「偽」が「2007年の漢字」に選ばれた。「偽」ブランドそろい踏みによる、晴れの受賞だ。めでたくも、情けない限りのことではある。
先日、ラジオのキャスターからコメントを求められ、ぼくが選ぶなら、詐欺の「欺」ですね、と答えた。
国民を欺く「欺」、国民の虎の子、「年金」を掠め取る「欺」、「最後の一人まで」と選挙「公約」で欺いた「欺」。
「偽」より「欺」の方が、よほど悪質である。
ことしのワーストワンは「欺」ですよ、と答えたあと、「嘘」と言った方がわかりやすかったかな、と思い返した。
「3月まで……」の「嘘」、「最後の一人まで」の「嘘」、「同席しなかった」「嘘」……「嘘」「嘘」「嘘」、「欺」「欺」「欺」続きの「2007年」ではあった。
◇
地球環境保護運動の先頭に立つ、前の米国副大統領、アル・ゴア氏の「ノーベル平和賞」受賞スピーチ(テキスト)を、ノーベル財団のサイトで読んだ。
その中でゴア氏が、「漢字」2文字を紹介していた。
「危機」――。
……中国と日本で使われている漢字では、“クライシス(crisis)”は、ふたつの文字で書かれます。最初の文字の意味は「危(デインジャー)」、ふたつ目は「機(オポチュニティー)」。気候の「危機」に立ち向かい、その「危」を除去していくことでわれわれは、あまりにも長い間、無視してきた他の危機をも解決する、われわれ自身の能力を途方もなく増大させる道徳的な権威とヴィジョンを獲得する「機」を得ることになるのです……
In the Kanji characters used in both Chinese and Japanese, "crisis" is written with two symbols, the first meaning "danger," the second "opportunity." By facing and removing the danger of the climate crisis, we have the opportunity to gain the moral authority and vision to vastly increase our own capacity to solve other crises that have been too long ignored.
ゴア氏に指摘されて気がついた。「危・機」とは、「危険」と向き合い、対決し、解決して行く「機」であることに。
それはごまかすことでも、やり過ごすことでも、欺くことでも、嘘で言いくるめることでもない……。
なるほど、そうか、と思った。
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12月10日、ノルウェーのオスロで開かれた授賞式に臨んだゴア氏は、その足でインドネシアのバリ島に飛び、13日の「国連気候変動枠組条約締結国会議(COP13)」で演説した。
ブッシュ政権を痛烈に批判する演説だった。
……わたしはこれから、ある「不都合な真実」を話したい。わたしの国、米国が、このバリにおける(会議の)進捗を妨害する、主たる責任を負っていることだ……
I am going to speak an inconvenient truth. My own country, the United States, is principally responsible for obstructing progress here, in Bali.
ここで言う「不都合な真実」とは、ブッシュ政権が地球温暖化阻止の闘いの足を引っ張る元凶のひとつだ、ということである。
(ちなみに「不都合な真実」とは、ゴア氏が制作・出版したドキュメンタリー映画&本のタイトルでもある)
ゴア氏は演説の中で、「ブッシュの米政府」を、この会議の「部屋」を混乱させている「象」だと指摘さえした。
よく言った、それでよし、と思った。
◇
ゴア氏の「ノーベル平和賞」受賞講演(ノーベル・レクチャー)は、「都合のいい嘘」を暴き、「不都合な真実」に迫り、今後とも地球環境保護の闘いに断固として突き進むという「国際公約」だった。
ゴア氏は言った。われわれの目の前には「ふたつの未来」が待っている、と。
ひとつの「未来」の若者は、われわれに「どうして行動を起してくれなかったの?」と聞き、もうひとつの「未来」の若者は、「どうやって、解決不能の危機を解決する勇気を持つことができたの?」と聞く……そのどちらの「未来」を、われわれは選び取るのか、と。
ゴア氏は演説を、「この目的に向かって、わたしたちは立ち上がり、行動するだろう」という「決意表明」で締めくくったが、3日後のバリでの氏の演説は、オスロでの「公約」を、最初に実地で示すものだったと言える。
ゴア氏はノーベル平和賞受賞「公約」を、早速「COP13」の場で果たしてみせたのである。
よし、それでいい、さすがゴア氏だ、と思った。
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ゴア氏の演説を読むため、ノーベル財団のサイトを覗いたついでに、われらが(?)宰相、佐藤栄作氏の「ノーベル平和賞」受賞演説(1974年)の英文(正文)テキストにも目を通した。
驚いた。そこに、「9条」への言及があったのだ。それも、条文の引用つきで。
日本の首相、佐藤栄作氏は、そこでちゃんと「国際公約」していたのである。
「日本のような主要国は、この(9条が指し示す)態度を、将来において、保持することを決意する」と。(英文テキスト引用箇所の最終センテンス)
Fully conscious of the bitter lessons of defeat in 1945 and unswervingly determined to seek an enduring peace, our people revised the old Constitution. The new Constitution is founded on the principles of the protection of human rights on the one hand, and the renunciation of war on the other. Article 9 of the Japanese Constitution stipulates as follows:
"Aspiring sincerely to an international peace based on justice and order, the Japanese people forever renounce war as a sovereign right of the nation and the threat or the use of force as means of settling international disputes".
Such a declaration renouncing the use of force in the settlement of international disputes, incorporating the philosophy of the Kellogg-Briand pact3, has been made by peoples other than the Japanese. It is noteworthy, however, that a major power like Japan should have persevered in this direction by national consensus and be determined to retain this attitude in the future.
日本は9条を守る……佐藤栄作氏は世界に向かって、こう「約束」したのである。
首相の座を退いて2年後のこと。
よく言ってくれた、と思いたいところだが、そう素直に喜べないな、と思った。「晴れ舞台」でついた(つかざるを得なかった)「都合のいい嘘」だったかも……と思った。
◇
佐藤栄作氏は「沖縄返還密約」「核持ち込み疑惑」など、「裏」がありすぎる政治家だった。彼の「表」の部分(「非核3原則」)に欺かれ、「平和賞」を贈ったノーベル財団も素朴過ぎるが、嘘で固めた保守政権を戦後、ほとんど一貫して選出し続けて来た、わたしたち日本国民は、それに輪をかけて「素直すぎた」ということだろう。
そんな「保守本流」を受け継ぐ「偽ブランド政治家」(ことし、CIAの手先であったことが、ニューヨーク・タイムズの記者に暴露された「昭和の妖怪」の孫)らに偽られ、欺かれ、嘘をつき通され、挙句の果てに「国家・社会崩壊」の瀬戸際に追い込まれた、「2007年、日本」の年の暮れ。
ゴア氏の言うように、「危・機」とは、危険を克服するチャンス。
新年、2008年を世直し……日本直し、地球直しの「元年」とする。
それしかないのだな、と素直に思った。
⇒
〔ゴア氏、受賞スピーチ〕
http://nobelprize.org/nobel_prizes/peace/laureates/2007/gore-lecture.html
〔佐藤栄作氏 受賞スピーチ〕
http://nobelprize.org/cgi-bin/print?from=%2Fnobel_prizes%2Fpeace%2Flaureates%2F1974%2Fsato-lecture.html
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