〔コラム 机の上の空〕 人種の壁超え卒業パーティー 米ミシシッピー州 黒人俳優 モーガン・フリーマンが一役
黒人俳優、モーガン・フリーマン(71歳)。ご存知だろうか?
映画「ミリオンダラー・ベイビー」でアカデミー賞(助演男優賞)を受賞した俳優(というより「役者」といった方がいような……)である。
わたしも彼の大ファンで、映画「ショーシャンクの空」のRED役を見て、それ以来、注目している。
生まれはテネシーだそうだが、育ちはミシシッピー。少年時代を人種差別がことのほか激しい、アメリカの深南部(ディープ・サウス)で過ごした。(その後、インディアナのゲイリーを経てシカゴに行く)
映画俳優で成功を収めた今、住んでいるのは、少年時代の思い出がいっぱい詰まったミシシッピーのチャールストン。人口2000人の小さな田舎町だ。
役者の枠を超えた人で、事業家でもある。映画の制作会社をつくったりもしているが、面白いのは、レストランを地元のミシシッピーで開いていることだ。「マディディ」という店で、クラークスデールという町にある。
南部の豊かな食文化を伝えたい……老俳優はアメリカの新聞のインタビューに応え、こう語っていた。もう、3年か4年も前のことだが……。
そんな記事(たしか、ニューヨーク・タイムズだったか……)に目を通したのも、この黒人俳優のことが気になっていたからである。
そして一昨日(金曜日)――英紙インディペンデント(電子版)を閲覧していて、ファンとしてはたまらない、嬉しい記事が出ていた。
モーガン・フリーマンが一役買って出て、地元チャールストンの公立高校で、初の人種統合プロム(卒業ダンスパーティー)が開かれたというのだ。
去年まで、白人と黒人、それぞれ別個にプロムを開いていたというのだから、アメリカ南部の人種差別の根深さは相当なものだが、そんな悪しき伝統を止めさせたモーガン・フリーマンの心意気や、よし、である。
家族とともに、チャールストンの親戚を頼ってテネシーから移って来たモーガン・フリーマンは近くのグリーンウッドというところで育った。その町には映画館が一軒、あったが、黒人(の子)は2階の桟敷席、白人(の子)はフロアの椅子席という具合に見る場所が区別されていた。
モーガン少年が12歳のとき……ということは、1955年の年に、グリーンウッドに近いマネーという町で、シカゴから帰省した14歳の黒人少年が、白人の店主に生意気な口を利いた、といったささいな理由でリンチに遭い、川に投棄される事件が起きている。
そういう土地柄だからこそ、1970年以来、人種統合後もなお、チャールストン高校では、人種別プロムという悪しき伝統が続いていたのである。「うちの娘を、ニガーに触れさせるものか」といった風な。
今回、モーガン・フリーマンが「人種統合プロム」の開催を働きかけたのは、友人のカナダ人映画プロデユーサーとの会話がきっかけだったそうだ。
モーガン・フリーマンの地元の高校で、いまだに人種別プロムが続いていることを知ったカナダ人プロデューサーが、老友に電話をかけて聞いたのだ。
「オレ、若い頃、そう、今は昔の1960年代に、カナダからミシシッピーに入って公民権運動の応援したことあるけど、あんたのところの高校のプロムがまだ人種隔離されてるってホントか?」
「ああ、ホントだ」
「いいのか、それで」
「いや。だから、今から10年前、地元の教育委員会に、オレ、プロムの金、出してもいいから、人種統合でやってくれって頼んだんだ。でも、聞いてもらえなかった」
「でも、その提案、まだ生きているんだろう? 金、出す気、あるよな」
「ああ」
「だったら、もう一度、働きかけてみないか。実現したらオレ、ドキュメンタリーの映画を撮りたいしさ」
「わかった。じゃあ、一緒に働きかけてみよう」
――というわけで、地元教育委員会との再交渉の結果、ついに人種統合プロム実現という事態に相成ったわけである。
で、プロムの日、実際、どんな風、だったかというと、主役の卒業生たちは肌の色など気にせず、音楽に合わせ、一緒にダンスを楽しんでいたが、親の方はついて行けず、世代のギャップが目立ったそうだ。
この人種統合プロムとは別に、小規模ながら「白人オンリー・プロム」を強行する親たちもいて、差別意識の根深さを見せつけもしたが、深南部のミシシッピーで「人種統合プロム」が開催されたことは、大きな一歩。
ディープ・サウスにも、新しい時代の風が吹き出したらしい。
変わるアメリカの草の根。
老優モーガン・フリーマンもまた、あの「オバマ」支持者であることは、言うまでもない。
⇒ http://www.independent.co.uk/news/world/americas/charlestons-first-integrated-prom-846261.html
☆☆PR 「ソーシャル・ビジネス」の市民出版社「本の森」原稿全国募集 PR☆☆
低価格(四六版並製 500部50万円 より) 全国書店配本可
⇒ http://homepage2.nifty.com/forest-g/
Posted by 大沼安史 at 03:24 午後 3.コラム机の上の空 | Permalink