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2008-03-01

〔コラム 机の上の空〕 オバマ頌 

 1968年の春、マーチン・ルサー・キング牧師とロバート・ケネディー上院議員が相次いで暗殺されたとき、バラク・オバマは6歳だった。

 「アメリカの権力」に潜む、凶暴なものの存在を、幼いオバマは何年か後、何かを読んで知る。

 ロバートの兄、ジョン・F・大統領の悲劇に続く2人の暗殺はすでに、アメリカの「国民的なトラウマ」となっていた。

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 その「トラウマ」の傷口が、今回の大統領選でまた開いた。人びとの心に、当時の「恐怖」が、甦っている。オバマもまた暗殺されるのではないか、という恐怖である。

 ニューヨーク・タイムズが、そう書いていた(2月25日付)。

 「思わず口をつぐんでしまう不安」……オバマが勝ったら(勝ちそうになったら)殺られるのじゃないかという不安と恐怖が広がっているのだ。

 コロラドの姉妹は、オバマの身の安全を願って、毎日、祈りをささげているという。ある集会では、ひとりの女性が、オバマが「希望と変化」を語るそれ自体が、危険なことだと言ったそうだ。

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 こんなことがあった。キング牧師がホワイトハウスにケネディー大統領を訪ねたときのことだ。ケネディーは、外に出て話そうとキング師を誘った。

 「ローズガーデン」へ出て、ケネディーはキング師に何を話したか?

 大統領はキング師に「あなたは、FBIに盗聴されている。気をつけなさい」と警告したというのだ。
 ホワイトハウスの内部は盗聴されている。話は筒抜けだ。だから、外に連れ出して警告したのだ。

 アメリカには大統領さえも監視する「権力」がある。

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 ケネディー大統領の弟のロバートには、こんな話がある。

 司法長官だったころ、若いインターンに対し、こう訓示したという。

 「わたしの基本的な信念は、すべての人はひとしく創られている、ということだ。ここから当然、次のことが導き出される。人種統合は(司法省を含む)あらゆる場所で実現しなければならない」と。

 こういうロバート・ケネディーだったからこそ――新しい大統領に選ばれることが確実だったからこそ、彼はロサンゼルスのホテルで暗殺されねばならなかったのだ。

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 今回の民主党の予備選で、2人の犠牲者を出したケネディー家は、「オバマ支持」を表明した。

 「オバマ暗殺」の恐怖は、そこに端を発する。

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 それにしてもオバマはなぜもこう、アメリカ国民の熱狂的な支持を得ているのか?

 それは彼が「現代のケネディー(兄弟)」であり、「新時代のキング師」であるからだ。

 白人と有色人種の双方に強固な支持基盤を広げているのは、そのせいである。

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 キング師については言うまでもなかろ。暗殺される5年前、1968年の夏、ワシントンの大集会で、あの有名な「わたしには夢がある」演説を行った、公民権運動の指導者だ。

 オバマもまた雄弁な政治家だから、その心を揺さぶるスピーチに、キング師の記憶を重ねる人も多い。

 「安っぽい言葉だ」「言葉では食卓に食べものを乗せられない」――ヒラリー陣営がオバマを「口舌の徒」と批判するのは、彼の演説の迫力・説得力の反証である。

 簡潔で力強く、たたみ込むようなリズムを持ったオバマのスピーチ……。ところどころに「聖書」のエピソードが挿入されるから、メシアのような宗教性が漂う。

 オバマは牧師ではないが、キング師の再来、後継者であるのだ。

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 このようにオバマの最大の強みは、アメリカの「国民的記憶」を背景にしていることだが、陣営に強力なサポーターがついていることも大きい。ケンディー家はもちろん、ジョージ・ソロス、ポール・ヴォルカー(カーター大統領を支援)、ロバート・デニーロ、その他大勢の有力者、セレブが支援に立ち上がっている……この点は見逃してはならないところだ。

 ブッシュ政権下、それだけ体制的な危機が深化し、「希望と変化」が絶対なければならない状況が生まれているのだ。

 言うまでもなく、地殻変動の震源は「イラク戦争」。それが「希望と変化」を国民的なコンセンサスとしているのだ。オバマが理想を語れば語るほど、支持率が上がるのは、そうした背景があるからだ。

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 オバマのサポーターのなかで注目すべきは、外交問題アドバイザーを務めるサマンサ・パワー教授である。
 37歳。ジャーナリトの出身、「人権」の問題として国際問題を考える、気鋭の女性政治学者。
 こういう新しい「頭脳」が、オバマ支援に動いている点は見逃せない。

 オバマ大統領が誕生すれば国務長官になるとも言われる彼女もまた、理想に燃えた熱弁家だ。

 彼女はたとえば、こう語る。「オバマはドライバーを代えようとしているだけじゃない。われわれが乗って走る、車も道路も代えようとしている」と。

 いま、オバマが起こそうとしているのは、単なる政権の交代ではなく、全面的な社会変革である、というのである。

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 キング師は、「わたしには夢がある」の演説を、こう締めくくった。

 「……その日、神の子どもたちは皆、白人も黒人も……手を取り合って、古いネグロの霊歌を歌うだろう。Free at last! Free at last! と」

 オバマの大統領就任演説にはきっと、キング師の「夢がある」演説が引用されるのは間違いない。

 その日が訪れ、米国が変わり、世界が変わり、日本にも変化の芽が生まれることを、わたしもまた、毎日、祈ることにしよう。   

 その日が来るまで……いやアメリカに新しい自由の時代が来るまで、オバマは決して、死んではならない。

Posted by 大沼安史 at 03:24 午後 3.コラム机の上の空 |

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