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2009-01-18

〔コラム 机の上の空〕 世界は「コトバ」を待っている! 真実の声? 虚飾の語? 「言葉」が問われる、オバマ大統領就任式 

 オバマ新大統領の就任式が20日、ワシントンで行われる。

 「イラク」「アフガン」「ガザ」……そして、忍び寄る「世界大恐慌」の危機。
 「戦争」、そして「金融危機」……。
 「双子の暴力」が荒れ狂い、それを育てた「ネオリベ&ネオコン」という双子の「政治暴力」に対して、世界の人びとが怒りの叫びを上げる最中、「オバマ新政権」が船出する。

 世界中に響き渡る「政治不信」と「変革」を求める大合唱に、オバマ氏は就任演説でどう応えるというのだろう。
 現代の荒地に、「言葉」はなお、有効であるか?!

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 オバマ氏は「言葉」で大統領に選び出された。米国民と世界市民は、その「言葉」に希望をつないだ。
 史上初めて、「言葉」によって選ばれた、「言葉の大統領」、バラク・オバマ。

 就任式の「かげの主役」は「言葉」である。アメリカの大統領就任式としては、史上3度目、ケネディ、クリントンに続き、就任式で「詩」が読み上げられる。
 
 自作の詩を朗読するのは、黒人女性詩人、エリザベス・アレキサンダー。
 ロバート・フロスト(1961年、ケネディ)、マヤ・アンジェロウ(2007年、クリントン)に次いで、新しい政治の夜明けに、新作を捧げる。

 オバマ氏がシカゴ大学ロースクールで憲法を教えていたことから親交があるという彼女は、どんな詩でもって、オバマ新大統領を祝福するのだろう?

 ニューヨーク・タイムズ紙のD・ガーナー記者は彼女の詩を、「人種、歴史、愛、家族」にこだわる詩だと解説している。楕円のように広がる、角張った、感電する音楽的な詩だと。

 ガーナー記者はそれ例として、代表作、「解放」と「微笑み」を記事の中で紹介しているが、それはそれとして、筆者(大沼)が彼女のHPで読んで良かったのは、以下に掲げる「詩学 100番、「私は信じる」である。

   詩学 100番、「私は信じる」

   詩はね、と私は学生たちに言う
   固有のものよ。だから、詩 

   そこに、私たちはいるの
   (スターリング・ブラウン〔注 黒人詩人〕は
   「私」はだれでもドラマチックな「私」って言ったけど)
   浅瀬で貝を見つけるようなもの

   貝が蓋を開けるとね
   世間知の手帳は真っ白になる

   詩はね、あなたが見つけるもの
   隅っこの埃の中に

   バスに乗ってると聞こえてくる 神
   細部に宿り給ふ それでしかあり得ない

   ここからそこへ行くための
   詩(そう、私の声がいちばん高鳴る時)
     
   愛、愛、愛だけじゃなく 
   犬が死んで、私は悲しいの

   詩はね、(私の声が最も響いてくるのは)
   人間の声そのものよ

   ね、周りの仲間の声に、耳澄ましたくならない?

 拙い訳で申し訳ないが、素朴な真実と、他者とつながる言葉(詩)に対する信頼のようなものを感じる。
 「ここからそこへ」へ行くための「人間の声」としての言葉(詩)……。

 これこそ、エリザベス・アレキサンダーが就任式で読み上げる詩のモチーフになるものではないか?

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 「言葉の大統領」であるオバマはその「演説」で名高いが、彼はゴーストライターなしで本を2冊書き上げた文章家でもある。
 自分で本を書いたことが、彼の演説に生きている。彼自身が本に綴った言葉、句、センテンスが、演説の中に息づいている。

 オバマの本を読んで、私が感心させられたのは、その詩的な表現力だ(たとえば、父親の故郷、ケニアを訪ねたときの風景描写。さらには、空に名月がかかっていると言って、母親に起され、一緒に見上げた子どもの頃の思い出、など)。

 詩人・オバマ……。

 そう、オバマは詩的な散文の書き手であり、詩的な演説の名手でもあるが、しかし、同時に、詩人でもある……少なくとも、「詩人であった」ことは確かだ。

 19歳、ロサンゼルスのオキシデンタル・カレッジ(その後、ニューヨークのコロンビア大学に転学)の学生時代に、大学の文芸雑誌に、詩を2篇、寄稿しているのだ。

 そのうちの「ポップ(POP=「父ちゃん」の意味)」という詩を読むことにしよう。

   ポップ
   
   長い、破れたソファに座って
   タバコの灰だらけの中で
   ポップはテレビのチャンネルを変える、もう一杯
   ウヰスキーを飲み干す 生で それで?
   そこのお若いの 俺に何しろというんだね
   世の中 なんとかなる そう
   俺にはフツーのこと
   僕はそんなポップの顔を見詰める その視線は
   ポップの目から逸れ
   僕にははっきりわかる 知らないんだこの人は自分の
   暗い、潤んだ瞳が
   別の方向を見ていることを
   あいにくなことに目が緩く引き攣り
   過ぎ去ろうとしない 
   それでも僕は耳を澄ます そして頷く
   聞くんだ 目を開けろ しがみつけるまで 色褪せた           
   ポップのベージュ色のTシャツに 叫びながら
   ポップの耳に 重い耳たぶに向って がポップは言い続ける
   答えの冗談を どうしてそんなに不幸せか、僕は聞いたんだ
   でも僕はもう気にしない なぜって
   ポップはずうっとそうして来たのだから 手探りし
   ソファの下から取り出した
   古い鏡 僕は笑い出す
   声を出して笑う 鏡の中のポップの顔の血が噴き出す
   僕に向って 小さくなってゆく鏡の中のポップ
   僕の脳の中の一画にある何かが
   搾り取られているような あの
   スイカの種のような
   二本の指の間の
   ポップはもう一杯、ウヰスキーを飲み干す 生で
   そして指差す 同じ琥珀色の
   半ズボンの上の染みを 僕のと同じ染み
   同じ臭いの息 吐き出したのは
   僕の口 ポップはチャンネルを変え、古い詩を語り出した
   母親が死ぬ前につくったという詩を
   立ち上がり 叫び 求める
   抱きしめてくれと 僕も子どものように小さくなって
   僕はようやくポップの首にしがみつく
   太い 油のような首 広い背中へ そう
   今僕は鏡の中に僕を見ているから メガネの枠に
   ポップの黒縁のメガネの枠の
   その僕が今、笑っている

 
 自分と母親を捨てた「父」を抱きしめようとしながら、己のアイデンティティーの所在に苦しむ、若き日のオバマを偲ばせる詩。

 黒人の父親と白人の母親の間に、「現代アメリカ」に生まれ落ちたバラク・オバマの、人間としての成長の起点を思わせる詩ではある。
 

             ###

 バラク・オバマという人は、「不在の父」を抱き取り、こうして自ら「アメリカ人」になった男だ。破れた古いソファに座り、「自分とは何者なのか」という問いを、血を吐く思いで問い続け、遂にひとりの「アメリカ人」になった男だ。

 アメリカの「国のかたち」を」決めた「憲法」を学び、シカゴの貧民街の草の根で「アメリカ」の実相を知った彼が今、大統領の椅子に就こうとしている。

 その彼が、「ここからそこへ行く」ための「人間の声」を歌った女性詩人に、就任式での詩の朗読を依頼したのは、当然の成り行きだろう。

 20日の就任式でバラク・オバマは、エリザベス・アレキサンダーの詩人の魂に共鳴し、どんな演説をすることか?

 「現代世界」の「荒地の首都」というべきワシントンで、バラク・オバマは何を語るのか?

 「言葉の大統領」、バラク・オバマの詩的演説は、「戦争」と「金融危機」という「双子の暴力」が切り裂いた世界に、どのような希望を与えようというのか?

 20日の日に彼が語る言葉は、うわべだけの虚飾の語であってはならない。その場しのぎの癒しの言葉であってはならない。

 真相と響き合う真実の声でなければならない。  
 
 バラク・オバマはしかし、就任演説で真相を語り、真実を述べるはずだ。そして、希望を語ることだろう。

 惨憺たる悲惨の底から語られるであろう、バラク・オバマの演説は、彼が「言葉の大統領」である以上、歴史的な演説にならざるを得ない。   

 アメリカの人びととともに「言葉」によって勝ち抜いた彼が、新大統領として、政治屋の世間知の手帳にはない「言葉」でもって、どう「政治」を作り変えてゆくか?……その見取り図を指し示す「言葉」が、間もなく語られる……。

      
   Ars Poetica #100: I Believe

   Poetry, I tell my students,
   is idiosyncratic. Poetry

   is where we are ourselves,
   (though Sterling Brown said

   “Every ‘I’ is a dramatic ‘I’”)
   digging in the clam flats

   for the shell that snaps,
   emptying the proverbial pocketbook.

   Poetry is what you find
   in the dirt in the corner,

   overhear on the bus, God
   in the details, the only way

   to get from here to there.
   Poetry (and now my voice is rising)

   is not all love, love, love,
   and I’m sorry the dog died.

   Poetry (here I hear myself loudest)
   is the human voice,

   and are we not of interest to each other?

      POP

      Sitting in his seat, a seat broad and broken

      In, sprinkled with ashes,

      Pop switches channels, takes another

      Shot of Seagrams, neat, and asks

      What to do with me, a green young man

      Who fails to consider the

      Flim and flam of the world, since

      Things have been easy for me;

      I stare hard at his face, a stare

      That deflects off his brow;

      I'm sure he's unaware of his

      Dark, watery eyes, that

      Glance in different directions,

      And his slow, unwelcome twitches,

      Fail to pass.

      I listen, nod,

      Listen, open, till I cling to his pale,

      Beige T-shirt, yelling,

      Yelling in his ears, that hang

      With heavy lobes, but he's still telling

      His joke, so I ask why

      He's so unhappy, to which he replies...

      But I don't care anymore, cause

      He took too damn long, and from

      Under my seat, I pull out the

      Mirror I've been saving; I'm laughing,

      Laughing loud, the blood rushing from his face

      To mine, as he grows small,

      A spot in my brain, something

      That may be squeezed out, like a

      Watermelon seed between

      Two fingers.

      Pop takes another shot, neat,

   Points out the same amber

   Stain on his shorts that I've got on mine, and

   Makes me smell his smell, coming

   From me; he switches channels, recites an old poem

   He wrote before his mother died,

   Stands, shouts, and asks

   For a hug, as I shink*, my

   Arms barely reaching around

   His thick, oily neck, and his broad back; 'cause   

   I see my face, framed within

   Pop's black-framed glasses

   And know he's laughing too.

  (注)shink*は、原文のまま。 shrinkの誤りか?(大沼)

⇒   http://www.nytimes.com/2008/12/25/books/25poet.html?_r=1

   http://www.elizabethalexander.net/home.html

      http://www.huffingtonpost.com/steven-barrieanthony/obamas-poetry_b_44271.html

Posted by 大沼安史 at 02:14 午後 3.コラム机の上の空 |

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