〔コラム 本の森・一番町日記〕 ジョン・アーヴィングのラストセンテンス
ニューヨーク・タイムズ(電子版)のビデオ・インタビューに、作家のジョン・アーヴィングが出ていた。
昔、『ガープの世界』を読んで感心したことがある。村上春樹氏もこの人から、ずいぶん、影響を受けているじゃないかな……とにかく、僕の好きな、尊敬する作家だ。
で、ビデオを観た。
11月、遅くとも年明けには出る、新作、『Last Night in Twisted River』(千曲川の最後の夜、とでも??)のインタビューだった。
4年前、2005年の1月に、「最後のセンテンス」が浮かび、それから7ヵ月後に「最初のセンテンス」を書いた――つまり、物語を書き出した。
最初に浮かんだ「最後のセンテンス」は、手の手術をした病院に向かう車の中でのことだった。
ボブ・ディランのCDを流しながらのドライブだった。
「Tangled up in blue」 を聞いていて、こんな一節にぶつかった。
♪He had a job in the old North Woods
Workin' as a cook for a spell
But he never did like it all that much
And one day the ax just fell
その時、浮かんだのが、『Last Night in Twisted River』の結びの文章となる、以下の一文。
He felt that a great adventure of his was just beginning as his father must have felt in the throes and dire circumstances of his last night of Twisted River.
自分にも、大きな冒険が始まりつつあることを、彼は感じた。それは彼の父親が、あのトゥイスティド・リバーの最後の夜に、苦痛にさいなまれ、ひどい状況に囲まれながら、感じたに違いないことだった。
病院に着くや否や、ジョン・アーヴィングは、その部屋にあった、処方箋か何かの紙に、このラストセンテンスを書き付けたそうだ。
ラストセンテンスは一字一句なりとも変えない。このラストセンテンスに向かって書いていく。
これが、彼の小説作法だそう。
コンマもダッシュも動かさない!……
う~ん、なんか、凄い!
小説の最初の方は、1章を5章と入れ替えたり、いろいろ変えるけど、最後の最後だけは絶対、変えない。そのラストセンテンスの一点を目指して書く。
アーヴィング流の極意は、作家を目指す、日本の若い人たちの、「指針」にもなるような気がするが、どうだろう?!
書き出しにあれこれ悩むのではなく、最初に「到着地点」を決めてしまい、そこに向かって筋(ストリー)を考え、曲がりくねった川を下ってゆく。
中学や高校での作文指導にも、このやり方、意外に役立つかも知れない。
文章は終わりから書く……そう、コペルニクス的な、小説作法の発想の転換!
⇒ http://video.nytimes.com/video/playlist/arts/1194811622313/index.html
〔注〕 このコラムは、小生がボランティア編集長を務める、仙台市の市民出版社、「本の森」の編集部ブログ、「一番町日記」(⇒ http://hello.ap.teacup.com/vancouverbc/ )のコラムを転載したものです。
Posted by 大沼安史 at 09:10 午後 | Permalink