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2008-03-11

〔教育コラム 夢の一枝〕 子どもたちの「不幸」「不安」に向き合うこと

  南ア出身のアメリカの教育学者、バレリー・ポラコウさんに、「子ども期の崩壊」(The Erosion of Childhood)という本(邦訳名、「失われ行く子供期」(家政教育社、同書の後半部分は拙訳)がある。子どもの人間的な成長にとって(あるいは社会の未来にとって)、かけがえのない「子ども期」が、いかに幼児教育の現場で侵食されているか実態を観察、考察を加えたものだ。

 ポラコウさんはブラジルの教育学者、故パウロ・フレイレが「学問上の娘」と呼んだ人だ。わたしはその彼女について学んだから、フレイレの「孫」になる。もちろん、「不肖の孫」であることは百も承知のことではあるが……。

 「学校教育」による「子ども期」の崩壊現象は、とくに1970年代になってから、子ども総体に及ぶ社会的な危機として、さまざま論者が指摘し、警鐘を鳴らして来た(ジョン・ホルト、ニイル・ポストマン等)。「好奇心」の破壊、教授法における「恐怖・威嚇」の動員……などが、その内実である。

 アメリカにおける、いわゆる「脱学校」の運動、学校のラジカルな改革の動きは、こうした危機感を背景に湧き上がった。

 もちろん「学校」はおしなべて、自分たちは「教育者」であるとの「認識」「存在理由」に立ち、こうした批判に耳を傾けて来なかった。「子ども期の崩壊」を叫ぶ者に対しては、異端者として声高に非難して来たのである。

 つまり、60年代、70年代においてフリースクール運動が高揚したアメリカにおいてさえも、そうした批判意識の持ち主は極少数にとどまっていた。「子ども期の崩壊」などという問題意識は、学校関係者の間で、皆無に等しかったわけだ。

                       ◇

 その風向きが変わって来たようである。

 英紙インディペンデント(電子版)を見ていたら、3月11日付の紙面に、英国の教員組合(ATL)が政府に対し、「なぜイギリスの子どもたちは不幸せななのか、をさぐる」独立調査委員会の設置を求める決議を挙げる――との記事が、フロントのトップ記事として載っていたのだ。

 英国の小中学生は700万人。この子たちがこの国の未来を構成することになるわけだが、その中の「多くの子どもたちが不幸せで不安を抱えているように見える」、その原因は一体、どこになるか、独立委員会を設け、客観的な視点から究明しようと、脱学校の運動家・思想家ではなく、教員組合が言い出したのである。

 本ブログで既報の通り、英国では「ケンブリッジ・プレイマリー・レビュー」調査によって、テスト漬けの英国初等教育の問題点が明らかになったばかり。
 この点から見ても、子どもたちの「不幸」「不安」の少なくとも一因は、「学校教育」にあるはずである。
 AFTが採択する予定の決議文に、「子どもたちは圧力を感じることなしに、自分自身の学びを探求し探索し、楽しまねばならない」とあるのは、その裏返しの教育環境に子どもたちが追い込まれている、との反省があるからだ。

 「社会が悪い」「親が悪い」と逃げずに、自分たちの教える現場の問題点を追究しようとするAFTの姿勢は、評価に値しよう。

 だが、もちろん「学校教育」だけはない。
 英国では、サウス・ウェールズの田舎町で10代の子どもたちが相次いで自殺を遂げるなど、「子どもたちの心が壊れやすい状態にある」。これは、「学校」を取り囲む(「学校」に浸透する)、家庭・社会環境とも関係することだろう。

 が、だからといって「責任配分ゲーム」にうつつを抜かすことは許されない。
 問題は「学校」として(「学校」を運営する政府として、「学校」で教える教師として)、責任をどう引き受け、問題をどう乗り越えていくか、ということである。

                      ◇

 子どもたちの「不幸」「不安」に対し、正面から向き合い始めた英国の教師たち。

 われわれ日本人もまた、彼・女らの姿勢、問題の設定の仕方、解決への意欲に学ぶべきである。

 「教育問題」を「学力」や「授業時間数」の問題に矮小化してはいけない。
 子どもたちの苦しみを受け止め、そこからともに歩み出すのが教師の務めであり、政府(教委、文科省)の責任ではないか。

 日本の教育改革も、たぶんそこから出発しないと意味はない。 

⇒ http://www.independent.co.uk/news/education/education-news/why-are-children-so-unhappy-794033.html

Posted by 大沼安史 at 01:24 午後 2.教育改革情報 |

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