〔イラクから〕 占領下の真実 民衆のレンズ 「ケータイ写真館」
オランダのカメラマン、ゲート・ファン・ケステレン(Geet van Kesteren)さんが、イラクの人びとが携帯で撮影した写真を集めた写真集、「バグダッドは呼んでいる(Baghdad Calling)」出版したと、英紙インディペンデントの中東特派員、ロバート・フィスク氏(ベイルート駐在)が18日付けの同紙電子版に書いていた。
オランダでケステレン氏に会って、話を聞いたのだそうだ。
ケステレン氏はプロの報道写真家だが、いまのイラクでは、本当に撮りたい被写体にカメラを向け、シャッターを切ることはできない。あまりにも危険すぎるからだ。
そこで、ケステレン氏は、イラクの人びとが「ケータイ」で撮った写真を収集し、写真集として出版することを考えた。
カメラではなくケータイが捕らえた、イラクの真実。
デジタル画像はヨルダンに逃れて来たイラク難民のケータイに届き、ケステレンのもとに集められた。
388ページの写真集に収められたケータイ・スナップは、イラク人の(外部世界に)知られざる日常の一瞬をとらえ、見るものの心を打つ(その一部、7枚の写真による「アルバム」が、同紙電子版の記事に付いている)。
車の屋根に乗った少年のうれしそうな顔。ボウリング場の青年。トルコからの「帰国バス」の車内。クリスマスの祝うイスラム教徒のイラク人一家……「アルバム」に掲載されたケータイ・スナップは、イラクの悲惨と絶望の中でもまだ失われずにいる「希望」を伝えるものだ。
その一方で、写真集には、バグダッドの死体置き場を車で通りかかりざま撮ったと見られる、惨殺体の写真など、占領・内戦下のイラクの地獄を伝えるものが多い。
フィスク氏はだから、この写真集は「われわれ(占領軍)に対する告発だ」と指摘する。
フィスク氏の記事の末尾に、ケステルン氏あてにイラクから届いた「ブラック・ユーモア」メールが紹介されていた。
バクダッドの路上で、こんな口論が交わされたそうだ。
のどの乾きを抑えようと、労働者が紅茶を氷で割って飲んでいた。それを見た通りかかりの男が、車から降りて労働者に近づき、「この不信心者めが、何やってるか、わかってんのか? マモメットだって水に氷を入れて飲んでいないぞ」とわめきながら、労働者に殴りかかった。
労働者は怒って言い返した。「だったら聞くがな、マホメットは、お前さんのように車、運転してたのか?」と。
その口論の様子がケータイで撮られ、写真集に収められたのかどうか不明だが、撮影者が特定されることを恐れたか、他の何かの理由で、ケステレン氏が「ボツ(没)」にした写真の中に、こんな一枚がある、とフィスク氏は書いている。
それは、ロバにまたがり銃を構える米兵の写真。
画像処理の演出写真かも知れない、それで「ボツ」にされたかも……とはフィスク氏の推測。
この写真がホンモノなら、まさに世紀の「スクープ写真」、ピュリツアー賞は確実だ????
米軍がイラクから撤退し、報復の恐れがなくなったら、きっと「公表」されるはず。
その日が一日も早く来ることを、イラクの人びとと一緒に、われわれも祈ることにしよう。
http://www.independent.co.uk/news/fisk/robert-fisk-snapshots-of-life-in-baghdad-849226.html
Posted by 大沼安史 at 03:35 午後 | Permalink