〔いんさいど世界〕 「オバマ」を育てた「黒毛のアン」
写真を見たら、髪の毛が黒かった。黒褐色かも知れないと思っていたら、「raven-haired(黒髪)」と出ていた。「赤毛のアン」ならぬ「黒毛のアン」……アメリカの次期大統領(候補)、バラク・オバマのお母さんは、われわれ日本人と同じ、みどりの黒髪の持ち主だった。
アン・ダンハムさん。
1942年の生まれ。1995年、52歳で亡くなった。生きていれば今、65歳。
自分より5つ年下のヒラリーを破り、民主党の大統領候補になったわが子の姿を、天国からどんな思いで見守っていることだろう。
まさに、「この母にしてこの子あり」……。白人の母親の勇気は、自らを「黒人」という長男の挑戦心となって受け継がれている。
アンお母さんは、カンサスからハワイへ移住した白人家具セールスマンの家に生まれた。
ハワイ大学でケニア人留学生と出会い、18歳で結婚。その年、オバマをもうけたあと、こんどはインドネシアからの留学生と再婚。ジャカルタに渡り、一子をもうけ、ハワイに帰郷、ハワイ大学に入り直し、文化人類学のフィールドワークで、再びインドネシアへ。「村の鍛冶屋」という800頁もの大論文を書き上げて博士号を取得、ジャカルタで貧しい人びとのための「マイクロ・クジレット」事業に取り組む……
彼女がケニア人留学生と結婚したのは、1961年のこと。当時、白人女性が黒人男性と結婚することは、(ニューヨークタイムズは「稀」なこと、と書いているが)実際はタブーに近いことだったろう。
そんな母親を、オバマは「リベラルな1960年代の申し子」と書いている。
再婚した母に連れられてオバマは幼少の頃の5年間をインドネシアで過ごした。現地の学校に通うオバマを、母親は毎朝4時にたたき起こし、通信教育の教材で一緒に英語を勉強したという。
そのころ、母親は共働きで、ジャカルタのアメリカ大使館に勤務していた。「働きながら教える」教育ママ。
そんな早朝レッスンをサボったオバマを、母親はこう言って叱りつけたそうだ。「ピクニック、やってるんじゃないんだ。このバカたれが」と。
教育ママのお母さんは「働きながら学ぶ」人でもあった。再婚した夫との間に生まれた娘とオバマを連れてハワイに帰郷、ハワイ大学に入り直して、働きながら、子育てしながら、勉強を始めた。
フィールドワークの場をインドネシアに定め、農村をオートバイの荷台に乗って駆け巡った。「農民の鍛冶屋」がテーマだった。
彼女の最後の活躍の場は、ジャカルタを拠点とした、マイクロ・クレジット事業。貧しい人びとを対象にした民衆金融の普及に取り組んだ。
ジャカルタの彼女の家は、人権活動家やコミュニティー活動家のたまり場だったという。
コロンビア大学を出て、シカゴのスラム(サウスサイド)に入り、コミュニティー活動を始めたオバマのカラダには、そんな母親の血が流れているのだ。
これはオバマの回想でもあり、異父妹のヌグ(9歳年下)の証言でもあるが、母親は、「正直、率直な物言い、自立した判断」を尊ぶ人だった。偉ぶった人間も大嫌い。動物が不当な扱いを見ただけで涙を流す、同情心にあふれた女性だった。
ニューヨークタイムズは彼女のことを「オバマの道筋をつけた、自由な心の放浪者」と呼んだが、まさにその通り。異国の草の根に飛び込んでゆく彼女の自由闊達な行動力と、「Yes,We Can!」と叫んでホワイトハウスを目指すオバマのチャレンジ精神は、同じDNAに刻み込まれたものだろう。
そんなアンお母さんがハワイの病院で亡くなったとき、オバマはイリノイ州の上院議員選挙戦で、彼女のそばにいることができなかった。そのことがオバマの人生最大の悔いだという。
オバマにとって「一番大事な品」は、オアフのサウスビーチの崖で撮った写真だ。その崖の上から、インドネシアの方角目指し、太平洋に母親の遺灰を散らしたのだ。
『Audacity of Hope』という本の中でオバマは、少年の頃の母親との思い出をいくつか綴っている。
夕暮れ時、散歩の途中、母親に「目をつぶって」と言われて聞いた、葉ずれの音のことを。
真夜中、母親に起こされ、並んで一緒に見上げた、素晴らしい月のことを。
オバマは「命短し、だからこそ生きるのだ」と、どこかに書いていた。
それは正しく「母の教え」であり、たぶん、アメリカ大統領への道をひたすら歩む、一個の異色の政治家、オバマを導くものである。
⇒ http://www.nytimes.com/2008/03/14/us/politics/14obama.html?_r=2&oref=slogin&oref=slogin
http://www.time.com/time/nation/article/0,8599,1729524,00.html
Posted by 大沼安史 at 02:35 午後 1.いんさいど世界 | Permalink
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