英国、ケント州の田舎に、ひとりの天才が暮らしています。28歳の男性、ダニエル・タメットさん。アスペルガー症候群という「障害」、いや「個性」を持った「天才」です。
アスペルガー症候群というのは、自閉症など広汎性発達障害のひとつで、一般にはそのうち言葉の遅れの少ないもの、と定義されています。急にパニックに陥っていまう、とか、限られた関心への極度の集中とか、そんな性向を持った人たちのことです。
タメットさんは、そういうアスペルガーのひとり。この障害にありがちな天才的能力を持ったひとりです。
そのタメットさんが、自伝を書いたので、取り寄せて読み出しました。
読んで驚きました。
「アスペルガー」というものが、どういうものか、当事者として、実に冷静に描き出しているのです。
「本人」によって明らかにされた「アスペルガーの人の精神世界」……自伝、『青の日に生まれて』に書かれた中身を紹介しましょう。
タメットさんは「数」と「言語」の天才です。
まず、「数」から紹介すると、自伝に、こんなことが書いてありました。
タメットさんは「カレンダー」が大好きだそうです。カレンダー……数が1列7個ずつ配列されている。
そのカレンダーに関して、タメットさんはこんな「法則」を紹介しています。
① その月の13日目の曜日は、その月の初日の2日前の曜日に等しい(ことしの6月13日は水曜日。6月1日は金曜日だから、その2日前は水曜日になりますね)
② 1月と10月、9月と12月、2月と3月の初日の曜日は同じ(これも、たしかにそうです……。月・月・木)
数に弱いぼくなんか、これだけでも「うーん」とうなってしまいますが、こんなのほんの序の口。
タメットさんの数学の能力をたしかめた、ある大学教授によると、たとえば「37の4乗」なんて問題など、瞬間で答えてしまうのだそうです。1,874,161と。
また、「13割る97」は割り切れませんが、少数点以下100桁まで言いなさいと言われれば、たちどころに数字を並べていくのだそうです。
まるで人間コンピューター。すごいですね。
問題はタメットさんの頭のなかで、いったい何が起きているか、ですが、たとえば、53×131の掛け算を解こうとすると、頭のなかに「53」の(空間的な)「塊」と「131」の「塊」が出現して、その2つの塊が形を変えながら融合して、「6943」の塊の「かたち」になるんだそうです。
タメットさんにとって数はかたち「イメージ」として現れてくるのですね。
たとえば、「89」という数。
ぼくらはたんに「80+9」(90-1)といったふうに認識しますが、タメットさんの場合は「(白い)雪が降っているありさま」に見えるのだそう。
つまり、タメットさんの「数たち」はそれぞれ、色さえ持っている。
たとえば「1」は、眩い、明るい白として認識されるんだそうです。
「美醜」の感覚もある。
タメットさんにとって「189」は「116」より、明らかにビューテイフルなんだそうです。
タメットさんは人に会うと、その人にふさわしい数を連想するそうです。背の高い人なら9を、太ったひとなら3を。
タメットさんのもうひとつの天才領域の「言語(コトバ)」に移りますと、たとえば火曜日(Tuesday)というコトバは、暖かなな色にイメージされる。木曜日は、ぼやけた色。
彼の「自伝」の題、『青の日に生まれて(Born on a Blue Day)』も、まさにそんな感覚からつけられたタイトル。
タメットさんは、1979年1月31日の生まれですが、その日は水曜日(Wednesday)で、彼によって水曜日は「青の日」なんだそうです。
「誕生日は青、すれは数字の9や大声での言い合いの音のよう」と、タメットさんは書いています。
タメットさんは語学の天才でもあります。アイスランド語、リトアニア語など10ヵ国語を自由に話すことができます。
コトバを色つきのイメージで吸収してしまうので、ものの数週間でゲットしてしまう。
タメットさんは語学の才能を生かし、自分のHPを通じ、語学の勉強法を教えたりもしています。
住んでいるのは、英国ケント州の片田舎。両親とネコのアビーと暮らしています。
静かなところが住みやすいそうです。
そんなタメットさんなら、日本語なんかもかんたんにモノにしてしまいそうですね。
そのうち、ケント州のコテージ風の自宅から、この番組に電話出演してくれるようなことにもないとは限りませんね。
日本にも、もちろんアスペルガーの人(子ども)がいます。そんなアスペルガーの子どもを受け入れている私立の特区学校、「ライナス学園」といいます)が神奈川県の小田原市にできたりしていますが、日本ではまだまだ、支援態勢が整っていません。
タメットさんのように、アスペルガーの才能が認められ、受け容れられて開花するような、日本社会にしたいものですね。