイトハウスを去るだろう」と予言し、見事、的中させた。
 「オバマは大統領に再選されることはない」という今回の予言、果たして当たるだろうか?

 オスロの選考委員がどういう理由で、現役の大統領に対し、授賞を決めたか知れないが、今回の任期途中の「平和賞」はオバマにとって「劇薬」すぎると、僕は思う。 

 「平和賞」にふさわしい業績を現状の中で上げるには、よほどの豪腕をふるわなければならないが、アメリカという国は、ゴア・ヴィダルの言うように、軍産複合体が権力をにぎるマッドハウス(Madhouse)なのだ。一筋縄ではいかない軍事国家なのだ。(だから、彼の友人であるケネディも殺された……)

 ああ、「平和賞」を受賞しながら、何もできずに3年後、ワシントンの政治の舞台から追われることになる(?)オバマ!

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 ゴア・ヴィダルはロンドンのホテルのバーでの会見で、なぜか唐突に、作家仲間のノーマン・メイラーに触れ、こんなエピソードを語っていた。

 あいつは(メイラー)はよく分かりもしないで、「実存的(existential)」という言葉を口癖のように使っていたが、アイリス・マードック(英国の女流作家。元々は哲学者)からその意味を聞かされ、口をアングリさせ、驚いていたぜ、と。

  オバマ批判に続いて、なぜ、「実存的」を持ち出したか、ゴア・ヴィダルの会見記事を最初に読んだ時は分からなかったが、オバマに「平和賞」が出た今、のみこみの遅い僕にも分かるような気がする。

 ゴア・ヴィダルはオバマをクソみそに批判しながら、心のどこかで、こんな風に言いたかったのだ。

 オバマよ、君が「平和の大統領」として名を遺すには、「実存的」に闘うしかないのだ。一個の実存として、状況にアンガージュし、果敢に状況を切り拓くしかないのだ――と。

 そう、ゴア・ヴィダルの君に対する辛辣な批評は、君に対する、最後の呼びかけだった!……

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 「ゴア・ヴィダル」とは、ロシア語で「悲しみを見てしまった男」の意味だそうだ。

 アメリカの悲劇を見続けて来た作家は、今回の君の受賞の知らせを聞いて、きっとスコッチのグラスを掲げ、君にこう語りかけていることだろう。

 オバマよ、ノーベル平和賞、それでも、おめでとう!
 こうなったからには、平和賞をぶらさげて、ひとりの人間として実存的に闘うんだ!
 いいか、オバマ、状況を切り拓くんだ!
 あのジャック(ケネディのこと)の、やれなかったことを、やるんだ!

 ⇒ http://www.independent.co.uk/news/world/americas/gore-vidals-united-states-of-fury-1798601.html

Posted by 大沼安史 at 12:07 午前 3.コラム机の上の空 |

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