〔いんさいど世界〕 ミサイルか? 学校か?
ニューヨーク・タイムズのコラムニスト、ニコラス・クリストフ氏が、アフガン、パキスタンで「学校」づくりを進める、アメリカ人男性のことを書いていた。
グレグ・モーテンセンさん(51歳)。
アフガンで医療活動と井戸掘りを続ける日本人医師、中村哲さんのような、肝っ玉の中に決意と希望を秘めた活動家である。
クリストフ氏のコラムに導かれ、モーテンセンさんのことを少し調べた。
そして感動し、うれしくなった。こういうアメリカ人がいる!
その感動は、以前、中村哲さんの活動を初めて知ったとき感じた、誇らしい思いと同じものだった。
モーテンセンさんはアメリカはミネソタの生まれだが、間もなく両親に連れられ、アフリカのタンザニアへ。キリマンジャロが見える場所で育った。
父親は現地にキリスト教系の病院をつくり、母親はインターナショナル・スクールを開いた。
米陸軍の衛生兵として「冷戦」下の西ドイツに駐留。その後、アメリカに戻り、大学で神経病理学を専攻した。
転機は妹の突然の死で始まった。1992年、モーテンセンさん、35歳の年。
翌年、モーテンセンさんは悲しみを断ち切ろうと、世界第2の高峰、K2に、パキスタン側から登頂を試みた。
失敗し、道に迷い、疲れ果てたモーテンセンさんがたどり着いたのは、コルフェという、イスラムの貧しい、山間の村。が、村人たちは、見ず知らずのモーテンセンさんを助けてくれたという。
そのコルフェ村で、モーテンセンさんは、自分がなすべき「使命」に出会う。
村には、学校の校舎はもちろん、一本の鉛筆も、一枚の紙もなく、凍てついた地面に棒で文字を刻み込む子どもたちがいた。
元気を回復したモーテンセンさんは、村人に「学校をつくりに戻って来る」と約束して帰国。
カリフォルニア・バークリーの救急病院で看護士として働いてお金をため、テレビのキャスターや、理解ある科学者からもらった寄付金と、自分の登山用具、マイカーを売り払った代金を足して、1万2千ドルをつくり、コルフェ村に戻って「学校」を建てた。
村人への約束を果たしたモーテンセンさんだったが、これで終わり、ではなかった。これを手初めに、篤志家からの資金援助で「中央アジア協会」というNGO(非政府組織)を設立、アフガン、パキスタンの辺境山岳地帯を中心とした地域で、次々と「学校」を建設、その数、いまでは73校に達しているという。
モーテンセンさんが建てている「学校」はすべて、女の子のための学校。
「もし、男の子を教育したなら、それはその子自身の教育になる。しかし、女の子を教育すれば、村全体の教育につながる」という、アフリカの諺に学び、「女子校」づくりに専念している。
2005年10月に大地震が起きたカシミール地方のパティカという村にも翌年9月、中国から機材・資材を運び込み、学校を建てた。学校の中庭に、地震で亡くなった村の女の子7人のお墓をつくった。
タリバンに捕まり、8日間、拘束されたこともあるが、村の長老らがモーテンセンさんの後ろ盾になってくれた。
中村哲さんの場合もそうだが、人道的な貢献を阻むものは、結局のところ、何もないのである。タリバンもイスラム原理主義も、たしかに「ハードル」になるものかも知れないが、飛び越えられないわけではない。
モーテンセンさんのようなアメリカ人の存在は、他ならぬ「アメリカ」にとっても救いであり、貴重なプラスである。
武力行使という「破壊」より、学校づくりという「建設」の方が、「地域の平和と安定」に役立つのは言うまでもない。モーテンセンさんの「貢献」によって、どれだけ「アメリカ人」の悪しきイメージが回復されていることか?
モーテンセンさんは「トマホーク・ミサイル1発で、学校を25校、つくることができる」と訴えている。
日本の自衛隊をNATO軍に組み込み、アフガンに派兵するなんて、それこそ愚の骨頂。
「井戸」を掘り、「医療」を施し、「学校」を建てることこそ、われわれがやらねばならぬことである。
モーテンセンさんが本を書いているというので、読んでみたくなり、洋書屋さんに一冊、注文を入れた。
本のタイトルは「3杯のお茶」。
インドネシアのバリ島に伝わる諺から採ったそうだ。
「相手と最初、飲むお茶は、他人と飲むお茶だ。2回目に飲むお茶は、大事なお客様と飲むお茶だ。3回、お茶を飲んだ相手は、もう家族である」
モーテンセンさんはたぶん、ほんとうの「国際貢献」とは、ミサイルをぶち込むことではなく、一緒にお茶を飲みながら信頼を深めることだと訴えたくて、本のタイトルにしたのだろう。
もしかしたら……いや、絶対に、間違いなく、モーテンセンさんは中村哲さんの「井戸掘り」の仕事を知っている!!
知らないわけがない。だからこそ、「お茶」の諺を、わざわざ書名したのである。
モーテンセンさんと中村哲さんの「対談」を、一度、どこかで、ぜひとも聞いてみたいものだ。
日本の政治家たちにも是非とも聞いてもらいたいものである。
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