〔いんさいど世界〕 「スーパーバブルが弾けている!」 ジョージ・ソロス氏 「狼少年、3度目の正直」
世界的な投資家、ジョージ・ソロス氏が、「スーパーバブルが崩壊している」と、警報を発している。過去25年間に膨らんだ、空前の「バブル」がいま、弾け出したというのだ。
ソロス氏は過去2度にわたり、世界経済の崩壊を予言、2回とも外したが、3度目の今回は確信を持って「叫ぶこと」が出来るそうだ。
今度こそ、「スーパーバブル崩壊」という「ホンモノの狼」が来た、と。
ソロス氏は、ハンガリー生まれのユダヤ人投資家。今はアメリカに住んでいる。
子どもの頃、「ナチス・ドイツ」「ソ連」とふたつの「全体主義」を経験、英国に出て苦学したあと、投資家としてのし上がった。
1992年には英政府を相手どって戦いを挑み、遂には英ポンドを切り下げに追い込むなど、華々しい実績を残して来た。
ソロス氏が運営するヘッジ・ファンドの、1969年から2000年までの平均収益(リターン)は、実に30.5%。
そんな投資家として名を成す一方でソロス氏は、「全体主義」に反対する慈善活動を続け、旧東欧に大学を開設するなど、リベラルな「開かれた社会」づくりに富を還元している。
氏の「開かれた社会」財団の寄付金は総額50億ドルに達するという。
投資家としてのソロス氏は昨年(2007年)になって一線を引退するが、すぐさまその年夏、現役へ一時復帰する。
世界経済の雲行きが怪しくなったことを察知し、自ら対策に乗り出したのだ。
「ソロス・ファンド・マネジメント」が運営するヘッジファンドのポジションを変更、サブプライム・ローン問題が顕在化する直前、逃げ切りに成功した。おかげでソロス氏のファンドの昨年の利益は40億ドルに達し、利益率としては32%という高水準の維持に成功したという。
新たな「ソロス伝説」が生まれたわけだ。
そんなソロス氏が、いま世界で「スーパーバブルが崩壊し始めている」と、警告を発したのは、ことし5月のこと。
当時は、経営破綻したウォールストリートの大手証券会社、ベア・スターンズが、巨大投資銀行、JPモルガン・チェースに「吸収」されることが決まり、サブプライム・ローン問題に端を発した「金融危機の」前途に、ようやく光明が見えて来た(と言われていた)矢先。
そんな最中の、ソロス氏の警告(ソロス氏は同月発売の新著、『金融市場の新しい枠組み』の中で、「スーパーバブル崩壊」を指摘し、その後、欧米マスコミとのインタビューで自説を繰り返している)だけに、発言は衝撃波となって広がったが、世界経済の安泰ぶりを強調する「金融エスタブリッシュメント」からの反発もまた激しく、いまなお揺れ続けているのが現状だ。
ソロス氏に反旗を翻してる筆頭は、ウォールストリートの「機関紙」、「ウォールストリート・ジャーナル」紙。
6月21日の紙面で、ソロス氏とのインタビューを掲載、同氏が1987年と1998年の2回、世界経済の崩壊を予言して、いずれも外している事実を指摘、まるで今度も「外れ予言」だと言わんばかりの聞き方をしている。
そんなインタビューアーの突っ込みを軽くいなしてソロス氏はこう語っている。
「狼は、少年が3度、叫んだあとに来る」と。
つまり、3度目の今回は、ホンモノの狼、ホンモノのバブル、ホンモノの世界経済の危機だと言っているのである。
そのバブル(崩壊)の規模、危機の規模についてソロス氏は、ニューヨーク・タイムズ紙とのインタビュー(新著発売前のプロモーション会見)で、77歳になる彼の人生の中で最大のものだと言っている。ソロス氏は、あの大恐慌の翌年、1930年生まれだから、大恐慌以来、最大の経済危機がいま、世界に襲いかかっている、というわけだ。
それでは、ソロス氏がいう「スーパーバブル」とは一体何ものなのか?
その膨れ上がった「泡」の具体的な中身は何なのか?
この点に関し、ニューヨーク・タイムズ紙に書かれているのは2つ。
ひとつは「住宅・住宅ローン」バブル、もうひとつは「石油バブル」。同紙によれば、ソロス氏はこの2つのバブルに言及、それが過去25年間に膨れ上がったものだと語っている。
そう、たったそれだけ……。ソロス氏は、それしか語っていないのである。
なぜ、たった、それだけなのか?……
もちろん、それしか話せないだけのこと。それ以上、話せば、「崩壊」の速度を加速しかねないと心得ているからだ。
しかし、「たったそれだけ」でも、およそのことは想像がつく。
いま、崩壊し始めた「スーパーバブル」とは、1980年代半ば以降のマネーの奔流が四半世紀後に生み出した「債権証券化バブル」と、そのバブルから逃避したマネーが生み出した「石油バブル」の双子のバブルのことである。
中でも親バブルの「CDO債権証券化バブル」は、62兆ドルもの「CDSデリバティブ保険」という「金融核兵器」を抱え込んでおり、破綻の連鎖反応が始まれば一気に核爆発を起こしかねない、とんでもない代物である。
ソロス氏はそのことを臭いほど知っているから、言わずにはおれないから、投資家人生の終幕の今、オブラートに包んだ形で、敢えて発言したのだろう。
ソロス氏はブッシュ政権の「CDO・CDS」野放し政策を批判し、オバマ氏支持を早くから明言していた人物だ。
ことし1月、G8の中央銀行が「CDO・CDS対策秘密会」を開いたといわれる、スイス・ダボスでの「世界経済フォーラム」にも居合わせて、慌てふためく「金融エスタブリッシュメント」エリートどもの姿を冷ややかな目で眺めていたはずだ。
こうしてみると、このダボス会議で、アメリカの記者団にソロス氏が語った「日本の非ナチ化しなければならない」との発言(本ブログ既報)は、ますます重大な意味を帯びて来る。
「日本銀行」を、ヒトラーの「ライヒス・バンク」のように「打ち出の小槌」化し、円キャリ=ドル・ツナミを送り続けたブッシュ政権のポチどもの無節操・無責任ぶりに、たぶんソロス氏は怒って発言したのだ。
「スーパーバブル」を極大化した責任のかなりの部分は、ブッシュ政権の言いなりになり、「格安マネー」の怒涛の出荷を続けた、日本の金融権力者にもあるだろう。
「スーパーバブル」の崩壊がいよいよ本格化した来たら、おそらくソロス氏はもっと具体的な形で、「犯人」の名指しを始めるはず。
ソロス氏が「3度目の正直」で呼んだ「狼」は、日本の当局者の喉笛にも食らいつこうとしている。
⇒ http://www.nytimes.com/2008/04/11/business/11soros.html?scp=18&sq=Soros&st=nyt#
http://www.nytimes.com/2008/06/07/business/07oil.html?scp=8&sq=Soros&st=nyt
http://online.wsj.com/article/SB121400427331093457.html?mod=home_we_banner_left