〔NEWS〕 P・コバーン著『イラク占領 戦争と抵抗』 酒井啓子氏が朝日新聞で書評
「中東現代政治」のわが国における第一人者、酒井啓子氏(東京外語大学教授)が5月6日付け、朝日新聞の「読書」欄に、パトリック・コバーン著、『イラク占領 戦争と抵抗』(緑風出版)の書評を寄せた。
熱がこもった、しかも的確な書評だった。そんな酒井氏の評価を受けたのはもちろん、原著者のP・コバーン氏だが、イラクで起きている真実のため、一日も早く、そして何としても必ず、原著の邦訳を送り出そうと、突貫で翻訳した訳者としては、酒井氏の書評は身にしみてありがたく、嬉しかった。
酒井氏はたとえばこう書いている。
「情報の精度だけではない。米政権がどう失敗していったか、なぜイラク人が反米化していったか、かつて存在しなかった宗派対立がいかに醸成されたか、政治分析の的確さも抜群だ」
的を射抜いた指摘である。酒井氏が言うように、「情報収集、分析力、表現力のいずれも優れた、超一流のイラクウオッチャーである」P・コバーンの筆致は深く鋭く、イラクを「完全な無法状態」に突き落とした「米政権のイラク政策の大失敗」を徹底的に暴露しているのである。
原著の出版後、コバーン氏を通じて「イラク政府」関係者が「和平案」を提起したり、コバーン氏の「(一定)評価」する人物が駐留イラク米軍の最高司令官に抜擢されるなど、本書の影響力はかなりのものである。「教科書」とは言わないまでも、ロンドンやワシントンの政府当局者の「参考書」になったことは間違いないところだ。
酒井氏からは書評のなかで、「誤植」「誤記」が多すぎるとお叱りをいただいた。今後、「重版」に向けて全面的に見直しをするつもりだが、イラクをめぐる一般マスコミ(各社間の違いもある)の表記と、専門家の正確な表記のズレをどうすべきか、頭を痛めている。
(酒井氏が書評で教示してくださったように、イスラム教「スンナ派」と、一般マスコミの「スンニ派」の違いは、その一例である。「アル」を消してしまっていいのかどうか、など、いろんな問題がある)
訳者としては通信社の表記を基準としたいわゆる「新聞表記」に拠ったつもりでいたが、力及ばずだった。申し訳ない。
Posted by 大沼安史 at 12:40 午後 | Permalink