南氷洋でまたも「クジラ戦争」が勃発しました。日本の「調査捕鯨」を「偽装した商業捕鯨」だと反発する環境保護団体がまたも抗議船を繰り出し、妨害活動に入りました。
ゴムボートで体当たりしたり、酪酸入りのボトルを投げつけたり、保護団体側のプロテストもエスカレート。
対する捕鯨船団側は放水で対抗するなど、文字通り、グジラをめぐるバトルが行われました。
クジラをめぐる今シーズンの戦いは、捕鯨母船の「日新丸」が火災を起こして操業不能となり、このまま休戦となりそうです。
それにしても、気になるのは、グローバルな規模で広がる「捕鯨反日」の広がり。
日本政府の対応力が問われています。
ニュージーランドのはるか沖合いの南氷洋で操業中の捕鯨母船「日新丸」(8000トン)で火災が発生したのは、2月15日の昼過ぎ。
出火場所は船内(センカンド・デッキ)の処理工場内で、火災は17日未明まで続き、焼け跡から乗組員1人の遺体を収容しました。鹿児島県出身の牧田和孝さん(27歳)で、死因はCO中毒と見られています。
「日新丸」は昨年11月、下関を出港、ことし3月半ばまで南氷洋で操業し、英紙インディペンデントの報道では「945頭のクジラを殺害する」(日本のシドニー発共同通信社電ではミンククジラ約850頭とナガスクジラ10頭を捕獲する)予定でした。
インディペンデント紙によれば、「日新丸」の火災は、1989年に続き、これで2度目。今回の船内火災が荒れ狂ったのは、鯨油に引火したのも一因ではないかとみています。
今回の火災で「日新丸」は電気系統とエンジンがダメージを受け、自力航行不能になりました。シドニー発の共同電によると、燃料補給船が港まで曳航するとのことです。
さて、今回の「日新丸」の火災に関する世界的な反応ですが、環境保護団体の「グリーンピース」」などは、これを機会に「調査捕鯨」を止めにしてください、という姿勢ですね。
もう、2回も火災を起こしていることだし、「調査捕鯨」というのは名ばかりで、1982年以降、禁止された「商業捕鯨」そのものじゃないか、科学的調査をするのであれば、「観察」するだけでいい、殺す必要などないじゃないか、もうそういう偽装捕鯨はやめたら、いいという声が出ているわけです。
先ほども引用しましたイギリスの高級紙、インディペンデントなど、捕鯨母船が火災を起こしたことで、「クジラたちが救われた」との見出しの記事を掲げています。
捕鯨母船「日新丸」の火災について日本ではほとんど報道されませんが、世界的にはこれだけ関心を呼んでいることを忘れてはなりませんね。
「日新丸」の火災は鎮火しましたが、これで終わったわけではありません。
日新丸」から重油などが流出するのではないか、と危ぶまれているのです。
実は現場の160キロ先に、アデリー・ペンギンの営巣地(25万ペアが営巣しているそうです)があって、重油などが漂着したら、壊滅的な打撃を受けることは必死。
このため、ニュージーランド政府は「船(日新丸)を、なんとかして、南極の沿岸部から移動させなければならない」などと言っています。
南氷洋に船団を送り込んでいる、農水省所管の「日本鯨類研究所」では、燃料補給船で曳航するといっていますが、ちょっと心配です。
たぶん、曳航先はオーストラリアになるのでしょうが、どこに行くにも「南緯40度台」の「ローリング・フォーテーズ」と呼ばれる暴風圏を突破しなければならないからです。
大丈夫でしょうか?
実は「日新丸」に対して、環境保護団体の「グリーンピース」が救いの手をのばしているのです。
南氷洋に配備している抗議船の「エスペランツァ」号に曳航させましょう、と申し出たんです。
この「エスペランツァ」という船、もともとは曳航用のタグボートで、船長も海難救助のベテラン。
それなのに、日本側は、この「敵に塩をおくる」申し出を断ってしまったんです。
意地張ったとしたら、問題です。
自力曳航の成功を祈るほかありません。
さて、この救いの手をのばしてくれた「グリーンピース」ですが、ことしのバレンタインデーに、「わたしたちは日本を愛しています。でも、捕鯨に無意味だし、わたしたちのハートをブレークするものでしかありません」キャンペーンを世界中で展開しました。
「グリーンピース」としては、われわれは日本の沿岸捕鯨の伝統と文化を尊重している、しかし、調査捕鯨という名の偽装商業捕鯨に反対だ、という態度を表明し、世界に広がる「捕鯨反日」運動に釘を刺してくれたわけです。
北欧スウェーデンの首都、ストックホルムの日本大使館には、「カワイイ女の子」ルック(マンガ・ガールというそうですが)の女性メンバーが花束を届けて、大使館員に面会を求めました。
大使館側が面会には応じましたが、その花束、凶器になるかもしれないから、外に置いて中に入れ、って言ったそうです。
冷たい仕打ちですね。大人気ないというか……。
「グリーンピース」は、もっといいこともしてくれました。メンバーの一人がおばあちゃんの家で、クジラの竜田揚げなんか食べて「これは、うまい」っていう場面を収めた、「日本の沿岸捕鯨文化PRビデオ」を自主制作して、キャンペーンを繰り広げてくれたそうです。
ありがたいことじゃないですか。うれしいことじゃないですか。
そんな「グリーンピース」の曳航の申し出を無碍に断った日本側、いったい誰がどんな判断でそんな決断を下したのでしょう?
ちょい、みっともない感じがしますね。
実はこうした「グリーンピース」の「大規模偽装捕鯨」と「伝統捕鯨」をきちんと区別し、日本人が昔から続けてきた沿岸捕鯨の文化的伝統に配慮する姿勢に対して、ほかならぬ保護団体のなかから批判が出ています。
そう、クジラの竜田揚げを食べるビデオをつくったことに対して、「裏切り者」と言った批判が出ているのです。
「グリーンピース」をう槍玉にあげているのは、北米の海洋生物保護団体の「シーシェパード」。
この「シーシェパード」は今シーズン、南氷洋に2隻の抗議船を派遣し、「日新丸」船団に対して、さまざまな妨害活動を続けて来ました。
シーシャパード側によると、2月9日には海幸丸という捕鯨船に対して酪酸入りのボトルを投げ込む事件が起きています。これに対して日本側はおかげで乗組員2人が負傷したと発表、非難しましたが、シーシャパード側は「嘘付け、酪酸は無害だ」と一蹴、泥仕合っぽくなっています。
「シーシェパード」側によると、プロテスター2人が乗り組んだゴムボートが「日新丸」と接触して転覆した事故もありました。2人は8時間、漂流し、無事救助されたそうです。
昨シーズンは、グリーンピースの「エスペランツィア」が果敢な抗議抗議行動を続け、クジラの船内引き上げを45分間も阻止する騒ぎも出ていますが、ことしは「シーシェパード」が執拗に抵抗しています。
どうして「シーシェパード」の抗議行動が活発化しているかというと、日本政府の圧力で、ベリーズ政府が抗議船2隻に対する船籍付与を取り消し、無国籍船になったことで怒っているらしい。日本側の責任者(在京の財団理事長)が「海賊船による海洋テロだ」と言ったりしたことも、火に油を注いでいるようです。
彼らにしてみれば、クジラを「調査研究」で殺戮しておいて、海賊行為はお前らの方だろうが、ということになるわけですから。
しかし、こんな激しい応酬にもかかわらず、現場海域では「海の男たちのルール」がギリギリのところで守られているようです。
「シーシェパード」のプロテスター2人が海に投げ出されたとき、わが「日新丸」は海難救助のルールに基づき、操業を中止して捜索活動を続け、それに対して「シーシャパード」の船長が感謝の無線を送っています。
また、グリーンピースの「エスペランツァ」の乗り組んで日本人スタッフが、捕鯨船とアメリカ沿岸警備隊の砕氷船との交信の際、「通訳」したりもしている。
さらに「エスペランツァ」からヘリが飛んで、流氷の位置を確認して、日本の船団側に伝えたりしている。
「クジラ戦争」の南氷洋で、こうした「海の男の友情」が生まれていることはうれしいことですね。
船内火災の犠牲になった「日新丸」の乗組員に対しても、ちゃんと哀悼の意を表する電報を打っているんです。
こういう「友情」は大事にしなければなりません。
こんなときのための教訓を学ぶため、われわれ日本人はNHKテレビで信玄と謙信のドラマを観ているわけではありませんか。
日本側も、昔の「大本営」のような、かたくな「対決姿勢」をとったりせずに、受け容れるべきことは受け容れるべきでしょう。
燃料補給船での曳航が難しいなら、「エスペランツァ」に、お願いしたって構わないじゃないですか。
グリーンピースに支援を求めて、それで「大本営」の面子がつぶれたって、そんなの問題ではありません。
ペンギン生息地を守るため、日本の捕鯨船団は速やかに現場海域を脱出した!……そういう「評価」が出る方が「業界の権益」よりもはるかに大事なことです。
これ以上、「捕鯨反日」を広げてはなりません。
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http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2007021900082
http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp200702180132.html
http://news.independent.co.uk/world/asia/article2281372.ece
http://www.greenpeace.org/international/news/greenpeace-assists-whalers170206
http://www.seashepherd.org/