« 〔イラクから〕 「私は一人の人間。二人にはなれない」……拷問に抗議し、自殺した通訳兵、アリッサ・ピーターソンさんを悼む | トップページ | 〔NEWS〕 初の「気象難民」は南太平洋・カルテレット島から 水没の危機 住民 ブーゲンビリア島への移住を開始 »

2009-05-15

〔コラム 机の上の空〕 「独裁」を脱ぎ捨てる時      1984 in 2009 in ミャンマー

 英紙ガーディアンに、作家、ジョージ・オーウェルが、最後の力を振り絞って『1984年』を書き上げ、力尽き果てて46歳で死亡するまでの経過を再現する記事が載っていた。

 それによると、前年、1945年3月、愛妻のエイリーンを失ったオーウェルが、「オブザーバー」紙の編集人、デイヴィッド・アスターの勧めで、アスターがスコットランドの孤島、ジュラ島に所有する別荘、「バーンヒル」へ、列車でロンドンから向かったのは、翌46年5月のことだった。

 「バーンヒル」は寝室4つに広々とした台所のある建物で、海を眺めることができた。電気もない、孤島のこの家で、オーウェルは最後の執筆活動に全力を挙げる。

 一時、『ヨーロッパ、最後の人間』というタイトルになりかけた世紀の傑作、『1984年』は、その一室で書き上げられた。

 結核を患う病身で、タイプを打ち続けるオーウェル。書き上げた原稿の3分の2を完全に書き直す(タイプし直す)、それはそれは苦しい執筆作業だったという。

 養子の息子らと海にボートで出て、溺れかかったことも。アメリカから届いた結核の新薬、ストレプトマイシンは最終的に効果を上げたが、健康を回復するには至らず、歩くこともできなくなったオーウェルは、自室にこもってタイプを打ち続けた。

 最終稿の完成は、死の1年2ヵ月前、1948年11月30日のことだったそうだ。

 ガーディアン紙の記事を読んで、ジョージ・オーウェルの作家としての凄みをあらためて感じた。
 1948年に書かれた「1984年」は、ソルジェニーツィンら生き証人の出現を予告し、現代における「フレンドリーなファシズム」の核心にあるものさえも、予言したのである。

 ジョージ・オーウェルが作家活動を始める前に、イギリス帝国主義の手先(警察官)を務めたのは、現在のミャンマー、1920年代の植民地、ビルマだった。

 そのミャンマーが今、2009年における「1984年」となっている。

 軍事独裁政権による全体主義が、南アジアのこの国を、戦時中の日本同様の苛烈さで、窒息させているのである。

 ラングーンの湖の畔に建つ自宅で軟禁生活を強いられる、ビルマ民主主義のシンボル、スーチー女史のもとに先日、若いアメリカ人が湖を泳いで辿り着き、数日、滞在したあと、再び湖を泳いで渡ったことがあったらしく、スーチーさんは「外国人」をかくまった疑いで身柄を拘束されたという。

 湖を泳いで会いに来た、遠来の客を泊めただけで、それが罪になり、逮捕されてしまう、ミャンマーという国!

 そこは独裁者の軍人らが「ビッグブラザー」として君臨する、「自由が奴隷化された」国なのだ。

 つまり、オーウェルは1948年においてすでに、2009年における「ビルマの1984年」を予見していたことになる。

 新首都、ネピトーに群れる肥満した将軍たちは、さしずめ、ミャンマー版『動物農場』の支配者であろう。

 オーウェルの『1984年』の最初の方に、主人公、ウィンストン・スミスが繰り返し見る「夢」の描写が出て来る。

 
   黒髪のその少女は原っぱを彼の方に歩いて来た。まるで一振りで着衣を破くと、汚ら しげに、横へ放り投げた。彼女の裸身は白く、滑らかだった。しかし、彼に何の欲望も起きず、ただただ彼女を眺めるだけ。その時、彼を圧倒したもの、それは少女が着衣を放り投げるその動作だった……

 このくだりを読んだ時、この少女とはスーチー女史のことではないか、と一瞬、錯覚を覚えたほどだ。

 抑圧の着衣を脱ぎ捨てるのは、ウィンストン・スミスの夢であり、オーウェルの夢であり、スーチー女史の夢であり、ビルマ民衆の夢であるだろう。

 スーチー女史の即時釈放を要求し、「夢」が、この2009年に実現することを切に願う。

⇒ http://www.guardian.co.uk/books/2009/may/10/1984-george-orwell

Posted by 大沼安史 at 06:54 午後 3.コラム机の上の空 |

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 〔コラム 机の上の空〕 「独裁」を脱ぎ捨てる時      1984 in 2009 in ミャンマー:

» オバマの『動物農場』: より大規模で残酷な戦争は、平和で公正だ。 トラックバック マスコミに載らない海外記事
Prof James Petras Global Research 2009年5月17日 「デルタ部隊の連中は、精神病者だ。…デルタ部隊で服務するには、折り紙付 続きを読む

受信: 2009/05/22 1:42:03