何を隠そう、僕は(ONUMA)は、「オバマ(OBAMA)」のファンである。いわゆる「オバマ・マニア」の一人。名前のローマ字を2文字、入れ替えれば、すぐ「オバマ」になれる(?)ほど、根っからの支持者である。
そう、「NU]と「BA]は、交換可能(?)な運命の星の下に、生まれて来た!?……
「BA」氏が「次のアメリカ大統領」へ向け、王手をかけた。そこで、「NU」としては、59歳、チョー晩生な「ミーハー」ぶりを発揮、なぜ「BA」を「NU」が支持するか、ここでその理由を明らかにしたい。
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まず、オバマ氏の「言葉力」である。「言葉力」……変な言葉(「KY」よりはまとも)だが、話す力、書く力を指す。この言葉力が彼にはある。それもハンパじゃないレベルの言葉力が……。
「文藝春秋」6月号の「座談会」で、作家の井上ひさしさんが、オバマ氏の「言葉力」について、こんな発言をしていた。
「この記事を読んで、オバマさんの演説はとても演劇的、物語的だと感心しました」
「簡単な言葉を使っているといっても、小泉純一郎さんの『ワンフレーズ・ポリティックス』とは違います。小泉さんの言葉は暴力的でうしろ向きすぎます。小泉さんの『ぶっ壊す』は、今わたしたちの歩いている道を『ぶっ壊す』という感じですが、オバマさんの『チェンジ』は、歩いている道の少し先に明かりを灯して、そこまで行きたいを思わせます……」
井上ひさしさんの指摘の通りだ。
たとえば、オバマ氏が3月18日、「独立宣言」の地、フィラデルフィアで行った、あの名演説、「よりパーフェクトな団結を目指して(A More Perfct Union)」。
演説は、「かの独立宣言が行われたホールは、いまわれわれがいるこの場所のすぐそば、通りの向うに立っている」と切り出し、聴衆を一気に「アメリカ史」の「物語」の中の「舞台」に引き入れて、自分たち一人ひとりが、「物語」の当事者であることに気付かせることから始まる。
「わたしたちの前に立ちはだかる挑戦を、わたしたちは解決できないだろう……もし、わたしたちが力を合わせ、一緒に問題解決に取り組まなければ……」
「わたしが歴史の中のこの瞬間、大統領選挙に出ようと決めたのは、そのためである……」
演説のビデオを見て確認したが、オバマ氏は原稿を「見ないで」語り切った。原稿の文章が目の前に浮き出る装置に頼らず、最後まで言い切った。事前の発表された演説テキストとの「違い」(といっても微細なものだが)は2ヵ所だけ、1回、言い淀んだだけだった。
演説テキストはたぶん、オバマ陣営のスピーチライターによるものだろうが(オバマ氏が自分で書いたものでないかもしれない……わたし(大沼)は、オバマ氏自身が書いた可能性が高いを見ている)、中身はオバマ氏自身が「すでに書いた」ものの集成である。
オバマ氏は「自伝」を含め、本を2冊、それもかなりの分量のものを、政治家には珍しく、ゴーストライターなしに書き上げ、出版しているが、そこに書かれた言い回しが演説の随所に見られるのだ。
オバマ氏の演説の力(語りかける力)は、その「書く力」によって裏打ちされている。その演説が人の心を動かすのは、その「言葉力」にある。
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僕の「オバマ・ミーハー」の第2の理由は、「あれか、これか」の「2項対立」を超える柔軟な発想力である。対立しているだけでは、何の解決も生まれないし、結果として「勝者がすべてを分捕る」だけである。
そんな「2項対立」の間に道を通していく。これはすでに紹介したことだが、オバマ氏はイリノイ州の上院議員時代、死刑制度賛成・反対派、双方から批判を浴びながら、死刑になりうる犯罪容疑者の取り調べについて、「自白」場面だけでなく、取り調べの全過程のビデオ撮影を捜査当局に義務付ける法案(捜査当局は、これに抵抗したという。日本ではこの抵抗に屈し、「自白」場面のみのビデオ撮影になった)を上程、結果的に死刑賛成・反対の両派から支持を取り付け、成立させてしまった。
無実の人を処刑する、取り返しのつかないことだけは、とにかく避けようという現実的な知恵。
オバマ氏は、「自白」の信憑性を裏付けるためには、取り調べの全過程に「強制」や「誘導」がなかったことを証明しなければならない、そのためには全過程をビデオに記録する必要がある、と訴え、州議会の全会一致の賛成を取り付けたのだ。
イリノイ州では当時、地元・ノースウェスタン大学ジャーナリズム大学院のプロテス教授のチームが、「無実プロジェクト」という、冤罪の死刑囚を救出する再捜査プロジェクトに取り組み、ある年老いた黒人死刑囚のケースでは、なんと執行48時間前に救い出される、といった劇的な事態が続いていた。(この点については、宣伝めくが、拙著、『緑の日の丸』(仙台「本の森」刊、109頁以下、参照)
このオバマ氏の「2項対立」を超えてゆくスタンスは、その先の「大所高所」からものを見、政策を構想する力(アドバテージ)を、この人に与えているようだ。
たとえば、オバマ氏は連邦議会の上院議員として、「ハイブリッドでヘルスケアを」という法案を提出したことがある。
この法案は、ガソリンと電気で動く「ハイブリッド車」の開発に取り組む米国の自動車メーカー(ビッグ3)に対し、連邦政府がそれを立て替える形で補助金を投入、その代わりメーカー側に退職社員への健保の維持を義務付ける法案だ。
自動車産業の育成、環境対策、エネルギー対策に医療保障を加味する「合わせ技」。
黒人(ケニア人=ルオ族)を父に、白人(カンサス出身)を母に持つ、いかにもオバマ氏らしい、「ハイブリッド」な発想ではある。オバマ氏はハワイの生まれだが、カリブ海の「クレオール」的な資質の持ち主らしい。
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オバマ氏に対する僕の「ミーハー」支持の第3の理由は、その草の根でのコミュニティー活動の実践歴である。
オバマ氏はコロンビア大学を卒業後、ニューヨークで、短い「エリート・サラリーマン」生活を過ごしたあと、あっさり「キャリア」を投げ捨て、シカゴのスラム、サウス・サイドに入り、下水終末処理場のあるアルトガード(ドイツ語で「古い金」)という地区を中心に、「貧困・地域崩壊」と闘うコミュニティー運動に邁進した人である。
シカゴのスラムでオバマ氏は、さまざまな人と会話し、さまざまことを学ぶ。そして、こんな確信を深める。
人にはそれぞれ「物語(ストーリー)」があり、それぞれの思いがある。そうした「物語」の「ユーモア」と「悲嘆」と「希望」をベースに、「われわれの家庭は、われわれのコミュニティーは、われわれの経済は」再建されなければならない、と。
オバマ氏は、アメリカの貧困、底辺の中から生まれて来た「大統領候補」なのだ。
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僕がオバマ氏を支持する第4の理由は、その「視界」の「広さ」と「高さ」である。
子どもの頃、オバマ氏はインドネシア人と再婚した母に連れられ、一時、ジャカルタで生活したこともあるが、そうした異文化体験(後年、父親の出身地、ケニアも訪ね、親族と交流してもいる)を経ているせいか、テリトリーを自由に超えてゆく、身軽な自由さがある。
たぶん、彼はいい意味で、恐れを知らぬ「風来坊」なのだ。あるいは、自分の中にだけ「定住」する「ノマド(遊牧の民)」。
シカゴのスラムに「ストレンジャー(異人)」として入ったオバマ氏は、その根を下ろしつつ、東海岸、ボストンに近いハーバード大学のロースクールへ、またも「異人」として入り、法律を学ぶ。 その「最高学府」ハーバードで、有色人種初の「ジャーナル」編集長になり、アメリカのエリート層と対等の付き合いをしてゆく。
そして、シカゴに戻って政治家となり、その傍ら、シカゴ大学ロースクールで憲法を講じる。
越境者=オバマ氏は「分裂国家・アメリカ」の、「上」から「下」までのすべてを、知っているのである。
この鳥瞰するような視野の広さ・高さは凄い。しかも、それが、単に「見下ろす」ものではなく、草の根の中の視点でもって、担保されている点は重要なことである。
オバマ氏はその著書の中で、自家用ジェット機の客となって、カリフォルニアの「グーグル」本社を訪ねたときの経験を書いているが、そのあと、すぐ続けて、イリノイ西部へドライブし、閉鎖される工場の人びととの対話集会に臨んだ時の思い出を書いている。
オバマ氏は、地上の現実(錆びた地帯)に、その上空を飛翔する、もう一つのアメリカの現実(シリコンバレー)を架橋しようとしているのだ。
そこから彼の、「シヴィル・リバタリアン」(ニューヨーク・タイムズ)としての立場が、上記のさまざま要素と綯い交ぜになって生まれて来る。
官僚制に頼り切る「保守的なリベラル」ではなく、あくまで「リベラル」な立場を貫きながら、制度的な改革に取り組む「革新的なリベラル」……
「ネオ・リベ」を装った「ネオ・コン」(市場原理主義で統治の土台まで「ぶっ壊す」、右翼リバタリアン)とは違った次元で、社会経済のイノベーション(革新)に挑戦し、アメリカに新たなシヴィル・ソサエティー(市民社会)を創ってゆく「革新的なリベラル」……
それが、たぶん、ニューヨーク。タイムズの言う「シヴィル・リバタリアン」の意味の内実であろう。
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ぼくの「ミーハー」的支持理由の5番目、リストの最後に来るのが、オバマ氏と日本との縁である。
ハワイでの少年時代、近くの日系人から「SASHIMI」のいいところを分けてもらった思い出。
ケニア人の父親のアメリカの大学生時代のことを、電話で教えてくれた同窓の日系人の思い出。
母親に連れられ、インドネシアに向かう途中、日本の鎌倉で「大仏」を訪ね、箱根の湖で「緑茶アイス」を食べた思い出……。
オバマ氏には、日本、日本人に関する「いい思い出」が、けっこうあるのだ。
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ぼくはオバマ氏がきっと、次の「大統領」になると確信している。
アメリカにようやく、改革者が現れた!
O・B・A・M・Aの5文字はぼくにとって、ミーハー的に並べ立てた、5つの「支持理由」の頭文字である。
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