〔いんさいど世界〕 「こびない・ひかない・なびかない」 「ブッシュはテキサスの恥」 バッシングに耐えてグラミー賞5冠 テキサスのカントリー・トリオ 「ディクシー・チック」の受賞を喜ぶ
アメリカの音楽界最高の栄誉、「グラミー賞」の授賞式が2月11日、ロサンゼルスのステープル・センターで開かれ、テキサス出身のカントリー・トリオ、「ディクシー・チックス」が年間最優秀レコード賞など5部門を受賞する快挙を成し遂げた。
バッシングに耐え続けた末、ついに獲得した栄冠だった。保守派の圧力で、いまなおトリオの歌を流さないラジオ局も多いという。
ボーカル&ギターのナタリー・メインズ(32歳)が授賞式のスピーチで、こんなジョークを飛ばし、会場の喝采を受けた。「(わたしたちの授賞を知って)たったいま、テレビのスイッチを切った人、いっぱいいると思う。ごめんなさいね」
彼女はまた、こうも語った。「今夜、この賞とともに、人びとは言論の自由を行使していると思う」
5冠もさることながら、異例の受賞スピーチだった。
ナタリーがそう語るにはわけがあった。言論の自由を行使し、激しいバッシングを受けて来たからだ。
2003年3月、ブッシュ大統領が「イラク戦争」を始める直前のことだった。反戦デモが相次ぐロンドンでのツアーで、彼女はこう言ってブッシュ政権を非難した。
「わたしたちはこの戦争を、この暴力を、望んではいない。アメリカの大統領が(わたしたちの)テキサス出身であることが恥ずかしい」
米国内ですぐさま「非国民バッシング」が始まった。
それがどれほどひどいものだったか、アメリカの反戦放送局、「デモクラー・ナウ」が抜粋を放映(⇒)したドキュメンタリー映画、「シャラップ&シング(Shut Up & Sing)」を観て知った。
「自由の共和国」という極右団体がラジオ局に圧力をかけ、「放送禁止」にしてしまった。
ヒットチャートのトップにあった「トラベリング・ソルジャー」は下位に転落し、彼女たちのCDはトラクターに踏み潰され、ゴミ缶に捨てられた。
〔3人のその後の闘いを記録したドキュメンタリー、「シャラップ&シング」は、バーバラ・コッペルという女性ディレクターが制作したもので、間もなく全米でDVD発売される。(この女性監督は、ケンタッキーの鉱山ストなどのドキュメンタリーなどで知られる人だそうだ)〕
バッシングの一方、3人への支持も集まった。
同年5月、3人はサウスカロライナ州グルーンズヴイルでコンサート活動を再開した。
1万4000人のファンが集まった。
ナタリーが舞台から叫んだ。「ブーイングしたいならしてもいいよ。これから秒読みするからね、3、2、1……」
ブーイングの代わりに喝采が返って来た。
コンサートを終えると、3人は泣いた。
バーバラ(女性監督)によれば、「南部(デキシー)の小娘」3人組は、この3年間、苦難に耐えるなかで成長したという。
政治的にさらにコミットし、自分たちで曲を作るようにもなった。
そうして生まれたのが、今回「グラミー賞」をとったアルバムの「遠くまで行くんだ(大沼意訳、原題は、 Taking the Long Way)であり、その2曲目に入った「いい子になれない(Not Ready to Make Nice ⇒)だった。
そのサビの部分は歌詞は以下の通り。
I’m not ready to make nice
I’m not ready to back down
I’m still mad as hell and I don’t have time to go 'round and 'round and 'round
It’s too late to make it right
I probably wouldn’t if I could
‘Cause I’m mad as hell
Can’t bring myself to do what it is you think I should
日本語に訳(約)してしてしまえば、わたしは「こびない・ひかない・なびかない」という意味。つまりは、意志表示の歌、プロテストソングである。
グラミー賞授賞式で、この歌をイントロデュースした反戦フォーク歌手、ジョン・バエズは3人を「この勇敢な女性たち」と紹介した。
まさに、然り。そう、彼女たちはブッシュ大統領という自国の最高権力者に戦を挑み、栄誉をつかんのだ!
ぼく(大沼)はアメリカの音楽にも昏い。しかし、フォークソングではなく、カントリーミュージックから、彼女たちのようなグループが出たことに驚きを感じた。保守的なジャンルから、こうしたパワーあふれる歌が生まれたことに驚いた。
ナッシュビルを「ふるさと」とするアメリカの「カントリー」の土は、それだけ健康であるのだ。
カントリー・ミュージシャンの重鎮にウイリー・ネルソン(Willie Nelson)という歌手がいるそうだ。
その人が70歳の誕生日を迎えた2003年の暮れ(イラク戦争第1年の暮れ)、「ディキシー・チックス」に刺激され、「地球の平和に何が起きようと(Whatever Happened to Peace on Earth)」という歌を作って歌いだした。
その歌の歌詞には、「一人の人間の命の価値は石油どれくらい分?」との一節があるという。
アメリカの「カントリー(田舎)」はブッシュのイラク戦争に怒りの歌を歌っているのである。
「デイキシー・チックス」のナタリーを除く他の2人は、マーティー・マグワイア(36歳)とエミリー・ロビンソン(33歳)。〔2人は姉妹である〕
1989年から活動を開始した3人の活動歴等については、下記の公式サイト(⇒)を見ればわかるが、サイトには出ていない(ようだ。探したけれど見つからなかった!)「データ」をひとつ、紹介しよう。
実は彼女たち、3人とも既婚で、3人合わせて7人の子どもがいて、そのなかには双子が2組含まれているという。〔バーバラ監督の話〕
そう、彼女たちは、ディキシー(南部)の小娘(チックス)ではなかったのだ。
「テキサスの肝っ玉母さんトリオ」が、ホントの姿だった。
彼女たちの果敢な音楽活動に敬意を表しつつ、その「5冠」授賞を喜ぶ。
⇒
http://www.democracynow.org/article.pl?sid=07/02/15/1528222
Posted by 大沼安史 at 05:18 午後 1.いんさいど世界 | Permalink
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