〔いんさいど世界〕 巴里は自転車に乗って 好調「ベリブ」 市民、ツーリストの「足」に
「ベリブ」、ベロ(自転車)とリベルテ(自由)の合成語です。訳して「自由自転車」。
この「自由自転車」が、パリ市民やツーリストの間で、いま大人気で、新しい街の風物詩になっているそうです。
パリは自転車に乗って……花の都は「ベリブ」がお似合いのよう。
「ベリブ」がパリ・デビューを果したのは、7月15日のことでした。
市内750ヵ所の専用パーキングロットに、1万600台が配置され、貸し出しが始まった。
そう、「ベリブ」はパリ市役所の交通局が始めた、公営貸し自転車。
でも、ふつうの貸し自転車と違うのは、レンタカーのように行き先で乗り捨てることができる、その名通りの「自由」さにあります。つまり、借りたところに返す必要がない。だから便利。
たしかに自転車ではありますが、特徴的です。明るいグレーの車体。自転車というより、おしゃれなバイクのようなデザイン。それでいてハンドルの前に、ちゃんとカゴがついている実用性……。
耐久性も抜群で、アンチ・パンク・タイヤを装備しているそうです。
どうしたら、これを利用できるか?
パリ市民でなくとも、外国人でも――ということは日本人観光客でも利用できます。
カードがあればいい。電話ボックスのような、銀行のキャッシュディスペンサーのようなところで手続きすれば、誰でも使えるんだそうです。
フランス語が読めなくてもOK。ちゃんと日本語を含む外国語7ヵ国語で使用法が表示されているのだそうです。
カードで前払いして予約する。そうすると、データが入力された「ベリブ・カード」がもらえます。その「ベリブ・カード」を、パーキングロットの「ベリブ」に挿入すれば、ロックが外れ、乗り回すことができる。
お値段は「1日パス」が「1ユーロ」(日本円で166円前後)で、「1週間パス」が5ユーロ(830円)、「1年間パス」だと29ユーロ(5800円)かかります。
これさえ払えば、1回につき30分以内なら、何回乗っても「無料」です(これを超えると超過料金を払わなければなりません)。
つまり、けっこう安い。
専用のパーキングロットは、300メートル間隔で設置されていますから、目的地の近くまで乗って行って、そのまま乗り捨てれきる。用件を済ませたら、また乗って、別の場所に回る。
安いし便利ですよね。
この公設貸し自転車のシステムを開発したのは、「J・C・デコー」という広告会社でした。
パリ市役所のPR掲示板、1628ヵ所の使用と引き換えに、自転車から何からすべてを用意して、市役所に「話に乗りませんか」と持ちかけたわけです。
市役所の負担はゼロ。おまけに、市内の交通渋滞の緩和も期待できる……とあって、デラノ市長も乗り気になり、一気に実現しました。
といって、パリが実験の先頭を切ったわけではありません。
実はフランス国内では、「J・C・デコー」というフランスの広告会社と、「クリア・チャンネル」というアメリカ系の広告企業が先をあらそって、地方都市を舞台に「公営貸し自転車」システムの売り込み合戦を続けて来たのです。
レンヌというフランス西部の町では、1998年から実施され、リヨンでは2005年5月からスタートしている。
まるでツール・ド・フランスのように全国で広がり、ついにパリでも始まった、というのが現実の姿です。(参考まで言うと、マルセイユではことし9月から、トゥルーズでは来年1月からスタートします)
つまりで地方で成功したのを、パリでも始めた。2匹目、3匹目のドジョウ、というわけです。
パリ市って、けっこうしたたかですね。「事故」など考えられない、ただ乗りの“安全運転”を始めたわけですから……。
で、利用状況はどうかというと、やっぱ好調です。ベリブ1台あたり、一日平均9回の利用がある。
「平均」の中には雨の日も入っているはずですから、これはもう、かなりのものですね。
まさに「乗っている」というか「乗りまくられて」いる。
ルモンドという新聞(8月11日付け)には「争いがたい大成功」と出ていました。
この「公営貸し自転車」、パリなどフランス各地でなぜ、成功したのか?
ヨーロッパでは実は1968年、オランダのアムステルダムで、同じような乗り捨て方式の「自由自転車」システムが鳴り物入りで始まり、見事に失敗したことがあります。
自転車がみんな盗まれちゃったんですね。
ところが、それから40年ほど経ったいま、フランスではうまく行っている。
その秘密は、カードを使った決済と一元的なデータ管理にあるといいます。
つまり、自分のカードで自分の身元を明かさなければならない。それに「ベリブ」はふつうの自転車とは違ったスタイルをしているので、目立ってしまい、盗めないんですね。
この「自由自転車」システム、フランス国内ばかりか、スペインのバロセロナ、セルビア、ドイツのベルリン、ノルウェーのオスロへと今後、飛び火して行く見通しだそうです。
ということは、遅かれ早かれ、日本に上陸することはまず間違いのないところで、いずれ、宮城県にもやってきそうな感じがします。
仙台市では一度、同じような実験が試みられたことがあるようですが、市役所の交通局あたりが率先して、導入に向け、検討を始めてもらいたいところですよね。
ところで、気になるのは、この「ベリブ」でパリのタクシードライバーのみなさんが悪影響を受けていないか、という点ですが、ルモンドによると、「相補的」で共存に成功しているのだそうです。
短距離はベリブ、中距離以上はタクシーという具合にすみわけができているんですね。
これからパリ観光に行かれる方は、これはもう、一見の価値ありというか、一乗の価値ありで、ぜひベリブに乗って来ていただきたいですね。「これはいい」の実感が積み上がれば、市役所や広告会社が動いて、案外早く、実現するかも知れません。
その場合の愛称として、「ジデ」なんてどうかしら?
「ジデ」……そう、「自由自転車」の略称――!!!???