〔イラクから〕 希望のハーモニー イラク国立交響楽団
イラク戦争の最中にあって、「イラク国立交響楽団」が演奏活動をなお、継続しているという。
ロサンゼルス・タイムズ紙(電子版、9月23日付け)のバグダッド特派員が、「イラク・フィル」の苦闘ぶりを報じているので、紹介しよう。
「イラク・フィル」が練習を続けているのは、バグダッド市内中心部にある「バレエ音楽院」のスタジオ。
そこに毎週、火曜日と土曜日に楽団員が集まり、公演(そう、その通り!、楽団は公演活動も続けている!!)のリハーサルを続けている。
音楽監督のカリム・ワスフィさんは4ヵ月、某所に身を隠したあと、ようやくリハーサルに復帰した。イスラム過激派に命を狙われているからだ。
迫害を恐れ、団員25人が国外に脱出、その穴を若者たちが埋めているという。
いま、第1オーボエ奏者を務めるのは、14歳のドゥーア・ムーサさんだ。
ドゥーアさんが奏でるオーボエは、ロサンゼルスのミュージシャン(男子高校生〔17歳〕)がモールで演奏会を開くなどして稼いだ金でプレゼントしてくれたものだ。
ピアノを弾くのは、これも音楽院学生の、スハール・スルタンさん(16歳)。イラク戦争開戦の頃、両親を亡くした。
「音楽をやっていて、わたしたちは幸運です。悲しいときも、幸せなときも、音楽を通して自分を表現できるから」と、彼女は語る。
いま、練習しているのは、1965年に当時の東ドイツの作曲家が、「イラク・フィル」のために書き上げた「わたしも守るものをなく」という作品。イラクの伝統音楽を採り入れたものだ。
その公演は2週間後(10月半ば)に予定されている。
練習の模様を、タイムズ紙の特派員(サム・エンリケス記者)は、こんな風に書いていた。
指揮者のエザートさんがタクトを挙げたとき、その瞬間、「驚くべきことが起きた」と。
「驚くべきこと」とは、「サイレンス(静けさ)」。
爆発、轟音、銃声、叫びのバグダッドでは、サイレンスは貴重なレアものであるのだ。
イラク・フィルが演奏を始めようとする、その瞬間に生まれたサイレンスとは、音楽を成立させる素地であり、それによって「交響」が初めて可能となる、静けさの舞台とでも呼べるものだろう。
サイレンス、それは交響を実現する平和。
武満徹さんが生きていてこの話を聞いたら、イラク・フィルのため、きっと作品を書くだろうな、と思った。
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http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-music23sep23,1,6473471.story
Posted by 大沼安史 at 10:05 午後 | Permalink