〔いんさいど世界〕 「脳内刺激」で「記憶」が甦る! アルツハイマー患者に朗報
東北大の川島教授の提唱する「脳トレ」がブームです。
「脳を鍛える」……ぼくも「ボケ」が始まって、2、3日に一度、「あれっ、何するんだっけ?」シンドロームに襲われています。そろそろ、トレーニング、開始のころでしょうか?
最近の「脳科学」の進歩には目を見張るものがあるようですが、今日の話題は「脳トレ」ならぬ「脳スティ」。「脳スティムレーション」……略して「脳スティ」(ぼくの勝手な造語で、一般に認められてものではありません)。
実は先月(1月)末、「脳スティ」をめぐる大ニュースが世界を飛び交いました(つまり、情報が世界の人びとの脳に届き、脳内で情報処理され、理解された!)。
「ディープ・ブレイン・スティミュレーション Deep-brain Stimulation 」(「脳深部刺激」とでも訳したらよいのでしょうか?? ここではとりあえず「ディープ脳スティ」と呼ぶことにしましょう)によって、「記憶」が劇的に回復することが確認されたのだそうです。
カナダの西トロント病院のアンドレス・ロザノ教授らのチームが、「神経学年報」(1月30日発行)に発表しました。それを英紙インディペンデントがトップ・ニュースで流して、世界に広がったわけです。
まず、「ディープ脳スティ」とはどんなものか説明しますと、仕掛けは簡単、心臓ペースメーカーと基本的に同じものだそうです。胸の皮膚下の電池を埋め込んでコードを首を通じて延ばし、脳内に埋め込んだ電極から電流を流す。かんたんといえばかんたんな仕掛けです。
この「脳スティ」、欧米では実は実用化されていて、パーキンソン病や鬱病の治療に利用されているのだそうです。
今回、「記憶回復」にも効くことを発見したカナダのロザノ教授は、その世界的な権威だそうで、パーキンソン患者では400例、鬱病患者では28例の術例があるそうです。
さて、ロザノ教授らの今回の「発見」は、偶然の産物でした。いわゆる「セレンディピティー」というやつですね。意図していないのに、とんでもない発見をしてしまう……これがセレンディピティーです。
ロザノ教授らによる今回の「記憶回復」は、体重190キロもあり、食欲が抑えられない患者さんの食欲抑制中枢を探すため、脳内の「視床下部」(飢餓感を感じるところだそうです)というところに「ディープ脳スティ」の電極を入れて、電流を流しながら反応を探っていた最中の置きました。
年齢50歳の患者さんが突然、30年前の記憶が突然、甦ったと言い出したのですね。
公園で友だちと一緒にいるシーンがまざまざと浮かんで来たそうです。それもセピア色ではなく、カラーで思い出した。
服の色もハッキリわかるし、かつてのガールフレンドの姿も。
ただ、みんなで何を喋っていたか、会話の中身までは思い出せなかったそうです。
ロザノ教授らはその後、実験を続け、電流を強くすると、甦る記憶もより鮮明なものになることを発見します。記憶だけでなく学習能力も向上したそうです。〔電流は患者の知覚できない微弱なもので、スパークするようなものではありません。電流をオフにすると、「記憶」も消えたそうです〕
この発見はロザノ教授らにとって驚きでした。というのも、「視床下部」という部位は、一般に「記憶」とは無関係とみられていたからです。
ただ、「(すぐ思い出せる)短期記憶」を司るといわれる「辺縁系」という部位が「視床下部」の隣にあるので、もしかしたら「視床下部」は、「忘却された記憶の蓄積所」として役割を担っているのかも知れませんね。
それはともかく、問題の大事なところはこれからです。
ロザノ教授らはこの発見を「アルツハイマー」の患者さんに応用したのです。
教授らが「ディープ脳スティ」を行ったアルツハイマーの患者さんは3人。実験はなお進行中ですが、期待が持てる(英語では「約束された」)結果が出ているそうです。
つまり、アルツハイマー患者の「治療」にも役立ちそうだ、ということです。
ボケが始まったぼく個人としても、これは嬉しい話ですね。
そこですぐ勝手な想像をしてしまうんですが、これが実用化されたら、「メモリー・リプレー」とか「メモリー・メーカー」とか言われるようになるんじゃないのでしょう。
たとえば、ぼくなんかが今から20年後に、電源のONにして、そういえば、20年前、2008年の2月7日の木曜日の朝、「ディープ脳スティ」とか何とか言って、脳科学の知識もないくせに、ラジオで偉そうに話したことがあるな……なんて思い出しているかも知れない???
すごいことになって来ましたね。
でも、心配なことがひとつ、「いい思い出」ばかり甦ってくればよいのですが、悲しいこと、思い出したくないことまで、たとえそれが(電源をOFFにして)一瞬の甦りであったとしても、鮮明に思い出すようになったら嫌ですね。
記憶のトラウマがある人ならなおさらです。
忘却とは(思い出すことではなく)忘れることなり……「君の名は」ですね――いま急に甦って来ました!!!
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