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2008-04-29

〔教育コラム 夢の一枝〕 「わたげ」10年の歩み

 北海道の最東端は、根室の納沙布(ノサップ)岬だ。日本の最東端ではないが(銚子の犬吠崎が最東端に位置する)、日本の「最果て」の、少なくとも一つであることは確かである。

 最果て、納沙布の岬……そこが地の果てであることは、地理的であるよりも感覚的である。突堤のように突き出た半島が突然、そこで終わり、濃霧の海が断念を迫るように視界を閉ざす。

 1971年、新聞記者になり立てのわたしは、その根室で取材活動を始めた。
 その頃のことで今も忘れられないことがある。納沙布に続く一本道の沿道を、タンポポの黄色い前線が毎年、着実に、最果てを目指し、進んでいたことだ。

 タンポポ(西洋タンポポ)の綿毛が、車輪の巻き上げる風に乗って、一路、岬を目指していた。

                 ◇

 そんな納沙布のタンポポを思い出したのはほかでもない。仙台の「NPO法人わたげの会」が、10周年を迎え、会の理事長の秋田敦子さんが、小さな本を記念出版したからだ。
 秋田さんがこの10年の続けて来た、ふんわり、やわらかで、無理なく、しかも決然とした歩みに思いを馳せているうち、あの根室の道路沿いのタンポポの花が目に浮かんだからだ。

 本のタイトルは『わたげ・希望の種』、版元は、わたしたち(故・小池平和氏ら有志)が1997年2月に仙台に創設した出版社、「本の森」である。

                 ◇

 わたしが秋田敦子さんと初めてお会いしたのは、「本の森」を立ち上げた、その年の夏のことだ。

 秋田さんは当時、お寺の部屋を借り、お年寄りや障がい(秋田さんは、「障害」ではなく「障がい」と書く)を持った人たちの居場所を開いていて、わたしは一方通行の通りに面したその居場所を、車で訪ねたのだ。
 なかなか探し当てられないわたしのために、秋田さんは通りに出て来て、手を振ってくれた。白いブラウスが、昔の女学校の女学生のようで眩しかった。

                 ◇

 そんな秋田さんの居場所、「わたげ」に、「肩幅の広い、がっちりとした、体格の良い青年が、小柄な母親とともに」訪ねて来たのは、翌98年6月のことだ。

 「その外見とは裏腹に……表情が不安げだったことが今でも印象深い、その青年の出会いが、それから十年の私の人生を動かしていくとは、その時には想像もできなかった」と、秋田さんは書いている。

 お年寄りや障がいを持った人たちが、ふらっと遊びにゆける「わたげ」に、ひきこもりの若者や子どもたちも来るようになった。

                 ◇

 その2ヵ月後の同年8月、「わたげ」は広瀬川沿いの古い家を借りて、「フリースペースわたげ」として再出発する。その後、組織をNPO法人化して態勢を整え、これとは別に社会福祉法人「わたげ福祉会」をも発足させて、今では自前の施設を中心に、10歳から39歳まで200人が生活しながら進学や自立を目指す場となっている。

 就労訓練で蕎麦屋も直営している。「わたげ茶屋」……夜は居酒屋になる。全国から見学に来る人たちのための、宿泊施設もある。

 「わたげ」はいつの間にか、そこまで育っていた。

                 ◇

 「わたしたちの活動にはマニュアルも期限もありません」と、秋田さんは本の最初のところに書いている。

 時間の管理も、マニュアルによる管理も、「わたげ」にはないのである。

 じっくり時間をかけ、他者への信頼と、自分に対する自信が根付くのを、ふんわり、やわらかく、無理せずに自然体で待つ。

 そうして今年は3人が……登校拒否で勉強に背を向けていた3人の若者が、自分の意志で大学に進学したそうだ。

                 ◇

 秋田さんの本の巻頭に、あの有名な、エリュアールの詩、「自由」の一節が掲げられている。

 
             …………………………

            ひとつの言葉の力によって
             僕の人生は再び始まる
          僕は生まれたのは 君と知り合うため
             君を名ざすためだった

                自由、と

        (安藤元男訳、岩波文庫『フランス名詩選』より)

                 ◇

 大学を出て、新聞記者になったばかりのわたしは、根室という見知らぬ土地で、不安な社会人生活を始めていた。
 仙台に生まれ、仙台に育ったわたしは、根室にもタンポポが咲き、それが納沙布目指して歩みを止めないでいることに慰められ、勇気付けられたものだ。

 ふんわり、やわらかく、無理せず、決然と……

 わたしもまた、いま人生の岬へ向かう最後の旅の途上に立ち、「わたげ」で暮らす子どもたちや秋田敦子さんに見習って、自然体の、自由な「わたげ」として生きたいと切に思うものである。     

 ☆ 秋田敦子さんの本は、間もなく書店の店頭に並びます。本体1200円。四六版129頁。

   問い合わせは ⇒ 「本の森」 電話 022(712)4888
                  http://homepage2.nifty.com/forest-g/ 

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Posted by 大沼安史 at 12:16 午前 2.教育改革情報 |

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