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2008-10-18

〔コラム 机の上の空〕 「ジョー」をめぐる闘い 米大統領選は「ふつうのアメリカ人」の勝利のタップダンス

 アメリカの大統領選に、もう一人の「主役」が躍り出た。
 その名も「ジョー」。
 もう一人の「主役」?……陰の「主役」?――いや、大統領選のほんとうの「主役」と言った方がたぶん、より正確だ。
 次の大統領を決めるのは、結局、「ジョー」のような、無数の無名の、ふつうのアメリカ人たち、なのだから。

 それは「ユーチューブ」のビデオ映像で始まった。
 大統領選最後のディベートを前にした先週の末、オバマ候補がオハイオ州のトレドに入った。遊説先の公園(のようなところ)で、オバマ候補の前に、体格のいい、白人の男が現れた。

 ジョー・ウルツバッカー氏。
 配管(プラマー)の仕事をしているという彼は、オバマにこう尋ねた。「会社を買おうと思っているんだ。年収、25万ドルから28万ドル、稼げる。(25万ドル以上に増税する)あんたの課税プランだと、もっと税金、払わなくちゃならないってことだな?!」

 そんなジョーのストレートな突っ込みに、オバマ候補は丁寧に答えた。

 「配管の仕事して何年になるの?」

 「15年だ」

 「だったら、こう考えられないか? あなたが仕事を始めたころ、年収はそれほどじゃ、なかったろう。私の課税プランは、そういう人たちの税負担を減らすことだ。もし、その時、私のプランが実現したなら、あなたはもっと早く、会社を買えるようになったろう?」
 「私のプランではアメリカ人のほとんどが助かる。そうなれば、あなたのビジネスにとってもいことじゃないか」
 「いい質問をありがとう」

 このビデオ映像が「ユーチューブ」で流れると、早速、マケイン陣営が飛びついた。
 汗水垂らして夢を実現しようとするアメリカ人に、増税で冷や水を浴びせるオバマ……そんな揚げ足取りのキャンペーンを始めたのだ。

 15日、ニューヨーク・ロングアイランドの大学で行われた、大統領選3回目、最後のオバマ・マケイン・ディベート。
 負け戦を挽回しようと、マケイン候補が「ジョー、リッチになれておめでとう!」と、テレビ・カメラを通じて、会ったこともないオハイオの配管工に呼びかけ、「アメリカン・ドリーム」に水を差す(?)オバマの選挙公約に対する攻撃を始めた。

 ディベートは「ジョー」をめぐる論戦になり、両候補の口から、会わせて「20回以上も」、「ジョー」の名前が飛び出た。

 両候補に代わり、「ジョー」が主役になったのだ。

 マケイン陣営としては、「ユーチューブ」のビデオを観て、「これは行ける」と思ったのだろう。「ジョー」をヒーローの座に祭り上げ、「夢の足を引っ張るオバマ」、「ヒーローの夢を助けるマケイン」の構図を有権者の頭に叩き込もうとした。

 FOXテレビのような右派メディアもささり込み、「リッチになったジョー」から「オバマの政策は社会主義」「アメリカン・ドリームじゅない」といった「言質」を引き出して、最後の巻き返しプロパガンダ戦に臨もうとした。

 が、そんな右派の思惑に、逆風の吹き戻しが……。
 一躍、時の人になった「ジョー」に取材が殺到、「リッチなジョー」の「素顔」が明らかになったのだ。

 34歳。シングルファザー。宿題をみてあげる息子(13歳)が一人。
 
 配管の仕事をしているらしいが、ライセンスを持っておらず、勤めている配管会社(たぶん、ジョーはこの会社を買いたいらしい)も、社長とジョーだけの超零細企業。とても年に25万ドル以上も稼ぎ出す会社ではない、ということが明るみ出た。
 おまけに、いろんな借金もあるということも……。

 「ジョー」はつまり、「リッチになった自分を夢見る」、ふつうのサブプライム(貧乏)な、平均的なアメリカ人だった。オバマ候補の減税プランの恩恵を被るアメリカ人「98%」の一人だった。

 マケインから「リッチになって、おめでとう」とテレビを通じて呼びかけられ、ジョーは何と思ったか……。

 「ユーチューブ」でオバマと意見を交わす「ジョー」には、初の黒人大統領に対し、対等に議論する、白人としてのプライドのようなものがにじみ出ていた。

 「ジョー」にはたぶん、ああいった聞き方(言い方)しか(おれはリッチになるんだ。苦労してリッチになるのに、増税とは何だ?)できなかったのだろう。

 その強がりを、夢に生きる苦しさを、恐らく(シカゴの貧民区、サウスサイドでコミュニティー活動をしていた)オバマは直感的に理解していたのだ。だから、オバマは「ジョー」に対して、「尊敬している」を連発し、「ジョー」の右肩に二度も手を置いた……。

 金権マケインには、そうした理解力も、思いやりも、なかったのである。

 ただただ、利用しようとしただけ。
 「ジョー、リッチになれておめでとう!」と、二度も繰り返した、超リッチなマケイン。

 さて、その「主役」の「ジョー」氏だが、投票で、オバマ、マケインのどちらに投票するか、まだ決めてはいないようだ。(共和党の予備選には参加している……)

 最後に「ジョー」氏のオバマ候補の「印象」を紹介しよう。
 「ジョー」氏はテレビの女性キャスターのインタビューにこう答えている。
 「(オバマに質問して)今もタップダンスしてるような気分だ」と。
 
 タップダンス??
 何それ??

 そんな疑問に答え、「ジョー」はこう付け加えた。
 「あいつ(オバマ)は(タップダンスも得意な黒人俳優の)サミー・ディビス・ジュニアぐらい、いい奴だったぜ」

 「ジョー」はほんとはオバマが好きなのだ。
 
 間もなく、大統領選の投票日。
 無数のジョーがオバマに一票を投じ、勝利のタップダンスを踊ることだろう。

 大統領選最後のディベートで「ジョー」が「主役」になったのには、選挙プロパガンダの思惑を超えた、重く確かな、必然的な意味がある。   
   

⇒ http://jp.youtube.com/watch?v=BRPbCSSXyp0

  http://www.nytimes.com/2008/10/16/us/politics/16plumber.html?scp=7&sq=Joe%20Plumber%20&st=cse

  http://www.nytimes.com/2008/10/16/us/politics/16plumber.html?_r=1&scp=7&sq=Joe%20Plumber%20&st=cse&oref=slogin

  http://www.nytimes.com/2008/10/17/us/politics/17joe.html?scp=2&sq=Joe%20Plumber%20&st=cse

Posted by 大沼安史 at 01:31 午前 3.コラム机の上の空 |

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